佐藤直曉の「リーダーの人間行動学」 blog

リーダー育成のための人間行動と人間心理の解説、組織行動に関するトピック

リーダーの暗示学622――伝動戦略を知っていると相手の手の内が見えることがある2

2006-10-18 10:15:55 | 伝動戦略
昨日は拙著『伝動戦略』の解説をいたしましたが、今日もこれについて触れましょう。この戦略は「影響力の伝播戦略」ということなのですが、何でもって伝播させるかという点について少し。

 
「伝動戦略においては、何が伝播媒体か」
 今朝の日経新聞二面に囲み記事があって、そこにはこうありました。

「■あつものに懲りた 
『北朝鮮の核実験と日本の防衛についてだけは話さない』(自民党の中川昭一政調会長が党本部での講演で)」

 昨日書いたように、中川さんの行動は、アメリカと安倍さんとが裏でツーカーでやったことだと思います。中国は以前よりやる気を出していますから、効果は十分あった。これ以上やるとへんな方向に行きかねないから、このあたりで幕引きということでしょう。
 
 さて、伝動戦略の基本は「影響力の伝播」ですが、その媒体は何かということを論じましょう。

 たとえば津波というのは水を媒介にして波のエネルギーが伝わっていきます。では人間とか組織ではどうか。
 
 言うまでも無く、それは人間の心です。これを感応現象とも言います。90年初めでしたか、東欧がドミノ的に民主化されましたね。あれなんかは、まさに心の〝津波〝のように私には思えました。
 
 そういうことをうまく説明する事例がないか、私はいつも探しているのですが、ビジネスではなかなか表に出ないため見つけにくい。それで、どうしても戦争の話題が多くなります。
 
 戦争の場合は、非常に緊迫しているので、そういうものが端的に表れます。ですから、そういうものをヒントにして、日常生活に用いればよいだろうと、私は考えています。
 
 戦争の場合は何が媒体になっているかと言うと、「恐怖心」がいちばん大きいでしょうね。私は戦争に行ったことがないので、気楽に文章を書いていますが、戦地に行ったら、こんな気楽ではいられないでしょう。
 
 たとえば、少数の軍隊が大軍を相手に勝利できるのは、恐怖の伝播があるからです。義経の鵯越の逆落としあたりはよい例ですね。

 平家は予想もしない背後から虚をつかれたわけですが、それでも騎馬の数はたかだか百騎程度だった。それに対して、平家軍は少なくても五千くらいはいたでしょう。(平家物語にはもっと大きな数字がありますが、実態はよくわからないようです)。
 
 義経の軍勢はたいしたことはない。ところが、平家の兵士はあわてふためいてしまう。そもそも義経の騎馬数がつかめないからですが、源氏の大軍が一気に攻め込んできたと想像してしまったのです。

 戦場では恐怖心が常につきまとっていますから、冷静に考える余裕がなくなって恐怖の連想が生まれてしまうのです。恐怖心にひとたび火がつくと、どんどんまわりの人間に伝播していき、総崩れになる。
 
 日露戦争でも、ロシア軍は背後をつかれて退路を断たれることを、ものすごく気にしていました。また、食糧庫や武器庫、あるいは鉄道を破壊されるのを恐れていたと思います。

 もっとも、日本軍はそういう発想はあまりなかったようです。しかし、日本軍がそれをしなくても、ロシア軍というか、ロシア軍の大将はそれを恐れているから、自分で勝手に連想して、どんどん退却していくわけです。
 
 それから、昨日の例で言えば、中川さんのコメントは、中国の核拡散に対する危惧を刺激しているわけです。日本人からすれば、仮に日本が核武装を決意するとしても、何年もかかるでしょう。とても今すぐどうのこうのという話ではない。

 しかし、中国はそういうことをいつも気にしているから、どうしても「日本はすぐにも核武装する」という発想が浮ぶのです。これが「観念」という、潜在意識の働きのなせる業なのです。
 
 このように、相手の気にしていることを用いれば、非常に効果的に影響力を伝播できます。また、相手が予想もしていないことを行うと、相手を混乱に導くことができます。
 
 しかし、戦争のテーマは破壊です。私としては創造のことをもっとやりたい。そこで考えるべきは恐怖の伝播ではなく、希望や勇気の伝播です。
 
 それをビジネスの戦略としたのが拙著『暗示型戦略』です。これはどうやって希望や勇気の核をつくり、それを組織に伝播させていくか、という戦略なのです。
 
 ですから、伝動戦略も暗示型戦略も同じことといえば言えないことはありません。両方読んでいただければ、理解がさらに深まると思います。
 
 ついでに言うと、この暗示型戦略をさらに個人ベースに適用するとどうなるかというのが『リーダーの暗示学』です。このなかで触れている「暗示の基本型」というのは、上の中国の例で述べた「潜在意識の観念」の効果的な用い方について書いてあります。

 これを組織戦略というか、マクロなものに適用したのが『暗示型戦略』『伝動戦略』ということになるわけです。

 ですから、『リーダーの暗示学』というのは、私の本の中では、元素のようなもので、ほかの本は分子のようなもの、といった感じでしょう。
 
 ついでに言うと、伝動戦略は自分のかかわるシステムをどう動かそうかという視点で書いていますが、『先見力訓練法』は外から眺めている感じですね。自分で組織やシステムを動かそうというよりも、まわりがどう動いていくかを観察する方法論、訓練法です。しかし、発想は伝動戦略と同じです。
 
 来年の1月には『リーダー感覚』が出版される予定ですが、ここではそういうものを踏まえて、「ではリーダーとして、どういう訓練をすれば、そういう心構えがもてるだろうか」という視点で書いています。

 私の考えでは、戦略論や暗示技術だけを学んでも、それをうまく運用できるとは限りません。人がついてくるには、それなりの「人気」とでもいうようなものが必要です。人によっては、それを度量とか人間力と呼んでおりますが、とにかくそういうものを育てないと、人はついてきません。私はそう思っている。
 
『リーダー感覚』では、個々の戦略技術や管理技術には触れていません。そういう類は、私のこれまでの本や専門書に任せるとして、ここでは伝動戦略やリーダーの暗示学を使いこなせるリーダーになるにはどうしたらいいか、という視点で書いています。

 ただ、ふつうに「リーダーはこうあるべし」というのではお説教だけになってしまいます。私は、実践できないものは役に立たないと思います。そこで、そういうリーダーになれるように、リーダーとしての行動、思考や心構えが自然に身につく訓練法を紹介しています。
 
 しかし、この本でもまだ書ききれていないことが実はあるのです。それは人間を観る見方についてです。本当はみなさんにとって、これがいちばん役にたつかもしれませんね。

 私は平均よりは人間を観る目をもっていると自負してはいますが、それでもまだまだ力不足です。それで、そういう類の本をまだ書けない。というより、一生書けないでしょう。
 
 このブログでも、時々はそういう類のことを書いてはいます。けれども、まだまだわからないことだらけです。
 
 私の能力はその程度のものですが、時には、中途半端なものでも、書けばそれなりにみなさんの参考にはなるかなとも思います。そのあたりは私の悩みですね。


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