晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ハクソー・リッジ」(16・米/豪) 60点

2017-10-29 12:41:40 | 2016~(平成28~)


・ 米軍兵の実話をもとに、壮絶な沖縄戦での美談を描いたM・ギブソン監督。




太平洋戦争の末期、沖縄戦で75人の命を救った米軍衛生兵の実話を映画化したメルギブソン監督作品。アカデミー編集賞・録音賞2部門受賞作品。

沖縄に上陸した米軍は日本軍と熾烈な肉弾戦へ突入していた。米軍二等兵デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーネット)は負傷して担架で運ばれながら、「主を待ち望む者は新しく力を得、鷲のように翼を駆って上ることができる。」という聖書の聖句が思い浮かんだ。

物語は戦場のシーンになる前に主人公ドスの少年時代から始まり、15年後に恋人との出逢いと兵役志願・訓練を経て、不名誉除隊や軍事刑務所行きを免れるまで、 彼の生立ちと青春の喜び、そして苦難が描かれている。

バージニア州で育ったドスは兄と野山を駆け巡り、取っ組み合いが絶えない腕白少年。兵役軍人だった父(ヒューゴ・ウィーヴィング)は、第一次大戦の後遺症で神経を病み酒に溺れる日々。母(レイチェル・グリフィス)は夫からの暴力に悩まされたためか、敬虔なプロテスタントの新宗教信者だった。ドスは母からは<殺人は最大の罪>と諭されている。

15年後、若い看護師テリーサ(ドロシー・シュッテ)に一目惚れ、一途な恋は受け入れられるが真珠湾攻撃があり志願兵となった兄の後を追って入隊を決意する。

ここまでで一遍のドラマとして充分見応えがあるが、物語はここからが本番。

ハウエル軍曹のスパルタ・サーキット訓練ぶりと個性豊かな新兵たちとの関係も丹念に描かれる。
ドスは優秀にも関わらずライフル訓練を拒否し、上官グローヴァー大尉(サム・ワーシントン)を手こずらせる。
結局軍刑務所行きを免れたのは、フィアンセより父親の尽力だった。出来過ぎの感は否めないがこれは史実ではなく改めて映画なのだと思い知らされる。

45年5月、グローヴァー大尉率いる77師団の衛生兵として認められ、戦場へ向かった先は沖縄浦添市の前田高地150Mの断崖絶壁・ハクソー・リッジ。

ここからはM・ギブソン監督ならではの過激さで、残酷な戦争の惨状を執拗なまでの描写。日本人である筆者には日本兵の不気味な戦いぶりが目に余り、白旗を挙げながら手榴弾を投げる卑怯な反撃によってドスが負傷するのは居心地が悪い流れで、沖縄戦であることをPRしていない配給会社の苦心の配慮が伺える。

日本の上官(阿南陸軍大将?)の切腹で終戦を暗示するのは、広島・長崎の原爆投下とは違って本作らしい手法。

もし本作が戦争の愚かさ虚しさを描くなら、浦添の住民が4割以上犠牲になったことは触れられていないなど不満も・・・。

あくまで良心的兵役拒否者(宗教上などの信念により兵役を拒否した者)として、唯一名誉勲章を授けられた英雄の美談ストーリーである。






「パトリオット・デイ」(16・米) 70点

2017-10-23 15:58:46 | 2016~(平成28~)


・ ボストンマラソン・テロ事件の知られざる事実に基づく、存在感ある俳優たちの群像ドラマ。




13年に発生したボストンマラソン爆破テロ事件をもとにピーター・バーグ監督マーク・ウォルバーグ主演コンビ3回目による犯人逮捕までの102時間を追った実録ドラマ。

まだ記憶も生々しい事件だが、オリジナルキャラクターであるトミー・サンダース巡査部長を主役に据え、捜査関係者・犯人・被害者の市民など多くの人が関わった事件の経緯をリアルに再現したドラマ。

パトリオットデイとはマサチューセッツなど3州が4月の第3月曜日に設定した祝日で、毎年ボストンではマラソン大会が開催される。117回を迎えたこの年も50万人の観衆で賑わい盛大に行われていた。

ゴール付近のボイルストン通りと沿道の店をセットで再現させ、まるで実際の大会を描写したような本物感は見事というほかない。

そのゴール付近で爆発事故が2度起こり会場はパニック状態に。警備していたトミーは何が起こったか訳も分からず会場警備とケガ人介護に奔走する。

徹底したリアリズムは現場の惨状までにおよび、リアルさを追求するあまりグロテスクなシーンも・・・。

47分後にFBIが到着、特別捜査官リック・テローリエ(ケヴィン・ベーコン)は地元警視総監エド・デイヴィス(ジョングッドマン)からバトンタッチ、巨大倉庫に捜査本部を設置、大掛かりで慎重な捜査を開始する。

FBIと地元警察の摩擦はよくあるテーマだが、本作では多少の食い違いはあったものの連携が上手くいって早期犯人逮捕の要因ともなった。

事件は犯人2人の兄弟が、どのように行動するかが観客には予め伝わっていて、一見事件とはかかわりのない人々がどう事件へ結びつくのかが分かるストーリー展開になっている。

捜査班は膨大な監視カメラのチェックや情報聞き込み数万件をどう判断するのか?地道な捜査によって白い帽子と黒い帽子の容疑者が浮かび上がっていく。

事件解決には政府・州・地元の大勢の捜査官、生存者家族、病院スタッフ、市民の協力あってこそという感動的なシーンも満載される。

なかでも8歳の少年の遺体を見張る若い警官のいも言われぬ表情、人質になった中国留学生の勇気ある通報などが印象的。

逃げる犯人と警察との銃撃戦は事実に基づく再現ドラマの典型で、ウォータータウンの老巡査部長ジェフ(J・K・シモンズ)が犯人を取り押さえるシーンはまるで西部劇のよう。

エンディングで本人たちが登場するが、K・ベーコン、J・グッドマン、J・K・シモンズという一見しただけでインパクトある個性派俳優たちの役柄がこの群像ドラマに華を添えてくれる。

徹底したリアリズムとサスペンスフルなアクションが融合するエンタテインメントはカタルシスな感動ドラマとして帰結するが、<語り継ぐのは悲劇ではなく希望>という言葉に集約されるボストン市民の力を強調するあまり、イスラム=悪という単純図式に陥りかねない危うさも感じる。

「シリアでは多くのイスラム教徒が殺されている」という犯人の妻キャサリン(メリッサ・ブノワ)の言葉が素通りしてしまっているのが惜しい。

歴史的事件をドラマ化する難しさを感じる作品でもあった。









「午後8時の訪問者」(16・ベルギー/仏)75点

2017-10-17 17:02:52 | 2016~(平成28~)


・ ポピュリズムへのアンチテーゼを唱えたダルネンヌ兄弟のヒューマン・サスペンス。




「ロゼッタ」(99)「ある子供」(05)を始め「ロルナの祈り」(09)「サンドラの週末」(14)など、貧しい者・困っている人など絶えず弱者に寄り添った作風のジャンピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟が描いたヒューマン・サスペンス。

ベルギー・リエールの郊外セランの診療所で働く女医ジェニー(アデル・エネル)は、時間外の午後8時にドアベルが鳴ったが、出ようとした研修医ジュリアン(オリビエ・ボノー)を引き止める。

翌日、近くで身元不明の少女の遺体が見つかり、刑事からベルを押したのがその少女だと知らされる。

医療センターへ栄転が決まっていたジェニーだが、共同墓地に埋葬された少女が気掛かりでならない。さらに研修医ジュリアンが医者をあきらめ帰郷してしまったのも責任を感じている。

あのときドアを開けていれば少女は助かったのでは?さらに自信を無くしていたジュリアンも医者を目指して頑張っているのでは?

ドアを開けなかったことは責任を負うことではないが、医師として診療を拒否したことで人が亡くなるという辛い体験に葛藤するジェニー。

警察が教えてくれた写真をもとに川沿いに転落して頭を打って死亡した少女の身元を探るうち、患者の少年ブライアン(ルカ・ミネラ)の不審な行動に疑問を持つ。

ドラマチックな音楽は一切なくハンディ・カメラと街並みを背景に、いつもながらドキュメンタリー・タッチを醸し出しジェニーの姿を終始追いかける。

ドラマは事件の真相を追うミステリー風だが、一人の若い女医の視点から移民・貧困・虐待・高齢化など欧米先進国共通が抱える社会問題を浮き彫りにしたヒューマン・ストーリー。

ジェニーに扮したアデル・エネルはダルデンヌ作品は初出演。最初は患者へ寄り添いすぎるという自分への戒めから冷徹さを装うが、事件をキッカケに医師という職業の在り方に真摯に取り組む姿勢をナイーブに演じている。ベランダでタバコを吸う孤独な姿がとても痛々しい。

ブライアンの父ジェレミー・レニエ、キャンピング・カー所有者オリビエ・グルメ、医療センターの医師ファブリツィオ・ロンジョーネなど、常連俳優が脇を固め層の厚さを感じる。

ポピュリズムへのアンチテーゼを唱えた本作で、7年連続カンヌ映画祭に出品したダルデンヌ兄弟。英国の名匠K・ローチと並んで弱者への応援歌を謳い続けるに違いない。



「大人の事情」(16・伊)75点

2017-10-09 12:09:59 | 2016~(平成28~)

・ スマホを公開する7人が織りなすイタリアン・コメディ




イタリアのアカデミー賞といわれるダビッド・ディ・ドナテッロ賞の作品・脚本賞を受賞した群像シュチエーション・コメディ。監督はCM出身のパオロ・ジェノヴェーゼで脚本は彼を含め5人によるものだ。

月食の夜、ロッコの家に親友レレ・コジモがパートナーとともに久し振りに集まった。バツイチのペッペは新恋人とともに来るはずだったが風邪を引いたらしく一人で現れ、7人の食事会は和やかに始まった。
お酒や食事がはずむ中、ロッコの妻エヴァがスマホを使ったゲームを提案した。
それは、メールが届いたら全員のいる場で開く。電話がかかってきたらスピーカーに切り替え話す。というたわいないが危ないもの。
夫婦や親友の秘密や疑惑がもとで、悲喜こもごもが交差していく。

群像密室劇というジャンルで思い出すのは「十二人の怒れる男」(57)、「キサラギ」(07)など人間の深層心理に迫る傑作が多いこと。

本作もスマホというパンドラの箱を開けたことにより、夫婦の浮気や隠し事・親子の悩みや家族の形態・性癖など隠された事実が明かされ、人間関係の複雑さを露呈していくさまが描かれている。

原題は「あかの他人」だが邦題はR・ポランスキー監督、J・フォスター主演の「大人のけんか」(11)にアヤカッタのかもしれない。

一歩間違えるとドタバタ喜劇やシリアスな罵り合いの人間描写作品になりかねないところを微妙なサジ加減で大人のコメディに仕上げたのはイタリア風のセンスだろうか?

スマホという秘密のブラックボックスや指輪・ネックレスなどの小道具、たばこや美味しそうなワインと食事、そして月食の夜という背景がこのドラマを巧みに運んで行く。

テンポよく進む会話に字幕を追うのに必死だったが、いつの間にかペッペの恋人ルチオの席で共に過ごしている気分にさせてくれる。

収集がつかなくなりそうな場をいつもとりまとめようとしていたのは、最初からゲームを反対していたロッコ。娘の悩みを聴いてアドバイス、妻の浮気にもさりげなく釘をさしていた大人の配慮に拍手!

スターの出演はなくてもペッペのジュゼッペ・バッティストン、レレのヴァレリオ・マスタンドレア、エヴァのカシア・スムトゥアニクなど芸達者揃い。

舞台劇のようなこの人間関係に絞ったワンスチエーション・ドラマは各国からリメイクのオーダーがあり、スペインでは製作が決定しているという。

監督には健康やお金に関わる続編の製作を期待したい。