湖の子守唄

琵琶湖・湖北での生活、四季おりおりの
風景の移り変わり、旅先でのふれ逢いなど、
つれづれなるままに、語りたい。

梅花藻の町

2010年07月31日 | 詩歌・歳時記
滋賀県で唯一、新幹線の停まる駅、米原。
まいはら、と発音する。
だが何故なのか、誰も知らないし誰からも疑問の声すら出ないのだが、
駅の名は“まいばら”なのだ。

それはともかく、
ひとつ手前に「醒ヶ井」がある。
神話時代から、その名を残す中仙道の宿場町。
町の入り口に、こんこんと湧き続ける清水がある。

その昔、熱病に冒された大和武尊がこの水で眼を洗ったところ、
熱から醒めたという。醒ヶ井の地名のいわれである。

          梅花藻や藍の浴衣の洗い髪

          湧水にゆれ咲く花や遠花火

清流の底には、梅花藻がゆれている。
8月、
その花が満開になる。水面から顔をのぞかせる可愛い小さな花。

          問屋場の前の梅花藻盛りなり

          梅花藻や襟足白く屈むひと

醒ヶ井の町が観光客であふれかえる、夏のひと絵巻。
湧水の町が、梅花藻の町として賑わうひと月である。

          梅花藻へ伸ばす二の腕雫して

          呉服屋はお休み処ラムネ売る



トントン兄ちゃん

2010年07月28日 | 詩歌・歳時記
10歳の頃だったか、東京は武蔵野市に住んでいた。
現在は住宅がびっしりと建て込んで、味も素っ気も、
情緒なんてものは、なおさらない町だろうが、
当時はおおらかで、牧歌的な雰囲気が漂う住みよい町だった。

     玉虫やむかし武蔵野林あり

中央線と是政線が分かれる辺り、
「三丁目の夕日」に出てくるような、木造二階建ての借家だった。
道の向こうに麦畑がひろがり、その先が茶畑、遥か遠くに、米軍宿舎が並んでいた。

     夜嵐の
     北多摩郡り田無町
     あの大楠よ生きてあれかし

二階を学生さんに貸していた。下宿屋でもあった訳だ。
夕飯時、学生さんを呼ぶのが、4、5歳くらいの弟の仕事だった。
「トントン兄ちゃん、ごはんですよ」可愛い声で叫ぶ。
すかさず、二階からトントン、トンと軽快に降りてくる学生さん達。

     穂麦食む 頃やひめごと あまかりき

遠い記憶の奥底から、
ある時、ふっと聞こえくる「トントン、トン」のおんなじ調子の階段踏む音が、
潮騒のような懐かしさでよみがえる。
とおの昔に失くしてしまった、純真さに充ちた時代の思い出である。

小谷山も夏の装い

2010年07月21日 | 詩歌・歳時記
長い梅雨が明けて、一気に夏がきた訳だが、
朝な夕なふり仰ぐ小谷山も、緑が深まり、夏山らしくなってきた。

以前、NHKで緒方直人の信長を放映した時、浅井長政役は辰巳拓郎だったな。

        目うらに天守を建てよ
        小谷山
        枯れ葉散りしく石くれの道


丁度、小谷城攻めの回の時、老母とふたり、登ったことがあった。
番所跡、馬洗い池、桜馬場と寄り道しながら、
ようそろと登ってゆく。
何しろ、テレビドラマで見たばかりなのだ。
臨場感たっぷり、そここに兵の喚声やら鉄砲の轟音聞くがごとし。

        合歓咲けば
        小谷ほのかに華やぎて
        お市の紅のかくやと揺れん

道はごつごつした岩の間を縫って続く。
が、長年の落ち葉降り積もり、クッションきいて、意外と足に優しい感触である。
家臣たちが集う大広間の先が、天守台である。今は小さな雑木の林だ。

        朝もやにかすむ小谷よ
        長政の夢をねむらせ
        芽吹きそむらし

更に登る。
父、久政の居館跡、出丸、そして、最高地に遺された大石垣の偉容。
半ばは土に埋もれ、昔の栄華を偲ばせているが、
淡いひかりにつつまれてほろびしものの秘かな誇りを讃えているかのようである。

観光地としてほとんど人の手が入っておらず、
自然のままのこの山が、この状態を保ちつつ、永遠に残ることを祈るばかりである。