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先日のスキー帰りの電車の中でのこと。
酒をカッ喰らって、おだをあげる酒飲み一行。
話は仕事から、映画からよもやまに及び、やがてラーメンの話になった。
オレの前に座ったEさんは、義母の会社の編集者で、
歳は50を過ぎているが、スノボを社内の誰よりも早くはじめ、
テニスやボディボード、シュノーケリングなどなど
また、もちろんグルメとはいかないまでも、出張で日本全国を飛び回り
その土地に行ったら、その土地の旨いものを喰うという
旨いものと遊び全般に精通した人なのだ。
そのEさん曰く
「うちの会社のTは近くにある『S』のラーメンが日本一旨いと言ってる」
その店のことは知っているが、あいにくまだオレは喰ったことがない。
「Kさんも旨いと言っているんだよなぁ」
このKさんという人は、やはり同じ会社の営業マンで、歳はもう60歳を越え、
人柄は悪くないのだが、如何せん『味覚の怪しい人』ともっぱらの評判なのだ。
いや、味覚云々より、喰いものに興味がないといったほうがいい。
酒飲みのクセに、とんと喰いものにこだわらない。
早くいえば「腹に入ればなんでもいい」というタイプの人なのだ。
そのKさんの話題から、昨年の沖縄の話になった。
実はこのKさんこそ、沖縄での初日の食事をコーディネートした人なのだ。
沖縄に着いた初日の、あの悪夢のような昼メシ…
せっかくの沖縄というのに、オレ達ご一考様を前にして
「なんでもいいだろ?」と、ホテルの最上階にある
フレンチレストランへ連れていってくれたお人である。
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「だからさぁ、Kさんに飯を任しちゃ駄目だって。
喰いものに興味のない人なんだから」
その日、ちょうど沖縄では別行動をとっていたEさんが笑いながら言う。
お断りしておくと、そのフレンチレストラン、お味は大変に結構。
しかし、である。
Eさん同様に、オレもその土地に行ったら、その土地ならではのものを喰いたい。
俗に「名物に旨いもの無し」というが、旨い不味いのモンダイではないのだ。
東京でも喰えるものは、東京で喰えばいい。
どんなに不味かろうと、そこでなければ喰えないものこそ、旅の醍醐味なのだ。
「オレはどうも、そのTやKさんが旨いという『S』は口に合わないんだな」
聞くと、その『S』は昔ながらの東京風の、ショッパめの醤油ラーメンらしい。
昔風東京ラーメンは、オレが喰い慣れた実家のラーメンと同じだ。
まだ未食ではあるが、きっとオレの口にも合うであろう。
「確かにT君の好みもあてにならないよね。オレもあるラーメン屋を
“旨いから食べてみて”と言われて喰いに行ったけど、そうでもなかったし」
「だろ?あいつも駄目だ!
じゃぁさ、○○くん(オレ)が『日本一!』と思うラーメン屋はどこ?」
オレはしばし考え、答えた。
「『べんてん』ですね。『大勝軒』の野菜つけ麺も旨いけど、
ラーメンなら間違いなく『べんてん』」
「ほぅ!『べんてん』。どこにあるの?」
「高田馬場にあります」
などと話していると、隣の席にいたニョウボが口を挟んでくる。
「そんなに美味しいなら今度連れてってよ」
「べんてん」にうちのオンナ・コドモを連れていかないのには訳があった。
「べんてん」といえば、いわゆる『行列の出来る』店なのである。
しかも量がベラボーに多い。通常のラーメンの2倍。
「多い」と言われている「大勝軒」よりも多いのだ。
もちろん「少な目」という注文の融通も利くが
ここは「家族連れ」でのんびりとラーメンを喰える店じゃない。
「吉野家のコピペ」じゃないが殺伐とした店なのだ。
しかし以前のように、昼だけの営業ではないというのが救いだ。
最近の「べんてん」は夜9時頃まで営業していると聞く。
「もし『行列』と『量』の覚悟があるなら、今度連れて行ってやるよ」
「行列かぁ…」
ニョウボはやや躊躇したような口振りになり、Eさんに話を振った。
「ねぇ、Eさん、ラーメンって行列してまで食べたいと思いますぅ?」
「う~~~ん」
もしここでEさんがニョウボに同意したら、さっきのEさんのセリフは嘘になる。
「でも『日本一のラーメン』なら、少々並んでもいかな」
なにも1カ月も前から予約しないと喰えない訳じゃない。
Eさんはオレに聞く。
「どれくらい並ぶの?」
「そうですねぇ。オレは最高で40分くらいかな」
「そりゃちょっとツライなぁ」
「でしょ~?もっと美味しい店、きっとあるって!」
とニョウボ。ならその“もっと美味しい店”に行くがいい。
つか、紹介してくれ!
「一番ベストはさぁ、並ばないで美味しいところよね」
あたりまえだ、んなもん。
そんな店があるならオレだってホイホイ行くわ、んなもん。
それでも夜の営業なら、昼間ほどは混まないかもしれない。
高田馬場という街の性質上、この「べんてん」は学生が多い。
いつだったか、時間の関係で5時~6時頃に行ったことがあって、
その時は空席さえあり、あの「べんてん」で窮屈な思いをせずに喰えたことがある。
「よし。じゃぁ今週中に行こう。夜!」
というわけで今日、行ってきましたよ、家族連れで「べんてん」へ。
時間は7時半頃だったか。
車を停め、店の前まで行くと、7~8人が列をなしている。
「おい、並んでるよ。どうする?」
「ここまで来たんだから行こうよ」
というわけで、4人で列の最後尾についた。
息子は往生際悪く、
「やだよ~、コンビニで何か買って帰ろうよ」
「うるせぇ!ココまで来てコンビニなんか行けるか!イヤなら帰れ!」
文句を言いつつも、意外に回転はよく、10分ほどで中に入れた。
子供らは「つけ麺」。ニョウボは
「日本一なんでしょ?じゃラーメンにする」
それでも娘とニョウボが麺をかなり少な目にして貰った。
息子は普通盛り。オレはラーメン。
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無言で麺を啜り、少な目にして貰った娘とニョウボは無事に完食。
息子は、あと一~二箸というところでギブアップはしたものの
それでも皆「美味しい」「また来たい」との評判を聞いた。
薦めたオレも、コレなら鼻が高いというものだ。
人の好みはそれぞれだ。
T君やKさんが日本一というなら、その店はきっと日本一なのであろう。
オレの好みと違ったところで、それは好みの問題であって
彼らの舌がおかしいというわけじゃない。
コンビニの弁当がご馳走であったり、息子のように「松屋」の豚めしが
日本一旨いと思えば、それはその人の「日本一」なのだ。
さて、振って湧いた電車内の「日本一決定戦」
次回は赤コーナーの挑戦を受けてたとうではないか。