無明長夜もかくばかり…

食のこと、家族のこと、ペットのことや日々の雑感… 
手探りをしながら、書き綴っていきたいと思います。

日本一はどこだ!

2006-03-08 | 


先日のスキー帰りの電車の中でのこと。
酒をカッ喰らって、おだをあげる酒飲み一行。
話は仕事から、映画からよもやまに及び、やがてラーメンの話になった。
オレの前に座ったEさんは、義母の会社の編集者で、
歳は50を過ぎているが、スノボを社内の誰よりも早くはじめ、
テニスやボディボード、シュノーケリングなどなど
また、もちろんグルメとはいかないまでも、出張で日本全国を飛び回り
その土地に行ったら、その土地の旨いものを喰うという
旨いものと遊び全般に精通した人なのだ。
そのEさん曰く

「うちの会社のTは近くにある『S』のラーメンが日本一旨いと言ってる」

その店のことは知っているが、あいにくまだオレは喰ったことがない。

「Kさんも旨いと言っているんだよなぁ」

このKさんという人は、やはり同じ会社の営業マンで、歳はもう60歳を越え、
人柄は悪くないのだが、如何せん『味覚の怪しい人』ともっぱらの評判なのだ。
いや、味覚云々より、喰いものに興味がないといったほうがいい。
酒飲みのクセに、とんと喰いものにこだわらない。
早くいえば「腹に入ればなんでもいい」というタイプの人なのだ。

そのKさんの話題から、昨年の沖縄の話になった。
実はこのKさんこそ、沖縄での初日の食事をコーディネートした人なのだ。
沖縄に着いた初日の、あの悪夢のような昼メシ…

せっかくの沖縄というのに、オレ達ご一考様を前にして
「なんでもいいだろ?」と、ホテルの最上階にある
フレンチレストランへ連れていってくれたお人である。



「だからさぁ、Kさんに飯を任しちゃ駄目だって。
喰いものに興味のない人なんだから」

その日、ちょうど沖縄では別行動をとっていたEさんが笑いながら言う。
お断りしておくと、そのフレンチレストラン、お味は大変に結構。

しかし、である。

Eさん同様に、オレもその土地に行ったら、その土地ならではのものを喰いたい。
俗に「名物に旨いもの無し」というが、旨い不味いのモンダイではないのだ。
東京でも喰えるものは、東京で喰えばいい。
どんなに不味かろうと、そこでなければ喰えないものこそ、旅の醍醐味なのだ。

「オレはどうも、そのTやKさんが旨いという『S』は口に合わないんだな」

聞くと、その『S』は昔ながらの東京風の、ショッパめの醤油ラーメンらしい。
昔風東京ラーメンは、オレが喰い慣れた実家のラーメンと同じだ。
まだ未食ではあるが、きっとオレの口にも合うであろう。

「確かにT君の好みもあてにならないよね。オレもあるラーメン屋を
“旨いから食べてみて”と言われて喰いに行ったけど、そうでもなかったし」
「だろ?あいつも駄目だ!
じゃぁさ、○○くん(オレ)が『日本一!』と思うラーメン屋はどこ?」

オレはしばし考え、答えた。

『べんてん』ですね。『大勝軒』の野菜つけ麺も旨いけど、
ラーメンなら間違いなく『べんてん』」
「ほぅ!『べんてん』。どこにあるの?」
「高田馬場にあります」

などと話していると、隣の席にいたニョウボが口を挟んでくる。

「そんなに美味しいなら今度連れてってよ」

「べんてん」にうちのオンナ・コドモを連れていかないのには訳があった。
「べんてん」といえば、いわゆる『行列の出来る』店なのである。
しかも量がベラボーに多い。通常のラーメンの2倍。
「多い」と言われている「大勝軒」よりも多いのだ。
もちろん「少な目」という注文の融通も利くが
ここは「家族連れ」でのんびりとラーメンを喰える店じゃない。
「吉野家のコピペ」じゃないが殺伐とした店なのだ。
しかし以前のように、昼だけの営業ではないというのが救いだ。
最近の「べんてん」は夜9時頃まで営業していると聞く。

「もし『行列』と『量』の覚悟があるなら、今度連れて行ってやるよ」
「行列かぁ…」

ニョウボはやや躊躇したような口振りになり、Eさんに話を振った。

「ねぇ、Eさん、ラーメンって行列してまで食べたいと思いますぅ?」
「う~~~ん」

もしここでEさんがニョウボに同意したら、さっきのEさんのセリフは嘘になる。

「でも『日本一のラーメン』なら、少々並んでもいかな」

なにも1カ月も前から予約しないと喰えない訳じゃない。
Eさんはオレに聞く。

「どれくらい並ぶの?」
「そうですねぇ。オレは最高で40分くらいかな」
「そりゃちょっとツライなぁ」

「でしょ~?もっと美味しい店、きっとあるって!」

とニョウボ。ならその“もっと美味しい店”に行くがいい。
つか、紹介してくれ!

「一番ベストはさぁ、並ばないで美味しいところよね」

あたりまえだ、んなもん。
そんな店があるならオレだってホイホイ行くわ、んなもん。

それでも夜の営業なら、昼間ほどは混まないかもしれない。
高田馬場という街の性質上、この「べんてん」は学生が多い。
いつだったか、時間の関係で5時~6時頃に行ったことがあって、
その時は空席さえあり、あの「べんてん」で窮屈な思いをせずに喰えたことがある。

「よし。じゃぁ今週中に行こう。夜!」

というわけで今日、行ってきましたよ、家族連れで「べんてん」へ。
時間は7時半頃だったか。
車を停め、店の前まで行くと、7~8人が列をなしている。

「おい、並んでるよ。どうする?」
「ここまで来たんだから行こうよ」

というわけで、4人で列の最後尾についた。
息子は往生際悪く、

「やだよ~、コンビニで何か買って帰ろうよ」
「うるせぇ!ココまで来てコンビニなんか行けるか!イヤなら帰れ!」

文句を言いつつも、意外に回転はよく、10分ほどで中に入れた。
子供らは「つけ麺」。ニョウボは

「日本一なんでしょ?じゃラーメンにする」

それでも娘とニョウボが麺をかなり少な目にして貰った。
息子は普通盛り。オレはラーメン。



無言で麺を啜り、少な目にして貰った娘とニョウボは無事に完食。
息子は、あと一~二箸というところでギブアップはしたものの
それでも皆「美味しい」「また来たい」との評判を聞いた。
薦めたオレも、コレなら鼻が高いというものだ。

人の好みはそれぞれだ。
T君やKさんが日本一というなら、その店はきっと日本一なのであろう。
オレの好みと違ったところで、それは好みの問題であって
彼らの舌がおかしいというわけじゃない。
コンビニの弁当がご馳走であったり、息子のように「松屋」の豚めしが
日本一旨いと思えば、それはその人の「日本一」なのだ。

さて、振って湧いた電車内の「日本一決定戦」
次回は赤コーナーの挑戦を受けてたとうではないか。