Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

日生劇場『ジェーン・エア』 S席2階前方上手袖

2009年09月12日 | 演劇
日生劇場『ジェーン・エア』 S席2階前方上手袖

袖席なので若干見切れは出ましたがほぼストレスなし&役者が近いので大満足。古い物語(価値観が古い)&キリスト教の思想が底辺にあるという部分、そして中学の頃原作は読んだけど(大筋しか覚えてなかった)、そういえばメロドラマだったかも…な突っ込みどころが多々ありつつ、それを含めてとても面白かったです。大満足。音楽の力って偉大だわ~。聞いていて気持ちのいい楽曲が多かったです。

ほぼ全編、歌で物語が進むのだけど、ストレートプレイに近い感触なのも面白かった。単純と言えば単純なお話で、そういう意味では深みはない。でも歌と演出の部分がとても私の好みでした。題材が地味なのでもう少し小さい小屋のほうが合うような気もしましたけど主役二人の華と芸達者な脇の方々とで空間はしっかり埋められていたとは思います。

舞台装置はかなりシンプル。荒れ果てた荒野のなかに物語の象徴となるとちの木が奥に1本、そのセットが基本で、あとは小道具の出し入れと照明で場面転換をしていきます。屋敷のなかだったり庭になったり。観客の想像力を信じている簡潔な場面転換が非常に気に入りました。また様々な形を取り、一瞬で場を変化させる照明がとても美しかったです。この照明の美しさを堪能するには2階からのほうが良いかも。

ストーリーは長編を2時間40分にまとめる為にジェーン・エアの一個の人間としての成長譚を主体にした感じ。憎しみには憎しみを、と依怙地になっていた幼いジェーンが優しい親友を得て愛に芽生え、また人として未来への勇気を抱き、哀しみに彩られた人生を切り開いていく様を力強く描いていく。ただ、好みからするとジェーンとロチェスターの心の交流の場をもう少し深いところで表現する場が欲しかったかな。そこらへんが駆け足すぎて、だからメロドラマ的な印象も受けてしまったのよね。どうせならきちんと、ラブロマンスにもして欲しかったな。

ジェーン・エア@松たか子さん、まさしく芯に力強さを秘めたジェーン・エアそのものだった。物語の進行役も勤め2時間40分、舞台に出ずっぱり。キラキラとしたその存在感で物語を引っ張っていった。凛とした佇まいのなかにジェーンの揺れ動く感情を細やかに表現。また伸びやかな歌声の美しいこと。透明感があって、そのなかに力強いハリがある。唯一、ジェーンはお顔がブサでコンプレックスを抱いてるんだけど、そこの説得力だけは無かった(笑)。たか子ちゃんはいわゆる美貌の持ち主ではないけど超可愛いし華があるし(笑)。それでも全体的にいつもの押し出しの強さは押さえぎみにしてジェーンになりきっていた感があったのが大したもの。

それにしてもいつも思うのだけど口跡の良さにはまたまたビックリ。台詞というか歌詞が全部聞き取れたのはたか子ちゃんだけ。他にも歌の上手な人はいっぱいいるのに、でも歌詞の一言一言がこんなにもクリアな人はいない…。なぜこんなにも口跡がいいのだろうか??声質が聴きやすい声質だからかな?にしてもまさか歌でもこんなに口跡がいいとは、良すぎだろう(笑)。

ロチェスター@橋本さとしさん、現在はミュージカルを中心の活躍されている役者さんですが、ミュージカルではお初。佇まいに独特の雰囲気があり存在感があります。日本の俳優さんでこういう雰囲気を持った方はあまりいないように思う。これからもっと貴重な役者さんになっていきそう。個人的には前半はもっと人を寄せ付けない、偏屈ないかにも貴族的威厳を醸し出して欲しいかな。そのなかに悩み惑う部分がある、というところがあると、皮肉めいた口調のなかの心の弱さが際立つんじゃないかな。飄々としたところも魅力的ではあるのだけどね。歌のほうはすごくお上手という感じではないけど味がある。声質はとてもよく、伸びもいいのでこなれてくるともっと上手くなるかも。ロチェスターパートの歌、かなり難しそうですから。それともうひとつのほうにはビックリ。これもかなり難しいのでは?よくぞやってのけました、という感じ。

それにしてもこの方もロチェスターにしてはかっこよすぎですねえ。ジェーンと普通に美男美女カップルなのでお互い、顔がよくないと言い合ってるところで「おいおい」とツッコミがはいる(笑)。

フェアファックス夫人@寿ひずるさん、素敵だ。私がこういうお役が好きということもあるけど、とてもバランスの取れた人物像としてのフェアファックス夫人に説得力があった。存在感ありますねえ。

ブランチ@幸田浩子さん、この方、一人だけオペラ歌手なんです。なぜに?と思いましたら、地味なジェーンと好対照にするために華やかな歌声が必要だったんだなと。また歌声が、という部分のみならず、芝居の部分でも貴族の娘らしい気位の高さをしっかり演じていらっしゃいました。コロラトゥーラ技巧も少しだけだけど聴かせてきて、さすがオペラ歌手だなあと思わせてくれました。拍手したかったんですが、残念なことに拍手が湧かず。思い切って先陣を切るべきだったかな。でもそれだけ観客の皆がジェーンのライバルの女性と認識していたってことかも。

ヘレン・バーンズ@さとう未知子さんが存在感あり。切ないお役を地に付いた芝居で演じていらっしゃいました。

他に子役がとっても良かったし、脇の方々がしっかりサポートしている感じで座組みの良さというかまとまりのあるミュージカルでした。

そういえばお話が『レベッカ』にすごく似てたかも。ええっと時代的には『ジェーン・エア』のほうが古いのか。

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『ジェーン・エア』
原作:シャーロット・ブロンテ
脚本・作詞・演出:ジョン・ケアード
作曲・作詞:ポール・ゴードン
出演:
ジェーン・エア-----------松たか子
ロチェスター-------------橋本さし
ブランチ・イングラム------幸田浩子
フェアファックス夫人-----寿ひずる
スキャチャード・他-------旺なつき
リード夫人・他-----------伊弘美
ジェーンの母・他---------山崎直子
シンジュン・他-----------西遼生
メイソン-----------------福井貴一
ブロクルハースト・他-----壤晴彦