NPO法人 三千里鐵道 

NPO法人 三千里鐵道のブログです。記事下のコメントをクリックしていただくとコメント記入欄が出ます。

検察総長の辞任

2013年09月16日 | 南域内情勢

辞任したチェ・ドンウク検察総長(9月13日)



9月13日、蔡東旭(チェ・ドンウク)検察総長が辞意を表明した。16日にも辞任式が行われるという。発端は9月6日付『朝鮮日報』1面に掲載された、「検察総長の隠し子疑惑」という記事だった。チェ総長は疑惑を全面否定し、9日には『朝鮮日報』に訂正報道を要求した。婚外子の疑惑を晴らすためなら遺伝子検査を受ける用意があるとも表明していたチェ総長が、なぜ急に辞任を選択したのだろうか。前日、ファン・ギョアン法務部長官が最高検察庁に対し、検察総長への監察指令を出したことが決定的な要因と言われている。その時点でチェ総長は、「見えざる手」の強い意向を感知したのだろう。「見えざる手」とは、任命権者である朴槿恵大統領を指している。

韓国の権力構造において、国家情報院と検察は、大統領の政権運営を支える二本柱と言えるだろう。大統領に絶対的な忠誠を誓う人間でなければ、登用されない。ただし、組織系統では国家情報院長が大統領直属であるのに対し、検察のトップである総長は法務部長官の指揮下に置かれる。チェ総長とファン長官の間で軋轢が生じたのは、ウォン・セフン前国家情報院長の起訴をめぐる対立からだった。

昨年の大統領選挙に際し違法な世論操作を指揮した件で、前国家情報院長は検察の厳しい調査を受けた。現大統領の意向を反映したファン法務長官は不起訴の方針を伝えたが、チェ総長はそれを受け入れず、公職選挙法違反の罪で起訴した。一線の検事たちと国民の多数が、チェ総長の正義感と勇気に惜しみない声援を送ったことは言うまでもない。

しかし、韓国社会の権力構造から見れば、チェ総長の決断は大統領の逆鱗に触れる許し難い反乱なのであろう。「隠し子疑惑」の火元は国家情報院と言われている。最大部数を誇る極右紙を通じ、虚偽報道で公職者の名誉を傷つけ辞任に追いやったのだ。遺憾なことだが、韓国社会ではしばしば権力が使用する卑劣な報復手段である。また、大統領府が今回チェ検察総長を辞任に追いやった背景として、イ・ソッキ議員と統合進歩党の「内乱陰謀」事件を、政権の意図通りに立件させるための体制づくりという側面もあるのだろう。

だが、検察内部ではチェ総長を擁護しファン法務長官を批難する声が挙がっている。9月13日にソウル地方検察庁の検事たちが抗議したのに続き、14日には最高検察庁の監察課長キム・ユンサン検事が、ファン長官の監察指令を拒否し辞意を表明した。同じく最高検察庁の未来企画団長パク・ウンジェ検事も、ファン長官に対する抗議書簡を検察の内部通信ネットワークに公開し、辞表を提出している。パク検事は公開書簡で、「検察の独立性を損なう重大事件だ。大統領府の意向に沿わないからといって、検察総長を古草履のように棄て去る状況なら、裁判官とて信念に基づく判決を下せるだろうか?」と鋭く指摘している。検察の正義を守り、人間としての良心に忠実であろうとする彼らに、心よりの賛辞を送りたい。

以下に、9月14日付『ハンギョレ新聞』の社説を翻訳紹介する。今回の事態が抱える問題点を的確に整理した内容であり、参考になるだろう。 (JHK)
http://www.hani.co.kr/arti/opinion/editorial/603361.html


検察総長を「権力と言論の合作」で追放する政権

チェ・ドンウク検察総長の「隠し子疑惑」には当初から、権力と『朝鮮日報』が結託して行った「チェ・ドンウク追放作戦」の悪臭が充満していた。言論機関では入手困難な私生活情報だ。それがあれほど詳細に報道されたのは、国家の情報機関が深く介入したからだろう。この作戦の総指揮者は、チェ・ドンウク体制が気に入らない大統領府だというのが、一般的な観測だった。そして大統領府は、ついにチェ検察総長をその職から追い落とした。

権力と『朝鮮日報』が合作した検察総長追放の1次作戦は失敗した。チェ総長が遺伝子検査に応じるとの姿勢を示したので、真実が白日の下に明かされるのは時間の問題だった。おそらく『朝鮮日報』の完敗に終わるだろうと予測されていた。だが、チェ総長を追放すると決心した権力は執拗だった。現職の検察総長に対し監察を実施するという、空前絶後の「2次作戦」を敢行することで、結局は自らの意志を貫徹した。大統領府の民政担当首席秘書室に属する公職規律チームが、チェ総長の辞退に向け執拗な圧力をかけ続けた。これは、パク・クネ大統領の意向を反映してのことだろう。

パク大統領は今回の事件を通じて、またもや残忍で容赦ない側面を遺憾なく見せた。法律に明示された検察総長の任期保障などは、眼中にもないようだ。誰であれ、彼女が引いた境界線から半歩でも踏み出すのを決して容認しないという、傲慢で冷酷な性格を感じさせる。チェ総長体制の検察が、ウォン・セフン前国家情報院長らを選挙法違反容疑で起訴した。自身の逆鱗に触れる行為を、パク大統領は決して容認しないのだ。

パク大統領は今回の件で、最小限の常識と道理さえも放棄した。普通なら、遺伝子検査の結果を待つのが常識だろう。この政権がいつから、「疑惑が提起されたという理由」だけで公職者の首をすげ替えたのだろうか。長官任命の公聴過程で、道徳性に問題多しとされた人物に対しパク大統領が見せた寛大な態度を思い起こせば、検察総長に対する電撃的な監察調査には苦笑を禁じ得ない。論理も一貫性もなく、ただ検察を完全に手中に入れるための、露骨で暴圧的な力の論理だけが横行している。

真相究明が必要なのは、検察総長に関する根拠のない私生活情報を『朝鮮日報』に流し、公職社会を混乱に陥れた国家機関がどこなのかを明らかにすることだ。物証はないが、多数の国民は、今回の事件に国家情報院が深く介入していると信じている。大統領府が「速やかに真相を明らかにして疑惑を晴らすべき」なのは、チェ総長の「隠し子」問題ではなく、国家情報院の逸脱行為の有無だ。国家情報院の汚名をそそいでやるのか、あるいは、国家情報院の仕業であると明らかにして厳重に責任を問うのか、どちらかである。パク大統領が、こうした「工作政治」を手助けする一方で国家情報院の改革を行うというのだから、その言葉の真意を疑わざるを得ないのだ。

パク大統領は来る16日、与野党の代表委員と会って政局の正常化方案を議論する予定だ。 この出会いが実を結ぶためには、国家情報院の改革と民主主義回復に対するパク大統領の信頼できる意志と決断がなければならない。しかし、検察総長の追放事態が示すパク大統領の傲慢な態度を見れば、そのような期待は木に登って魚を求めるようなものではないかと思う。国をますます過去の暗いトンネルへと後進させるパク大統領の国政運営が、真に憂慮される次第である。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿