そうなんですよカワサキさん、ガリ版とは違うんです。カラーの雑誌の原稿を印刷会社に入れると、
業界用語で組版・製版・刷版・印刷・製本・結束・発送ということをして雑誌が運搬されていきます。
それぞれのプロセスにマネー業務が発生するので、20年ほど前ぼくが会社に入ったころは出版界
全体が主にコスト削減のためDTPに熱~く注目していました。DTP(Desk Top Publishingの略)は、
ひとことでいえば組版と製版と刷版のデータをマックで出版社が作っちゃうという試みで、印刷会社
に払うお金がそれだけ少なくて済む(現場の作業は増える)かもしれない、夢のチャレンジでした。
印刷会社のほうも、利益は組版・製版・刷版ではなく、印刷で主に得ている構造なので、前段階を
出版社がやってくれるなら、人件費は浮くし作業効率は上がるし、ありがたい。そんな Win-Win な
ビジネスのはずでしたが、20年後のいま振り返ると、うまくいったケースはまれです。
新聞とも違うんです
商業ビジュアル誌には、あまり向いてなかったみたいです。いまは、組版と製版の一部をDTP的な
やりかたで内製化して、刷版からあとは外注のまま、というのが一般的なのでは。外注しない方法の
ひとつが、刷版・印刷・製本・結束・発送を行なわない(というよりデジタルですべて行なう)電子書籍
の流行ということです。どっちにしてもビジュアル雑誌向きじゃないのかも。
ここで味助の写真
そんな組版・製版・刷版・印刷・製本・結束・発送ということが行なわれるのは、あくまでも編集者が
ちゃんと原稿を入れた場合のことです。実際は、なかなか予定通りに入るものじゃありませんから、
製版の段階で組版やりなおしたり、刷版の段階で組版と製版やりなおしたり、印刷の段階で組版と
製版と刷版やりなおしたり、製本の段階で……以下、発送してからやりなおすこともたまにあります。
だいたい、製版やりなおすのまでは仕事ですけど、印刷やりなおすのは事故という認識です。発送
やりなおすのが、回収というやつですね。
なんで味助の写真かというと…
ぼくが駆け出しのころは、原稿を入れると印刷会社の人が早朝に回収して組版・製版…を始める
流れだったので、しめきり時期となれば「原稿はなんとしても朝までに上げる!」という文化でした。
だけど入稿する前に、取材が終わるかどうかの戦いがあって、昼間その戦いをやって社に戻って
から原稿に取り組むわけで、すでに体力の限界だったりするもの。お腹もペコペコ……のんきな人
は「なんで社員食堂に行かないの?」って罪のないこと言いますが、社員食堂やってる時間が最も
最も最も最も最も最も忙しいィィィーッ! くて食堂どころじゃないわけです。キャップ(直属の上司)
がそういうの理解してると、「じゃあ味助で出前とるか」ということになって、原稿に取りかかる前に
数名のチームが仲よく出前で腹ごしらえする麗しい光景が広がります。味助のシュウマイ弁当とか
定番だったんですよ。
もう営業してません
それから必死で原稿まとめてキャップに見せ、書き直しを命じられて、また原稿まとめてキャップに
見せて…というのを繰り返し、朝までに何とか原稿を入れる。そんな生活でした。いまは残業しない
ようにいわれているので、深夜早朝まで入稿作業している編集部があるのかどうかわかりませんが、
昔はキャップが深夜2時ぐらいまで粘り、ダメ出しをして、その直しを現場の編集者が5時ぐらいまで
がんばって雑誌のクオリティを保っていました。
味助がある頃の話
だからこそ起こってしまう悲劇というのが存在します。15年以上たつので時効だと思って、懐かしい
事件を2つ書きとめて終わりにします。
事件その1
原稿をチェックするキャップも毎日チームのみんなと出前とって一緒に食べるわけじゃなく、状況に
よって7時くらいから打ち合わせに出て10時くらいに戻ってくることもあります。そのあいだに現場の
ぼくたちが原稿ちゃんと仕上げておけばいいんですけど、お腹ペコペコなもんですから現場どうしで
サクッと食事に出たつもりが、お酒も入って親睦を深めて……「あっ、もう10時半じゃん!」「そろそろ
戻らないとヤバイね…」なんて赤ら顔して編集部に戻ると、キャップがすでに席に戻ってお待ちかね。
重苦しい空気が流れます。事情を察したキャップが
「お前たちの原稿もう読まねぇからな!」
と立腹するのはもっともなことで、まじめに席に残って原稿を仕上げていた人のやつだけ読んだら
終電までに帰っていきました。「超こわかったね」「マジ怒ってたね」といって深夜2時か3時までに
原稿まとめて、「すみませんでした」とか書き添えて席に置いといたら、翌日ちゃんと読んでくれた
のでよかったです。もちろん書き直しは命じられましたが。
事件その2
みんなの原稿が上がりそうにないと、キャップが「じゃあ、明日読むから」といって早々と帰ることも
あります。そうなると、「朝までにまとめておけばいいんだから…」って考えて、ちょっと現場どうしで
交流してから朝まで腰を据えて原稿やろうよ的なムードになります。で、お酒も入って赤ら顔で戻る
と、帰ったはずのキャップが戻ってきて立腹しています。ぼくたちも朝までにちゃんと仕事するつもり
だったし、キャップも「明日読む」といってたので、理路整然とその旨みんなで説明すると
「こんなひどい目に私はあったことがない」
と涙ぐみだしたので、みんなで「すみませんでした」と謝罪して、ともかくお引き取りいただいた後で
「超こわかったね」「マジ泣きそうだったね」といって深夜3時か4時までに原稿まとめて、あらためて
始発まで飲みなおしたり。……いま考えると、現場もキャップもよくやってたな~!
最近は徹夜することもなく、しめきり前にちゃんと原稿を入れて、体力温存して翌日の仕事につなぐ
ようになっていますが、追いつめられる快感みたいなのも編集者の楽しみのうちなので、ちょっぴり
損をしているような気がどこかでしていますが、あのころに戻りたいとは思いません。
業界用語で組版・製版・刷版・印刷・製本・結束・発送ということをして雑誌が運搬されていきます。
それぞれのプロセスにマネー業務が発生するので、20年ほど前ぼくが会社に入ったころは出版界
全体が主にコスト削減のためDTPに熱~く注目していました。DTP(Desk Top Publishingの略)は、
ひとことでいえば組版と製版と刷版のデータをマックで出版社が作っちゃうという試みで、印刷会社
に払うお金がそれだけ少なくて済む(現場の作業は増える)かもしれない、夢のチャレンジでした。
印刷会社のほうも、利益は組版・製版・刷版ではなく、印刷で主に得ている構造なので、前段階を
出版社がやってくれるなら、人件費は浮くし作業効率は上がるし、ありがたい。そんな Win-Win な
ビジネスのはずでしたが、20年後のいま振り返ると、うまくいったケースはまれです。
新聞とも違うんです
商業ビジュアル誌には、あまり向いてなかったみたいです。いまは、組版と製版の一部をDTP的な
やりかたで内製化して、刷版からあとは外注のまま、というのが一般的なのでは。外注しない方法の
ひとつが、刷版・印刷・製本・結束・発送を行なわない(というよりデジタルですべて行なう)電子書籍
の流行ということです。どっちにしてもビジュアル雑誌向きじゃないのかも。
ここで味助の写真
そんな組版・製版・刷版・印刷・製本・結束・発送ということが行なわれるのは、あくまでも編集者が
ちゃんと原稿を入れた場合のことです。実際は、なかなか予定通りに入るものじゃありませんから、
製版の段階で組版やりなおしたり、刷版の段階で組版と製版やりなおしたり、印刷の段階で組版と
製版と刷版やりなおしたり、製本の段階で……以下、発送してからやりなおすこともたまにあります。
だいたい、製版やりなおすのまでは仕事ですけど、印刷やりなおすのは事故という認識です。発送
やりなおすのが、回収というやつですね。
なんで味助の写真かというと…
ぼくが駆け出しのころは、原稿を入れると印刷会社の人が早朝に回収して組版・製版…を始める
流れだったので、しめきり時期となれば「原稿はなんとしても朝までに上げる!」という文化でした。
だけど入稿する前に、取材が終わるかどうかの戦いがあって、昼間その戦いをやって社に戻って
から原稿に取り組むわけで、すでに体力の限界だったりするもの。お腹もペコペコ……のんきな人
は「なんで社員食堂に行かないの?」って罪のないこと言いますが、社員食堂やってる時間が最も
最も最も最も最も最も忙しいィィィーッ! くて食堂どころじゃないわけです。キャップ(直属の上司)
がそういうの理解してると、「じゃあ味助で出前とるか」ということになって、原稿に取りかかる前に
数名のチームが仲よく出前で腹ごしらえする麗しい光景が広がります。味助のシュウマイ弁当とか
定番だったんですよ。
もう営業してません
それから必死で原稿まとめてキャップに見せ、書き直しを命じられて、また原稿まとめてキャップに
見せて…というのを繰り返し、朝までに何とか原稿を入れる。そんな生活でした。いまは残業しない
ようにいわれているので、深夜早朝まで入稿作業している編集部があるのかどうかわかりませんが、
昔はキャップが深夜2時ぐらいまで粘り、ダメ出しをして、その直しを現場の編集者が5時ぐらいまで
がんばって雑誌のクオリティを保っていました。
味助がある頃の話
だからこそ起こってしまう悲劇というのが存在します。15年以上たつので時効だと思って、懐かしい
事件を2つ書きとめて終わりにします。
事件その1
原稿をチェックするキャップも毎日チームのみんなと出前とって一緒に食べるわけじゃなく、状況に
よって7時くらいから打ち合わせに出て10時くらいに戻ってくることもあります。そのあいだに現場の
ぼくたちが原稿ちゃんと仕上げておけばいいんですけど、お腹ペコペコなもんですから現場どうしで
サクッと食事に出たつもりが、お酒も入って親睦を深めて……「あっ、もう10時半じゃん!」「そろそろ
戻らないとヤバイね…」なんて赤ら顔して編集部に戻ると、キャップがすでに席に戻ってお待ちかね。
重苦しい空気が流れます。事情を察したキャップが
「お前たちの原稿もう読まねぇからな!」
と立腹するのはもっともなことで、まじめに席に残って原稿を仕上げていた人のやつだけ読んだら
終電までに帰っていきました。「超こわかったね」「マジ怒ってたね」といって深夜2時か3時までに
原稿まとめて、「すみませんでした」とか書き添えて席に置いといたら、翌日ちゃんと読んでくれた
のでよかったです。もちろん書き直しは命じられましたが。
事件その2
みんなの原稿が上がりそうにないと、キャップが「じゃあ、明日読むから」といって早々と帰ることも
あります。そうなると、「朝までにまとめておけばいいんだから…」って考えて、ちょっと現場どうしで
交流してから朝まで腰を据えて原稿やろうよ的なムードになります。で、お酒も入って赤ら顔で戻る
と、帰ったはずのキャップが戻ってきて立腹しています。ぼくたちも朝までにちゃんと仕事するつもり
だったし、キャップも「明日読む」といってたので、理路整然とその旨みんなで説明すると
「こんなひどい目に私はあったことがない」
と涙ぐみだしたので、みんなで「すみませんでした」と謝罪して、ともかくお引き取りいただいた後で
「超こわかったね」「マジ泣きそうだったね」といって深夜3時か4時までに原稿まとめて、あらためて
始発まで飲みなおしたり。……いま考えると、現場もキャップもよくやってたな~!
最近は徹夜することもなく、しめきり前にちゃんと原稿を入れて、体力温存して翌日の仕事につなぐ
ようになっていますが、追いつめられる快感みたいなのも編集者の楽しみのうちなので、ちょっぴり
損をしているような気がどこかでしていますが、あのころに戻りたいとは思いません。