昨日のこと。
土曜日の夜は家族揃って外食が通例であるが
どうしても鍋焼きうどんが喰いたくて喰いたくて仕方がなかった。
ところが、日本そば屋というのは、比較的閉店時間が早い。
取りあえず「明日の晩は鍋焼きうどん」と決め、
いつもの中華屋で晩メシを済ませた。
日曜日。
掃除洗濯チャッチャと済ませ、ニョウボと娘は買い物へ。
オレは近所のスーパーへ、鍋焼きうどんの材料の買い出し。
鍋焼きうどん自体は、自分で麺を打たない限り難しくも何ともない。
市販のうどん玉に、市販のめんつゆで事足りる。
あとは「乗せもの」。
天ぷらにかまぼこ、ネギ、麩などなど。
肝心なのは、文字通り「鍋」である。
大きな鍋はあるが、一人用の小鍋がない。
「大きい鍋でいっぺんに作ればいいじゃん」
娘が言う。
「それじゃ『鍋焼きうどん』じゃなくて『うどん鍋』だろ!」
スーパーの2階に生活用品のコーナーがあり
そこでは食器類も取り扱っている。
早速一人用の鍋を物色すると、これが思いのほか高い。
「べつにそんな大層な鍋じゃなくてもいいんだよなぁ…」
近くに100円ショップのあることを思い出し、
もしその100均になかったら、このスーパーで買うということで
ダメ元で出かけてみたら…ありましたよ、手頃なのが。
いやぁ、100均って凄ぇ!
買う・買わないより「こんなのまで100円かよ!」と
突っ込みつつ、冷やかして歩くのが楽しい。
無事に鍋をゲットし、あとは具材の調達。
残念ながら、エビ天が売り切れていたので、穴子天で代用。
な~~べ焼き~~うどん~~~
用意をしつつ、心の中で「売り声」を上げてみる。
古典落語の舞台である江戸は、やはりそばが有名だが
うどんの出てくる噺もちゃんとある。
有名なところでは「うどんや」。上方落語では「風邪うどん」。
江戸落語の「いまなん時だい?」でおなじみ「時そば」は
上方だと「時うどん」となる。
五代目小さん師の十八番「親子酒」でも上方の演出だと、
うどん屋の屋台の主人にくだを巻くシーンがある。
亡くなった桂枝雀師の「うどん屋くん!」「すびばせんね」
といった、あの独特の調子のフレーズが楽しい。
変わったところでは、五代目志ん生師の「探偵うどん」
「うどん食べてってくださいよ」
「うどん?きれぇだ。メメズ(ミミズ)みてぇで、でぇっきれぇだ」
江戸っ子訛りの「メメズ」というのが可笑しい。
ちなみにメンチカツも、本来なら「ミンチカツ」なのだが
メンチカツ発祥と言われる、東京の洋食店の主人が江戸っ子の訛りで、
正式な「ミンチ」を「メンチ」と読んだのが語源と言われるが
真偽のほどは定かではない。
腹の減っている時に「うどんや」なんて噺を聞くとたまらなくなる。
先の枝雀師、小さん師などは、そばやうどんはもちろん
物を喰う仕草がとても上手い人たちだった。
寄席の跳ねたあと、近所のそば屋が満席になったと言う逸話もある。
「ふ~ふ~」と息を吹き、一気に「ゾゾゾゾ~ッ」とすする。
咀嚼した後、「ズズズ~~ッ」と汁を吸い、「あ~~」と息をつき
トドメに鼻水を一つすすり上げる。
字で書くと臨場感もヘッタクレもないが、音で聞くとたまらない。
直接器に火をかけた、アツアツの鍋焼きうどんが
そんなに勢いよくすすれるものかどうかはともかく
やっぱり、この噺を聞くと、たまらなくうどんが喰いたくなる。
枝雀師、小さん師の他、八代目の三笑亭可楽師、
また、小さん師の弟子で、当代の小三治師の「うどんや」もいい。
ちょいと、軽く「うどんや」のあらすじをば…
ある寒い冬の夜。
屋台の鍋焼きうどん屋が町を流している。
しかしここのところ不景気で、碌な客がやってこない。
やたら火をくべさせ、暖を取るばかりで
うどんを喰おうともせず、同じ事を何度も繰り返す酔客。
ようやく開放され、大きな声で売り声を上げれば
「子供が寝てるんだから静かにしろ」といわれる始末。
「いやだいやだ…まったく碌な客が来やしねぇ…」
ぼやいていると、ある大店の裏口で、声を殺して呼ぶ声がする。
「うどん屋さ~~ん」
それを見たうどん屋は一人ごちる。
「あんなところで呼んでるねぇ…大きなお店だナァ
そうか、きっと主人に内緒で、うどんを喰おうてぇんだな。
こんな大きなお店だから、奉公人は10人からいるだろうねぇ。
1人1杯でも10杯、代わりが出れば20杯…
そういえば、あの酔っ払いが言ってたぞ。
“良い後は悪い、悪い後は良い”って…
こりゃぁ、あんまりガッカリしたもんでもないかな。
よし、内緒で来るんだから、こういう時は大きな声を出しちゃダメだ。
(同じように声を殺して)へぇ~~い、おうどんですか?」
「熱くして下さい」
腕に選りをかけて、1杯のうどんをこしらえる。
旨そうに喰う客。
「おいくらですか?」
他にも大勢の奉公人が出てくるものだと思ってたうどん屋は
1杯だけと知り、ガッカリして、また荷を担いで帰ろうとすると
後ろから、さっきの客が声を殺して呼び止める…
「うどん屋さ~~~ん」
お?これは!っと思って、喜んで振り返ると…
「お前さんも風邪、ひいたの?」
おあとがよろしいようで…テケテン
小さん師は酔っ払ってグダグダと絡んでくる酔客を
面白おかしく、またややしんみりとさせる演出を入れ
枝雀師は、近所に内緒で博打に高じる若い衆たちが
大勢でうどんを喰うというシーンが入る。
江戸と上方の演出の違いが楽しめるが
最後の、「大きな商いになるのではないか?」という
うどん屋の期待と落胆の表情が面白い。
さて
うどん玉を一旦水でほぐし、鍋に入れる。
出汁を張って、上に具をのせていく。
今回は穴子天、かまぼこ、麩、長ネギに、生卵を落とす。
これを火にかけ、フタをしてしばし待つ。
玉子の白身が固まってきた頃に、火から下ろし食卓へ。
唐辛子を振って、舌を火傷しそうになりながら喰う。
玉子の黄身を崩し、麺に絡めて喰う。
サクッとした歯応えの残っているうちに、天ぷらをかじる。
次第に汁を吸い込んで、衣が汁に溶け出すのも、また旨し。
もう額には汗がにじんできた。
床暖房を切り、窓を開ける。
熱さでしびれる舌を、時折水で冷やしながら、
更にズバズバとすすり込んでいく。
嗚呼…幸せでゲス。
許されることなら、残った汁にメシを投入したいところだが
ここは我慢我慢…
寒さの厳しい日曜の夜のお話。
風邪が流行っています。
召されたお方は、熱い鍋焼きうどんなど
いかが?
おそまつさま&ごちそうさまでした!
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