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再考、イ・ソッキ議員の「内乱陰謀」罪

2013年09月09日 | 三千里コラム

9月4日、国家情報院に連行されるイ・ソッキ議員


9月4日、統合進歩党・イソッキ(李石基)議員に対する逮捕同意案が国会を通過しました。289人の議員が投票し、賛成258,反対14,棄権11、無効6という集計です。翌日、イ・ソッキ議員は拘束されました。しかし、与党の攻勢はとどまることを知らず、セヌリ党議員全員の153名が署名した「イ・ソッキ議員除名案」が9月6日、国会の倫理特別委員会に提出されています。

議員除名には在籍議員三分の二の賛成が必要なので、即刻除名とはならないでしょう。一方的な容疑を掛けられ、まだ裁判どころか検察の起訴もされていない議員を政治的立場の違いから抹殺しようとするのは、民主主義の根幹を蹂躙する暴挙です。

韓国社会は今、極めて危険な方向に行こうとしています。「北の脅威と国家安保」を掲げ、民主主義と人権を破壊した朴正熙政権を彷彿とさせます。時計の針が、一挙に40年前に戻ったかのようでもあります。与党指導部と『朝鮮日報』など極右メディアは、統合進歩党の強制解散を声高に叫んでいます。おそらく、朴槿恵政権の究極目標もそうだと思います。

こうした状況を警告した記事を紹介します。9月2日付『オーマイニュース』に掲載されたアン・ヨンミン氏の投稿です。
http://www.ohmynews.com/nws_web/view/at_pg.aspx?CNTN_CD=A0001901519

彼は月刊『民族21』の編集主幹として、祖国の平和統一と南北和解に関する優れた記事を書いてきました。日本でも何度か講演しています。その彼が、「北のスパイ」容疑を掛けられ一方的な世論の攻撃に苦しんだ体験を述べています。彼の裁判もまだ継続中ですが、当初の容疑内容は大幅に縮小されています。イ・ソッキ議員の事件を考えるうえで、何らかの参考になれば幸いです。 (JHK)



あなたも「イ・ソッキ(李石基)」にされる、私もそうだったから...。 アン・ヨンミン
北朝鮮の体制宣伝活動をした容疑-「『民族21』スパイ事件」被害者の訴え


今度は内乱陰謀だ。銃器を奪取、基幹施設の破壊、人命殺傷という話まで出てくる。凄じい。イ・ソッキ統合進歩党議員に掛けられた容疑だ。これだけでも十分過ぎる衝撃だろう。政局を一瞬にしてマヒさせ、大統領選挙に違法介入した国家情報院への国民的糾弾まで冷却させた。進歩的な人々さえも、容疑内容への反論を躊躇するほどだ。「事実関係の把握が優先」として自らの保身を図るしかない。すでに民主党は、ロウソク・デモ政局から一歩引いている。

そのような渦中に「まさか」という考えが、人々の間にじわじわと広がっている。ところで、この「まさか」が問題だ。「仮にも国会議員という立場で“内乱”を陰謀するだろうか?」という思いからの「まさか」ではない。「考えてもみろ、国家機関が根拠もなしにそのような主張をするか」という点での「まさか」なのだ。加えて、「その人、従北なんだって!」、「あの連中は主体思想派だと言うじゃないか」、「どうせそんな言動をしたんだろう…」といった推測や連想がつきまとう。

こうした反応を見守りながら、私は2年前の悪夢が思い返されてきた。いや、今も裁判を通じて続いている、私の心身を根こそぎ蝕んでいる悪夢だ。

悪夢のデジャビュ

2年前の2011年7月、新聞紙上をにぎわせた事件を記憶しているだろう。「『民族21』スパイ事件」だ。 "『民族21』の編集主幹と編集局長が北朝鮮の指令を受けて、『民族21』を通じ北朝鮮体制の優越性を宣伝する活動をした"というのが、当時言論に報道された事件の要旨である。

その時も今回のように始まった。朝早くから国家情報院の捜査官たちが我が家を押収捜査した。理由は「スパイ容疑」だった。突然のことで何がどうなったのか、さっぱりわからなかった。私は一度も釈明や反論をできぬまま、「スパイ」になった。

保守的なメディアは国家情報院が小出しに流す容疑内容を、事実であるかのように報道し始めた。その時点で、月刊『民族21』はスパイの巣窟に変貌した。『朝鮮日報』は『民族21』社事務室の写真をのせ、親切にも組織図まで作成して『民族21』を「先軍政治の広報部隊」に急変させた。

しかし、国情院よりも辛かったのは周囲の反応だった。進歩的な人々さえ「まさか」と反応した。「まさか『民族21』がスパイ活動をするだろうか?」ではなく、「まさか国家情報院が根拠もなしに捜査するか?」というのだった。

最初は、私が朝鮮労働党225局の指令を受けたという発表だった。「225局は主に南へのスパイ派遣、要人暗殺を専門に担当する朝鮮労働党対外連絡部の核心組織」という説明まで付け加えられた。そうするうちに、今度はワンジェサン(旺戴山)という組織の指導を受けたとも言われだした。ワンジェサン組織の体系図に、『民族21』がこれ見よがしに登場していた。ついには、偵察総局の指令を受けたという話も出てきた。偵察総局は北朝鮮の国防委員会直轄組織で、天安(チョナン)艦を爆沈した部署だとの親切な説明が書かれいた。いったい自分の上部組織がどこなのか、私自身が知りたい状況だった。

そうした報道が繰り返されるなか、『民族21』発行人のミョンジン僧侶から、すぐにでも会いたいという連絡が来た。僧侶の第一声はこうだった。「本当に違うのか?」。発行人でさえ疑うほど、国家情報院と言論の報道攻勢は執拗だった。「誓って事実ではありません」と強調する私をまんじりと見つめた僧侶はようやく、「それなら命がけで戦わなくちゃ」と言った。そして、すぐさま国家情報院の主張を詳細に反論する記者会見を準備された。

当初は妻でさえ、「スパイじゃないと言ったのは本当なんでしょうね」と私に尋ねるほどだったから、他の人々は言わずもがなである。当時、市民運動のある幹部は「この際、ウミを全部出してしまったらどうだ」と忠告もした。「今回の事件をアン・ヨンミン編集主幹の個人的な問題として処理し、『民族21』は大々的な革新宣言を出すことで存続を図るべきではないのか」という忠告だった。

国家情報院と保守メディアの挟み撃ち作戦は、『民族21』に途方もない禍を残した。まず、読者たちから定期購読を中断するとの連絡が殺到した。取材源も私たちに会うことを避け始めた。インタビューを要請しても色々な理由で断られるのだった。いくらにもならない広告収入も途絶えることになった。『民族21』は創刊以来、最悪の経営危機に直面しなければならなかった。経営難からやむを得ず、記者と職員を一人、また一人と整理するしかなかったした。私も取材の現場を去るほかなかった。『民族21』は今も、その余波から抜け出せずにいる。

事件初期の大々的な魔女狩り容疑とは違い、国家情報院の捜査は遅々として進まなかった。 どこからも偵察総局、あるいは225局の指令は出てこなかった。私の携帯電話と自宅電話、事務室の電話と電子メール、郵便物など2007年から盗聴・検閲してきたすべての通信内容とコンピュータ、USBなどの保存ファイル...。その何処からも、指令と報告の痕跡はなかった。

国家情報院に10回以上出頭したが、彼らが入手したのは、私が書いた本や講演資料をはじめとするいくつかの文書と、日本の朝鮮総連幹部と事業協議のためにやりとりした電子メールに過ぎなかった。結局、国家情報院と検察は当初の容疑が大幅に縮小された内容で、私を起訴したのだ。

もっと皮肉だったのは『民族21』の編集局長だ。私とともにスパイ容疑を掛けられた編集局長は、3~4回の国家情報院出頭後に、起訴さえされなかった。韓国社会をひっくり返し『民族21』を社会と断絶させた「偵察総局の指令」は影も形もなかった。そして私に残ったのは、傷だらけになった体と心だ。

再び「泰山鳴動鼠一匹」になるのか

それで私は、イ・ソッキ議員の事件もまた、このような経路を踏むに違いないと考えている。録音記録だ銃器発言だと大騒ぎしているが、泰山鳴動鼠一匹(泰山を揺さぶってみたが出て来たのはネズミ一匹だけ)の結末が鮮やかに目に浮かぶ。捜査が進行すれば、証拠不足の内乱陰謀容疑はいつの間にか削られ、最後に残るのは「耳懸鈴鼻懸鈴(耳にかければイヤリング、鼻にかければ鼻かざり)」で、使い勝手のいい国家保安法違反容疑だけだろう。

だが、私には分かる。彼らにとって重要なのは「泰山鳴動」だということが。数ヶ月間の驚天動地で国民の耳目を集中させることが彼らの目的なのだ。この機会に国家情報院の不法介入事件も、大統領選挙不正疑惑もみな蓋をして、更には国家情報院改革の声も押さえ込んでしまうことが彼らの目的だ。

ところが「泰山鳴動」に幻惑された世論は、後日の「鼠一匹」には関心を持たない。龍の頭だけを見る視線は、蛇の尻尾まで追わないのだ。頭の中にはただ「龍頭」だけが残る。そして同じような状況が起きれば、例の言葉をつぶやくのだ。「まさか」と...。

これは進歩的な人々も同じだ。『民族21』と私を指して「まさか」と言った人々は今日、イ・ソッキ議員と統合進歩党に対して再び「まさか」と疑う。国家情報院が流し保守言論が書きなぐる、一面的な「ファクト(事実)」にだけ関心を持つようになる。国情院が大々的な「魔女狩り」を通じて、自分たちの生存権固守に乗り出したという本来のファクトからは目を逸らしている。現政権が、大統領選挙の不正を糾弾するロウソク・デモを消火ために総攻勢に出たという、真の実体を見ようとしないのだ。

『民族21』事件の時、私は記者たちから「偵察総局の指令を受けた事実はないのか」と質問攻勢を受けたことがあった。私はこう答えた。

「なぜそれを私に尋ねるのか。容疑をふっかけた者が根拠を明らかにすべきだろう。」

殺人事件が起きたとしよう。捜査機関が隣人の一人を容疑者に捕まえ、「お前が殺さなかったことを証明しろ」と迫る。これが正しい処置だろうか。“人を殺した”という証拠を先ず明らかにするべきではないのか。

このような非常識が唯一、国家保安法事件にだけ適用される。“内乱陰謀”だという。それなら少なくとも、数丁の銃器でも押収するなり、それらしい行動計画書でも提示しなければなるまい。世の中はこのように逆転している。

イ・ソッキ議員と統合進歩党が気に入らないという人が、進歩陣営内でも結構いる。その人々の考えを批難するつもりはない。また、イ・ソッキ議員と統合進歩党に肩入れするつもりもない。ただ忠告したいのは、感情が先んじれば理性が曇るという点だ。理性が曇り始めた瞬間、主客は転倒する。

今、私たちに必要なのは理性だ。私たちの理性をただ、醜悪な書き込みで世論を誤導し、その実体が暴かれるや大々的な逆攻勢で危機脱出を図る、史上最大の非理性的集団に向かって集中しなければならない。そうでなければ、次はあなたも「イ・ソッキ」にされるからだ。

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2 コメント

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原初 イ・ソッキ (sangtae)
2013-09-11 10:48:30
李石基氏の除名がセヌリ党の国会議員の中で論議されるや、繰り上げ当選の可能性のある康宗憲氏の写真がKBSニュースに流れていた。
セヌリ党の議員は、康宗憲氏をさして「第二のイ・ソッキ」ではなく「原初「イ・ソッキ」だとののしっていた。
一人の在日青年を捕まえ、拷問の果てに死刑判決まで下し、40年後の今年1月無罪判決を出した韓国社会。
反省どころか、冷戦構造そのままのである。
それに追随する、在日の既得権層。
バッシングを越えて (isojiro)
2013-09-11 11:23:22
「在日」から国会議員が実現すれば、歴史的な意義ですね。
保守(分断)勢力から、なりふり構わない卑劣なバッシングが起こるでしょうけれど、カン ヂョンホン氏の揺るぎない意思と透徹した思考は、その竜巻を撥ね返すでしょう。
まさかとは思うが、大法院が竜巻に影響されないことを望む。

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