「ファニーゲーム」(97)で映画ファンをあっと言わせて以来、話題作・問題作を作り続けているオーストリアの鬼才、ミヒャエル・ハネケが描いた<老夫婦・究極の愛>。
前作「白いリボン」(09)でカンヌのパルムドール受賞に続いて本作で連続受賞、さらにオスカー・外国語映画賞を獲得している。ハネケは<カンヌは芸術で、ハリウッドはビジネス>と公言していたので作品賞は無理と思われたが、この言葉に刺激を受けたアカデミー会員が外国語賞を贈ったのかも。
パリのアパルトマンに暮らす元音楽教師の老夫婦が、妻の病とともに徐々に幸せな生活を奪われながらも愛を貫くドラマ。<誰でも避けて通れない老いと死>を淡々とリアルに情け容赦なく描写している。「人生はかくも長く、素晴らしい」というキャッチフレズに惹かれハネケ作品を初めて観たら、想像を超えた現実を見せられ驚いたことだろう。
アンナが病に倒れ、衰弱して行く姿を受け止め老々介護の覚悟を決めた夫ジョルジュ。献身的な介護にも関わらず、痛ましい老いの姿を曝す妻。窓から入ってきた鳩に美しく優雅だった妻を重ねたのだろう。これこそハネケらしい<究極の愛>だ。
ジョルジュを演じたのは「男と女」(66)、「Z」(69)のジャン=ルイ・トランティニャン。アンナを演じたのは「ヒロシマ モナムール」<二十四時間の情事>(59)、「トリコロール/青の愛」(93)のエマニュエル・リヴァ。ふたりともフランスを代表する俳優でブランクを感じさせない名演技だ。とくにE・リヴァは85歳ながら、品格があり控えめで、さり気ない演技に拍手を送りたい。
娘エヴァに扮したのは「ピアニスト」(01)で抑圧された中年女の哀しさを激しく演じたイザベル・ユペール。愛する両親の苦境を救えないもどかしさを、抑えた演技で観客の共感を呼んでいる。例によってBGM的音楽は一切使わないが、ピアノのサントラは実名で登場しているアレクサンドラ・タローによるもの。リアルなSEとともに、この静寂なドラマに効果的アクセントをもたらしている。
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