〇月Ｘ日

〇月Ｘ日
日本語うまい外国人に映画館どこか聞かれたけれど直進すればいいだけだった。そのあと杖をついた老人に駅はどっちか聞かれたけれど直進すればいいだけだった。

〇月Ｘ日
成人式に行かないで居酒屋でバイトしてるところに成人式から流れてきた暴走族みたいな同級生たちが入店してきて、さんざん冷やかされたところへ、好きだった子が振袖姿で友人たちと入店してくる男の子の気持ちをしばし想像してみた。そのあと、成人式に出てきて派手な服装で暴れてみせる新成人の何倍くらい、家から出ないで引きこもってる新成人がいるか想像してみた。

〇月Ｘ日
空いている地下鉄の車内には他にいくらでも席があるのに、どうしてか隣に座ってガサガサあぶらとり紙で顔のあぶらとってる中年の女の人を見て見ないフリした。

〇月Ｘ日
とあるホテルで朝食会場の列がどうも進まないと思ったら、ラーさん夫妻がしゃべりながらバイキングの全メニューを盛っていて、そのあとはスマホでSNSの画面操作ばかりして半分も食べず、大量の食べ残しを置き去りにして行った。

〇月Ｘ日
『子連れ狼』を見ていたら黒ビキニの刺客が現れて、もしやとは思ったけど死ぬ前に必然性のないポロリがあった。

〇月Ｘ日
こっちの会議が重い話になったとき、あっちの会議室で絶妙な爆笑が起きた。

〇月Ｘ日
髪の毛より鼻毛が濃いおじさんが八高線に乗っていた。

〇月Ｘ日
ウルトラマンスタンプラリーの列に並んでるのが大人ばっかりだった。

〇月Ｘ日
もしも世界が一瞬にして滅びるならこんな天気のいい日かもしれないと思った。

〇月Ｘ日
内気で小汚い学生みたいな人がルノアールで「こちらが編集長です」と紹介されたから何の編集長かと思ってのぞいたら美容専門フリーマガジンで、有料の定型１Ｐ記事を整形クリニックの広報担当に売ろうとしていた、サイトにバナーを半年間のせる特典つきで。

〇月Ｘ日
パンが焼けると下に落ちるトースターの前でペルー人が立ち尽くしてるから「下にありますよ！」と声をかけて指さしたら「これ私のかしら？」って返事がきて完全に日本人だった。

〇月Ｘ日
金融トリックに失敗して年金の支給額を下げるのは犯罪者だってブラジル人がみんな笑ってた。

〇月Ｘ日
お金持ちの日本人が海外に旅行すると１ドルのやりとりで必死の形相になるから面白いと思った。



〇月Ｘ日
男装した女と女装した男のカップルに見えたのは両方とも男だった。

〇月Ｘ日
ランチについてるセットのアイスコーヒー飲み終わった中年サラリーマンの３人組が、「アイスコーヒー２つ」追加したあとさらに「アイスコーヒー３つ」と謎めいたオーダーをして、おしぼりで汗を拭き拭き飲んでいた。

〇月Ｘ日
おしぼりを手渡さないでテーブルにころんと投げ出された。

〇月Ｘ日
コンビニで「エッチしないからね」って酔った女性の声がして、何かと思ったら後ろに寄り添う男が「じゃあ払わないよ」って300円か400円の支払いをレジで渋りだし、「帰りなよ」といわれて「チューしよ」って食い下がってた。

〇月Ｘ日
さっきまで明るく飲んでたサラリーマンは後輩が戸建てに彼女と同棲してると聞いたら重苦しく押し黙った。

〇月Ｘ日
「新発田って面白えの？」「何もねえよ」「イオンモールあんじゃん」「イオンモールあっけど中は何もねえよ」「何も……ただモールなんだ」って越後線で男子高校生がしゃべってた。

〇月Ｘ日
歩道をスクーターが走ってきた！

〇月Ｘ日
ちいさいカフェに社長以下７名で入ってきて、席くっつけていいといわれて１０名分もくっつけ、大声でお互いを肩書きで呼び合い、うち３人は「水筒でいいや」とドリンク注文せず、土曜日に長々と営業妨害してる体育会系ＯＢのおっさんたちが原発推進の話をしていた。

〇月Ｘ日
「シャツとネクタイ各2000枚、合計4000枚チャーター便で送ってくれて構へん！」ってカフェでＰＣ広げながらiPhoneで檄とばしてた騒がしい客が、通話を切って居眠りをはじめた。



〇月Ｘ日
『稀代の本屋　蔦屋重三郎』の著者、増田晶文さんにインタビューした。ノンフィクションが書きにくい世の中になってきたから時代小説を書いている部分もあるということで、江戸の出版を一身に背負って処分も受けた人物を題材に選ぶところが、ロックだなと感じた。クロワッサン３月２５日発売号に掲載……最後は宣伝か！

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