晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ブリッツ」(11・英) 70点

2014-03-30 16:10:48 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 英国版バディ・ムービーは、ダーティ・ハリー似?

                    
 ジェイソン・ステイサムといえば独特の風貌で「トランスポーター」シリーズなどで売り出し中のアクションスター。彼が本国イギリスで荒くれ刑事役で活躍するバイオレンス・サスペンス。

 原作はケン・グルーウンのハードボイルド小説「刑事トム・ブラント」シリーズ4作目で、監督はCM出身のエリオット・レスター。

 サウスロンドン警察のブラントは容赦のない捜査ぶりで、上司からもマークされる札付き刑事。車を盗もうとした不良少年グループをホッケー・スティックで滅多打ちするなどは日常茶飯事で、度々停職させられたりする。反面同僚想いで仲間や後輩からも慕われている。

 妻を亡くし傷心のロバーツ警部が長期休暇を取る間、転任してきたナッシュ巡査部長(パディ・コンシダイン)とコンビを組むことになる。ブラント、ナッシュのコンビは英国らしい個性的な暴力刑事とゲイ刑事の相棒で、ブリッツという警察官連続殺人犯捜査で、ロンドン市内を奔走する。
 

 暴力刑事が劇場型愉快犯を追うという物語は、何となく<ダーティハリー英国版>を連想させる。一旦容疑者を逮捕しながら証拠不足で釈放するところまで一緒だが、犯人は思いのほか知能犯ではなく、動機も単純だったところに物足りなさも・・・。

 アメリカのクライム・サスペンスを期待した観客には不評だが、見所は日生活背景が見えるような脇役の描き方。タブロイド紙の記者が特ダネ欲しさに犯人に踊らされメディアの危うさを痛烈に批判したり、女性巡査が麻薬に溺れながら昇進試験に必死に挑む姿を挿入したり、情報屋というアヤフヤな存在の人物が捜査に絡んだり、英国サスペンスならではの情景が繰り広げられ、エンディングを迎える。

 英国版バディ・ムービーはエンディングも英国ならではのユーモアが入って爽快感たっぷりの終わり方だった。

「トゥームストーン」(93・米) 70点

2014-03-29 18:57:39 | (米国) 1980~99 

・ 英雄ワイアット・アープの史実をもとに再映画化した90年代の西部劇。

                    

 西部劇史上有名なワイアット・アープとドク・ホリデイの<OKコラルの決闘>。「荒野の決闘」(46、ジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダ主演)「OK牧場の決斗」(57、ジョン・スタージェス監督、バート・ランカスター主演)を始め幾度となく映画化されている。これを見直す作品もあって「墓石と決闘」(67、ジョン・スタージェス監督、ジェームズ・ガーナー主演)がその代表作。さらに90年代に入って、西部劇復活とともに新たに見直されている。類似作にケビン・コスナーの「ワイアット・アープ」(94)があるが、本作のほうがバランス良く作られている。

 冒頭のモノクロ映像では映画史上初の西部劇「大列車強盗」を引用し、ナレーターはロバート・ミッチャムを起用するという力の入れ方。できるだけ史実をもとにドラマとしても成立できるような工夫も観られる。監督はアクションを得意とするジョージ・P・コスマトスで主演のアープはカート・ラッセル。

 従来のアープは正義を全うする保安官で、街の治安を守るため悪の一味を一掃する英雄的な描き方がほとんど。本編でのアープは兄弟が住むトゥームストーンへ戻ってくるが、クスリ漬けの妻・マティを抱え金儲けのために職探しの風情。街の老保安官を撃ち殺した凶暴なカーリー・ビルをリーダーとする無法集団「カウボーイズ」と対立するが、ヴァージル・モーガンの兄弟が保安官になるのを退き止めようとする。どうやら従来の英雄像とは違う人格のようだ。

 ここで再会したのは早撃ちの拳銃使いドク・ホリデイ。青白い顔はかなり具合が悪そうだが、酒と博打は相変わらずで恋人ケイトを心配させる。アープとホリデイの友情はあまり描かれないが云わずもがなの雰囲気。

 有名な<OKコラルの銃撃戦>は中盤であっけなく終わる。アープ兄弟とクラントン一家ではなく「カウボーイズ」の一員だったクラントンたちとの偶発的な諍いだったようだ。その後の物語がメインで、リーダー、カーリー・ビルとその一味に凄腕のガンマン、ジョニー・リンゴが加わり、アープ兄弟に報復が始まる。

 アイアン・スプリングにおける一味の待ち伏せ事件でアープが孤独の闘いをするシーンと、オーク・グローブでのドク・ホリデイとジョニー・リンゴの決闘が見せ場。できるだけリアル映像に拘り、しかもこれぞ西部劇という臨場感はファンも納得。
 
 主演のK・ラッセルは如何にも地味だが、その分ドク・ホリデイのヴァル・キルマーが迫真の演技で画面を釘づけにする。おまけにドクはアープと女優ジョセフィーンとの恋の仲立ちまでする。もともと美味しい役どころだが、本作でキルマー好きになった人も多いのでは?

 できるだけ史実を踏まえながらも、政治的対立でもならず者同士の私怨でもなく、必要以上に「カウボーイズ」一味を凶暴な悪者に描くことで、アープ兄弟を正当化するのは構成上避けられない宿命。その意味では20世紀まで長生きした伝説の英雄であるワイアット・アープは、アメリカ人にとって永遠の英雄なのだ。のちに全米ライフル協会会長となったチャールトン・ヘストンのカメオ出演やエンディングがそのことを一層感じさせた。

「理由なき反抗」(56・米) 75点

2014-03-28 13:02:09 | 外国映画 1946~59
 ・50年代青春スターのシンボル、J・ディーン。


                                        
 いつの時代にも青春スターは存在するが時代を代表する鮮烈な印象を持つスターはそんなにいない。50年代世界を魅了した代表的青春スターといえばE・プレスリーとジェームズ・ディーンだろう。

 端役を除くと、たった3作であっという間に銀幕から去っていった彼の2作目で、「青春映画」と云うジャンルを映画界に確立した作品のひとつ。それまでの主人公は強くて決して人前で泣かないヒーローだったが、彼の泣き顔は従来のヒーロー像を覆したといえる。

 「夜の人々」(49)で監督デビューした原作者のニコラス・レイが、西部劇全盛期に念願かなって監督した111分。最初はマーロン・ブランド主演をイメージしていたが、本人からOKが出ず年代を下げJ・ディーンが起用された。まだ、全く無名の俳優起用のためB級映画としてモノクロで撮影開始されたが、「エデンの東」(55)が公開され大ヒットしたため、急きょカラーに昇格したという。そのためジミーのシンボル・赤いスウィングトップに白のTシャツ、ブルージーンというスタイルが世界中に広まった作品でもある。

 泥酔したジム(J・ディーン)は集団暴行の容疑者として警察に連行される。そこで出会ったのが、夜間外出して保護されたジュディ(ナタリー・ウッド)と仔犬を撃って補導されたプレイトウ(サル・ミネオ)。3人はそれぞれ悩みを抱えたドウスン・ハイスクールの同級生だった。

 映画史に残る作品だが、60年後観て素晴らしい作品とは言い難い。あの頃のアメリカは、強い父親が一家を取り仕切り、優しい母親が子供を育てるという家族制度が確立していた。その矛盾を大人や社会への漠然とした苛立ちを切り取った映像ドラマだろう。グリフィス天文台は不良仲間との殴り合いシーンに使われジミーの胸像が立ち、チキン・ランは当時若者達の危険な遊びとしてその名を広めた。

 ジミーは当時24歳でハイティーン役にはトウが立っていたが、アドリブ重視の監督とはウマが合い作品に関わった演技は、ジミーそのもののイメージとオーバーラップして迫真の演技だった。とくに哀しげな上目使いいと孤独な表情は彼ならで、後にマネをする俳優が多数出現した。今ならB・ピットかJ・デップか?

 「エデンの東」で鮮烈デビューし、「ジャイアンツ」(56)で繊細な演技に拍車がかかったジミーは、本作が一番のお気に入りだったことが窺える。チキン・ランで生き残ったジムが、撮影終了後自動車事故であっけなくこの世を去っていった。もし生きていたらどんな俳優になったことだろう。
 

 
 

「フライド・グリーン・トマト」(91・米) 80点

2014-03-27 13:18:39 | (米国) 1980~99 

 ・ 重いテーマを爽快感へ変えた絶妙のバランス。


                 

 「ドライビングMissデイジー」(89)でジェシカ・ダンディ、「ミザリー」(90)でキャシー・ベイツという2人のオスカー女優が直後に共演。本国では大ヒットしたが、日本では地味過ぎるという理由でひっそりと公開されたためあまり話題にならなかったが、知る人ぞ知るの名作と云われている。

 <若くもない、年寄りでもない40代の主婦>エヴリンは夫ともすれ違いの日々。自己啓発セミナーに通ったりするがチョコレート・バー中毒から抜けきらない。介護老人病院で出会った83歳のニニーの昔話に気を惹かれ足しげく、病院へ通う。

 それは20年代・アラバマに住む少女イジーが、兄の婚約相手ルースとともに黒人やホームレスも受け入れる食堂「ホイッスル・ストップ・カフェ」を経営する物語だった。タイトルはその名物料理である。

 ファニー・フラッグの長編小説を本人がキャロル・ソビエスキーとともに脚本化、ジョン・アヴネットが監督の130分。

 イジーとルースの時代とエヴリン・ニニーの現在が交互に映像化されるが、50年の隔たりを観客に戸惑いを感じさせないストーリー。人種差別や女性蔑視の20・30年代の米国南部は女性にとって暮らし易い所ではなかったのに、イジーは男勝りで奔放な言動は重い空気を振り払うようにエネルギッシュ。ストーリー・テーラーのニニーから過去の物語を聴くたびにエヴリンが元気を取り戻して行く。

 悲惨な事故、夫の暴力、KKKによる黒人排斥運動、ガンでの闘病、殺人事件容疑など、重いテーマが続くのに所々にユーモアが散りばめられ、何故か爽快感溢れる作品に仕上がっている。究極はシニカルな落ちだが、これはちょっぴりオーバーラン気味で被害者は保安官だ。

 2人のオスカー女優も「私はもうホラー映画の太った化け物ではない」というK・ベイツ、「街に車で出ていくとき・・・。」というJ・ダンディが自分の作品をもじって楽しむさまは微笑ましい。ハナシの主人公ニニー役のメアリー・スチュアート・マスターソン、ルース役のメアリー=ルイーズ・パーカーのWメアリーもぴったりなハマリ役。原作は同性愛だったというが、単なる友情を超えている。出番は少ないが兄バディ役のクリス・オドネル、召使いシプシー役のシシリー・タイソン、ビッグ・ジョージ役のスタン・ショウなど脇役も存在感たっぷりで話を飽きさせない。

 50年前の話を聴いてだんだん元気が出てくるエヴェリンが、行動を起こして行くところに女性の共感が得られたのだろうか?男の筆者にとって今ひとつだったが・・・。
想像したより面白い映画で、楽しい130分を過ごすことができたのは確かだ。
 
 

「ホタル」(01・日) 70点

2014-03-25 18:15:58 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
 ・ 健さんの熱い想いが動力源の<記念映画>。


               

 TVドキュメンタリーを観た高倉健が「特攻で亡くなった人を描くのは、映画人としての義務ではないか?>という熱い想いで完成した<東映創立50周年>記念映画。監督・降旗康男、撮影・木村大作は健さんとの黄金トリオ。試写会で観たのが12年半前だったことに、年月の経過の速さに驚かされる。

 平成の時代、昭和を振り返って太平洋戦争で戦った特攻隊を描いた最新作に「永遠の0」(13)があるが、<朝鮮半島出身の特攻兵を扱った>のは恐らく初めて。かなり冷え切った日韓問題を抱える現在、映画化は政治的配慮のあまり作れなかっただろう。現に河回(ハフェ)での1週間ロケ中も現地の人から詰問を受けたとのこと。半月後「教科書問題」が起きてロケはできなかったはず。

 それを除けば、相変わらず健さんらしく過去に触れることを避け、今を慎ましく生きる哀愁漂う男の人生が、心中で熱く・表面では淡々と描かれている。

 カンパチの養殖で暮らしを立てている山岡は、平成の世になって、かつての特攻隊仲間・藤枝(井川比佐志)が自殺したのを知らされる。愛妻・知子(田中裕子)が余命1年半だと分かり、戦時中彼女の婚約者だった韓国人特攻隊員金山<キム・ソンジエ>中尉(小澤征悦)の遺族を訪ねることを決断する。知覧の富屋食堂の女将さん(奈良岡朋子)から遺品を託される・・・。


 またしても、愛する女と故あって分かれなければならない男を演じる健さんは、コーヒーを飲んでも、ハモニカを吹いても、丹頂鶴のマネをしてもサマになっている。夫婦の情愛、男同士の友情、世代を超えた日本人の誇り、戦争で亡くなった人への尊敬など伝えたいこと満載の映画は若い世代に観て欲しいという願いにも拘わらず残念ながら健さんファンと中高年以外には伝わらなかったのでは?実在の富屋食堂の女将(鳥濱トメさん)がモデルの山本富子を演じた奈良岡朋子の熱演が全てを救ってくれている。

 <日韓の痛み>が解決するどころかドンドンエスカレートしている今、「韓国人が死んで、日本人のお前が生きているんだ!」と言われた山岡が「アリラン」を歌う気持ちも伝わらないのだろう。そして金山が出撃前「大日本帝国のためでなく、祖国と知子、そして山岡の友情のため出撃する」という言葉も一蹴されそうだ。

 そして映画を通して「二度と戦争を起こしてはならない」ことを伝えるために、太平洋戦争を描くことはなかなか難しい。

「クレイジー・ハート」 (09・米) 75点

2014-03-23 12:04:13 | (米国) 2000~09 

 ・薄味だが、充分楽しめた初老の男の再生物語り。

 酒に溺れ、4回も離婚した57歳のカントリー・シンガーの再生音楽ドラマ。5度目のオスカー・ノミネートで初受賞したジェフ・ブリッジスが、まるで実在人物だったような哀愁漂う演技で応えている。

 アメリカ南西部の乾いた広大な風景とカントリー・ミュージックが流れるロード・ムービーはカントリー・ファンでなくても充分楽しめる。トーマス・コップ原作を脚本化したのはスコット・クーパーで本作が初監督。

 ヒューストンに住みながら落ちぶれたドサ廻りの主人公、バッド・ブレイク。いつも酒と女が付きまとうがプライドは持ち続けている。それは一度も舞台に穴を開けないこと。サンフェタでのライブは小さな酒場での演奏だったが、ピアニストの姪・地元記者ジーン(マギー・ギレンホール)との出会いで再起を図ろうとするキッカケを掴む。

 長年の友人でもあるバーのマスター・ウェイン(ロバート・デュヴァル)がいつものことだろうと言いながら温かく見守る。例えボーリング場の片隅であろうが仕事を断らないバッドだが、唯一嫌がったのはかつて唄を教えた若手のトップ・シンガーであるトミー・スィート(コリン・ファレル)の前座。渋々引き受けざるを得なく久しぶりの再会だった。

 栄光のスターが年老いて脱落し、平凡な穏やかな生活に戻れるかあれこれ迷う人生。なんとなく前年ミッキー・ロークが演じた「レスラー」のランディに似たストーリーだが、本作は後半予定調和があって徹底的な男の悲哀ではなく、薄味で淡白さが感じられる。これを善しとするかどうかで、大分評価が違ってくるだろう。筆者は「レスラー」に、<より男の悲哀を感じて共感した>が、これは好みの差か?

 J・ブリッジスの演技には文句のつけようがないほど完璧。おまけにハスキーで甘い唄声が本物。共演のC・ファレルの唄の上手さにもびっくり!こんな師弟愛があればこそ、主人公は再生できたのだろう。

 恋人役でシングルマザーのM・ギレンホールがオスカー・ノミネートされたのは意外な感じもしたが、「ダークナイト」(08)に続いてのヒロイン役は充分期待に応えていた。眼の中に入れても痛くない4歳の愛息バディ(ジャック・ネイション)の愛くるしさも見逃せない。ハリウッドは子供と動物のキャスティングはピカイチだと再確認させられた。

 いま上手くいっていない人生を勇気づけてくれる映画を、T=ボーン・バーネットとこれが遺作となったスティーヴ・ブルトンの音楽とライアン・ビンガムの主題歌「The Weary Kind」が癒してくれる。
 
 

「ダイヤルMを廻せ」(54・米) 80点

2014-03-21 18:48:39 | 外国映画 1946~59
 ・ヒッチの歯切れ良い倒叙形式ミステリー。

 「裏窓」(54)、「泥棒成金」(55)と続くヒッチコック監督、グレース・ケリー主演3部作、最初の作品。フレデリック・ノットの大ヒット戯曲を映画化した。日本では平面で公開されたが、当時珍しい立体(3D)映画で、フレデリック・ノットの大ヒット戯曲が原作のため、ほとんどが密室劇。

 のちに「コロンボ」など犯人がネタバレで犯行がどのようになされ、どのような結末を迎えるのか?に最大の興味となる倒叙形式ミステリーの先駆けドラマでもある。

 レイ・ミランド扮する元テニスプレイヤー・トニーは、G・ケリー扮する資産家の妻・マーゴとの関係が冷えているが上辺は愛妻家を装い、妻の不倫相手マーク(ロバート・カミングス)とは友人として接している。実は半年前から9万ポンドの遺産を狙って妻の殺害を企てていた。トニーは直接手を下さず、素行が悪く金に困っている大学の先輩スワン(アンソニー・ドーソン)に目を付け、20年振りに会って1000ポンドの報酬で犯行を約束させ筋書きを話す。

 それはマークと男だけのパーティに行った夜、トニーが掛ける電話を合図にスワンが物盗りを装ってマーゴを殺すというもの。予定どおりの筈が、苦し紛れにマーゴが掴んだハサミがスワンの背中に刺さって、死んだのはスワンだった。

 ヒッチコックは、会社との契約で引き受けた作品のため最初は乗り気ではなかったようだが、なかなか凝った演出ぶりは流石。立体映画という斬新な映像にも果敢に挑戦し、殺害シーンでは1週間掛けて綿密なリハーサルを重ね9kgも痩せた?という逸話が残っている。

 F・ノットの綿密な脚本も素晴らしいが、それを映像化したヒッチのキメ細かさと歯切れ良い演出は後の作品のお手本となっている。とくに小道具には凝り性のヒッチは壁の絵や彫像は本物を使い、舞台では及ばない映像ならではの小道具がストーリーの裏付けとなるような工夫がなされている。それはステッキ、葉巻、時計、ハサミ、スカーフ、ストッキング、ハンドバッグ、お茶のトレイ、手紙、カーペットなど何らかの小道具をあてがうことで物語が進展して行く。

 60年前の作品だけに現在見ると不自然なこともあるが、当時としては止むを得ないことも多い。その最たるものはハサミが背中に刺さって死んだのに出血がないこと。これは映倫が残酷なシーンを認めなかったため。

 筋書き通りに行かないたびにトニーは冷静沈着で臨機応変に対応するところがサスペンス描写の面白さ。なにしろ観客は妻殺害が予定どおりに行われその後どうなるかを期待していたのだから。R・ミランドはこの役がハマり役でのちに同じような役ばかり廻ってくるのは、俳優として幸せだったろうか?「コロンボ」でも2回犯人役で登場しているのも記憶に新しい。

 G・ケリーは正当防衛ながら、不倫という負い目から危うく殺人犯として死刑になろうとするヒロインなのに、悲壮感がまるっきり感じられないのが不思議。観客がハッピー・エンドになると思い込んでいるせいか?赤いドレス、白いワンピース、グレーの衣装と段々地味な衣装が境遇の変化を感じさせるが何を着ても美しさは変わらないのは、演技とは無関係なこと。

 不倫相手のマークを演じたR・カミングスはアメリカの推理作家という役だが、添えモノ感が拭えない。前半画面にかなり出ている割にあっさり殺されしまうスワン役のA・ドーソンともども損な役回りだった。

 もっとも役得だったのはハバード警部役のジョン・ウィリアムス。「コロンボ」同様、事件の鍵を握るのは彼の推理とそれを裏付ける最後の仕掛けで終盤の主役。そのキーがドア鍵なのは、ダジャレにもならないが・・・。

 例によってヒッチが何処に出ているかも興味のマトだが、よほど注意していても見逃してしまうだろう。ヒントは犯人の同窓生であること。

 お洒落なエンディングまでインターミッションのある105分。目を皿のようにして耳をダンボにしても新発見のあるヒッチコックの仕掛けは止まるところを知らない。

 

「ダラス・バイヤーズクラブ」(13・米) 80点

2014-03-20 15:56:37 | (米国) 2010~15

 ・ 減量コンビの演技が秀逸で、<人生は一度きり>に共感させられる。


                    

 「レイジング・ブル」でデ・ニーロがミドル級チャンピオン、ジェイク・ラモッタを演じ別人のような増量をして以来、大幅な増減量でその人になりきることを「デ・ニーロ アプローチ」という。本作では主演のマシュー・マコノヒーと共演のジャレッド・レトがそれぞれ21Kg、18kgの減量で話題となっていた。必然性のある役柄とはいえ、それだけが先行して内容が伴わない映画もあるが本作は本物だ。

 脚本を書いたクレイグ・ボーデンは、'92、主人公ロン・ウッドルーフを取材。「ダラス・モーニングニュース」に記事を載せたことがキッカケで映画化を企画したが実現せず、20年振りにその夢が叶った。監督は「ヴィクトリア女王 世紀の愛」(09)のジャン=マルク・ヴァレ。

 '85、テキサスの電気技師でロデオ・カウボーイのロンは酒・ドラッグ・娼婦買いという、およそ常人とは程遠い生活の気ままな独身男。ある日、自分が最も毛嫌いしていたゲイが罹ると偏見のあったHIV陽性反応が出て、余命30日の宣告を受ける。

 30代半ばで人生の終止符を打たなければならない男の運命は、生きるために必死な毎日へ変貌する。まずFDA(アメリカ食品薬品局)公認・臨床中のAZTを違法に入手し、それがダメなら国外へ特効薬と言われるクスリを密輸入。メキシコを始め、ドイツ、オランダ、デンマーク、中東、日本まで自ら出向いて行く。

 最初は自分のためだったクスリを大量に仕入れ、金儲けのためにビジネスを企むところが破天荒というか逞しい。それがドラッグ・ディーラーと一見変わらない会員制組織「ダラス・バイヤーズクラブ」だ。

 この流れでは本人に同情も共感も得られないドラマの進展だが、悪友たちが離れて行くなか、善き理解者を得てFDAを向こうに廻して闘うテキサスの男へと変貌する様が観客を共感の渦に誘い込んで行く。

 善き理解者とは最も嫌っていたトランスジェンダーで、ATZの臨床患者で病院の同病床だったレイヨン(J・レト)。トランプで負けて以来の腐れ縁が、ビジネス・パートナーとなり最大の恩人でもある。金に困窮したとき、父親に金の無心をするため男装で必死に頼む姿がとても哀しい。挙句に金は工面してもらえず自分の生命保険を解約してくれた。死を恐れながら死んでいった最大の恩人を失って、ロンの行動も変動して行く。

 金儲けのビジネスから、命を救うために「個人が命の選択肢を見つけるために薬を飲む自由」を主張してFDAに訴訟するまでに行動が昇華する。
 
 現在でも、国と製薬会社・医師との薬の認可制度は何かと問題が多い実態を、改めて突き付けられた想い。善き理解者のひとりイヴ・サックス医師は、個人の倫理と法体制の狭間で葛藤する女性で、ロイが唯一手を出せなかった人。ジェニファー・ガーナーがオーバーな演技を抑え脇を支えている。

 主演男優賞のM・マコノヒーは90年代の大女優の相手役から個性派に転じ、「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」(14)ではデカプリオ相手に怪演するなど、このところ目覚ましい活躍ぶり。今回も大減量もさることながら、微妙に体調の変化を身体全体で表現してキメ細かさも抜け目がない。

 何より秀逸だったのはJ・レト。ミュージシャンとして活躍し俳優業は副業のようだったが、今回の妖艶な変貌ぶりは「蜘蛛女のキス」(85)でウィリアム・ハートが演じたモリーナを想わせる名演技だった。

 途中、いきなり渋谷の風景が現れ、天然インターフェロンの先駆者企業であった岡山・林原のヒロシ博士が登場、怪しげな日本人として失笑を買ったが、本筋にはあまり影響しないのでご愛嬌として観過ごしたい。

 C・ボーデンとメリッサ・ウォーラックのシナリオは、難病モノにはありがちな感動の嵐もなく、正義のヒーロー扱いの主人公でもないところに好感を持った。「人生は一度きりだから、今は必至で生きている気がしない。生きている意味がないよ。」と言うロンは、余命30日から充実の7年間を過ごした意味ある人生だった。クラブ・メンバーとともに拍手を送りたい。

「それでも夜は明ける」(13・英/米) 80点

2014-03-16 17:53:04 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・ 生々しい痛さとともに、奴隷制度の史実が見えてくる。


                    

 並みいるライバルたちを押しのけオスカー・作品賞を受賞したのは、南北戦争の8年前<自由黒人>だった主人公が12年奴隷として過ごした自伝をもとにした、「アメリカ・負の歴史」ドラマだった。

 <自由黒人>を主人公にした作品はタランティーノの「ジャンゴ 繋がれざる者」があったが、完全なフィクション。本作は事実をもとにしているだけにその重みは計り知れないものがあり、エンタテインメント性を無視して作られているため、賞を獲らなければ小さな単館ロードショーでひっそりと上映されていたことだろう。日比谷・みゆき座での上映ではなくスカラ座だったのは3部門受賞の賜物だ。

 アフリカ人を奴隷供給市場としていた合衆国は、1808年奴隷輸入禁止令とともに供給がストップする。そこで証明書で認められている<自由黒人>を誘拐し、奴隷商人に売るという行為が頻繁に起こっていたという。主人公のソロモン・ノーサップは生まれながらの自由黒人で、NY州サラトガでヴァイオリニストとして妻子とともに平穏な暮らしをしていた。

 2週間の約束でワシントンでの演奏興行を終え、勧められるまま祝杯を挙げ泥酔してしまう。翌朝目が覚めると鎖に繋がれていた。名前をプラットと変えられ、ニューオーリンズの奴隷商人に引き渡され悲惨な12年間が始まる。

 ドラマは終始生々しく、痛くて重いまま進んで行く。同じ残虐な痛さを伴うタランティーノ作品はアクションがあって、痛快なエンディングが待っているが、本作では主人公がひたすら耐えるのみ。理不尽な雇い主や使用人は、気に入らないとムチを使い、人間としての尊厳を無視。正視するには辛いシーンもあるが、監督のスティーヴ・マックイーンは敢えてリアルに描写することで、史実によるドラマ性を観客に伝えようとしている。

 その象徴的シーンは、何かと辛く当たる大工のティヴィッツに耐えきれず殴りかかったソロモンに、仕返しとばかり3人がかりで縛り首にしようとするシーン。監督官に助けられるが白人に刃向かった罪で彼を所有する農園主・フォードが戻るまでそのままにされる。白人は遠目で興味本位で見るだけで、黒人たちも我が身に降りかかるのを恐れ、敢えて助けることはせず知らない素振り。子供達のきゃあきゃあと遊び声が聴こえる。これが日常だと言わんばかりのシーン。

 優しい雇い主・フォード夫妻も制度の矛盾を知りながら大農園には欠かせない奴隷制度容認派。おまけに借金返済のため知り合いの農園主・エップスに売ってしまう。最大の敵役・エップスは己の弱さを全て奴隷に残虐な行為をすることで代替えをする男。ソロモンは更なる苦痛を味わうハメになる。

 主演のキウェテル・イジョフォーは直向きな性格と生き抜く知恵を持った主人公に相応しい誠実さをもって好演している。助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴとともにこれからもハリウッドでの活躍が期待される。

 脇を固めたのはマイケル・ファスペンダー、ベネティクト・カンパーパッチ、ポール・ダノ、ポール・ジアマッティなど性格俳優達が揃い、それぞれこの時代に生きるため苦悩や弱さを持った男達をリアリティ溢れる演技で伝えていた。

 登場する白人たちは、まるっきりの異常人格者とは描かれていないが、南北戦争以前のアメリカ南部は奴隷を品物のように扱う日常であることの異常さをこれほど描き切ったのは、監督を始めとする英国人が主要メンバーだったからか?また、完成に漕ぎ付け、カナダ人奴隷解放者役で出演もしたブラッド・ピットのプロデューサー能力の高さがオスカー獲得の最大の功労者だろう。

 観終わって感動に涙する映画ではないが、ハリウッドがこういう作品をオスカーに選んだのは白人至上主義ではない今のアメリカを象徴しているのかもしれない。

 

「女と男の名誉」(85・米) 80点

2014-03-15 19:15:27 | (米国) 1980~99 

 ・ サスペンスとブラック・ユーモア溢れるコメディタッチのマフィアもの。

 名匠ジョン・ヒューストン監督晩年の作で、娘のアンジェリカが影の主役としてオスカー(助演女優賞)を獲得している。コメディ・タッチで描いたイタリアン・マフィア<プリッツィ・ファミリー>の物語を軸に、殺し屋同士の男と女のラブロマンスの結末は如何に・・・。

 ジャック・ニコルソン演じるチャーリーは、ドンの相談役を父に持つ一家の殺し屋で、ドンが名付け親でもある。一家の結婚式で見染めたラベンダー色のドレス姿の女性に一目惚れ。ポーランド系の金髪美女はアイリーンといい、実は一家に雇われた殺し屋だった。

 アイリーンを演じたのは「白いドレスの女」のキャスリーン・ターナーでその美貌は全盛期。ドンフェルドの衣装が良く似合う。多少不自然な出逢いと一気に接近する不自然さを感じさせないスピーディな展開は演出の巧さか?

 2人が燃え上がり、しかも互いを殺す命令を別々に受けてしまう。鍵を握るのはドン・コラード・プリッツィ(ウィリアム・ヒッキー)と孫娘のメイローズ(A・ヒューストン)。<金を手放すくらいなら自分の子供を喰う>というプリッツィ・ファミリーを地で行くドンと女の強かさをみせるメイローズだった。

 このストーリーを「ゴッド・ファーザー」のようにシリアスに描けば、血と血でファミリーが争う壮絶な物語となるが、ブラック・ユーモア溢れるコメディ・タッチに描くあたり、J・ヒューストンの技巧を凝らした演出ぶりが冴えている。当時78歳で体調優れないながら娘のために?監督しただけあって、意外性のある洒落た??エンディングとともに、印象に残る洒落た大人のドラマである。

 トキにはオーバーなほど個性溢れる演技のJ・ニコルソンが、女優2人の狂言廻し役として抑えた演技だったのも好感が持てた。