迷宮映画館

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太陽の雫

2003年02月17日 | た行 外国映画
激動のハンガリー。使い古された言葉で、激動の歴史とよく言うが、この国とポーランドとアイルランドとユーゴスラビアはこの言葉を使っても誰も文句は言えないはずだ。そのハンガリーの19世紀後半から戦後のハンガリー動乱のあたりまでの姿を、あるユダヤ人の一家を通して描いている。

居酒屋を営んでいた父親の死から、12歳で一家を支えることになったエマヌエル・ゾネンシャイン。ユダヤ人だった。ブタペストで醸造業を起こし、薬草酒の「サンシャインの味」という酒が大ヒットした。二人の息子には教育を施し、兄のイグナツは法律家に、弟のグスタフは医者になった。しかし、法曹界での未来を考えて、改姓を行った。ユダヤの姓をすてて、ショルシュと名乗ることにした。

このイグナツの時期に起こったのが第一次世界大戦。ハンガリーは長いオスマン・トルコ帝国の支配を逃れた後、オーストリア帝国の併合国として、皇帝の支配下にあり、ドイツ側の枢軸国にいた。判事として従軍していたイグナツは皇帝に心酔しており、皇帝崇拝の立場から判決を下していた。このことは敗戦後、革命が起こり、ハンガリーがオーストリアから独立したさいに厳しく糾弾されることになる。

その息子のアダムはフェンシングの名手。兄の薦めで始めたフェンシングは彼にとってなくてはならないものになっていた。

先の敗戦で大きく領土を失ってしまったハンガリーの支援をしたのがナチス・ドイツ。ハンガリーのすべての勢力がドイツ側に付いたわけではないが、ナチのプロパガンダ・オリンピックといわれたベルリン・オリンピックでの優勝は大きな大きな誇りとなった。第二次世界大戦の暗雲が立ち込める中、ユダヤ人包囲網がブタペストにも覆ってくる。改姓し、改宗し、金メダルをとってもユダヤ人として逃れることは出来なかった。

父アダムの収容所での死を黙ってみていることしか出来なかった息子のイヴァン。収容所から帰ってきた彼はファシストを追い出してくれた共産主義に心酔し、父を殺したファシストたちを駆り出す役目に活路を見出す。昨日までの権力者は今日の反逆者、昨日までの罪びとは今日のヒーローになる時代だった。しかし、イスラエルが建国されたりして、ユダヤの勢力が大きくなる中、収容所から生き残って帰ってきたヒーローのユダヤ人を今度は共産主義勢力が追い詰める。共通の敵を倒すために手を結んでいた共産主義とシオニズムは敵がいない今、立ち向かうしかなかった。

一度は共産主義に身を投じたイヴァンだが、スターリンの化けの皮がはがれ、ハンガリーが自らの足で立とうとした時に先頭たってそこにいた。ハンガリー動乱である。

3時間の長尺の物語だが、これでも足りないくらいの話が詰め込まれている。ハンガリー出身のサボー監督の使命に燃えて作ったような作品だ。これの前に「戦場のピアニスト」でやはりポーランド出身のポランスキー監督の使命を見たが、映画人としての思いを我々は素直に謙虚に受け止めるべきだとまず感じた。

3代にわたる主人公を一人で演じたのがレイフ・ファインズ。私の夢はレイフに見つめてもらうこと。あの透き通った青い目でじーーっと見つめられたら自分はどうなるんだろうと思ってしまうくらいに目がいい。あの眼力は女性を惹きつけてやまないというくらい、女性に誘惑される。意志と弱さが同居してるのだ。あんたが誘惑されるから問題になっちゃうんでしょ、といいたくなるくらいなのだが、なぜか女がほっておかない。あのレイフ様の目がなせる技でしょう。

翻弄される歴史の中でどう生きていったらいいのか、生き抜くためにはどうしたらいいのか。彼らの人生がすばらしいものだったとはいえない。それは時代がそうさせたのだが、それだけではない。自己を喪失してしまったときに、すべてが運命づけられてしまったように崩れていくのだ。彼らは、決して強い男ではない、むしろ弱い男だったかもしれない。だが、それも人生。しかし、その3人の男を見続けてきたイグナツの妻のヴァレリがすばらしい。実はこれは彼女の映画だった。それでも人生はすばらしい。んんん、見た甲斐のある映画だった。

「太陽の雫」

原題「Sunshine」 
監督 イシュトヴァン・サボー 
出演 レイフ・ファインズ ローズマリー・ハリス レイチェル・ワイズ ウィリアム・ハート 1999年 カナダ・ハンガリー作品


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