臍帯血 無届け移植/民間業者に厳格なルールを
河北新報-2017/08/31
社説
臍帯血 無届け移植/民間業者に厳格なルールを
「血液のもと」になる幹細胞の宝庫「臍帯血(さいたいけつ)」
が高額で売買され、国に無届けのまま患者に移植されていた。
再生医療の信頼性を揺るがしかねない事件だ。
徹底究明し再発防止に生かしてほしい。
愛媛など4府県警の合同捜査本部が、東京都のクリニック院長や、
茨城県の臍帯血販売会社社長ら計6人を再生医療安全性確保法違反の容疑で逮捕した。
民間の臍帯血バンクが2009年に経営破綻し、
一般の人たちから預かっていた大量の検体が外部に流出したのが発端。
この臍帯血を譲り受けた会社社長と医師らが共謀して昨年から今年にかけ、
計7人の患者に無届けで移植した疑いが持たれている。
14年11月施行の再生医療安全性確保法は、
再生医療の安定的な実施に向け、医療機関に治療計画の届け出や
事前審査などを義務付けた。
捜査関係者によると容疑者らが法施行後に売買した検体は約100人分。
大半が無届けの移植に使われたとみられる。
患者の費用は1回300万~400万円と高額で、
利益は数億円とされる。医療行為とは到底言えまい。
クリニック側は、有効性が不確かな、がん治療や美容の効能をうたっていた。
患者の約3割は中国などの外国人とされ、
健康願望につけ込んで国内外の富裕層を食い物にしていたのではないか。
臍帯血は、新生児と母親をつなぐへその緒と胎盤に含まれる血液。
赤血球や白血球、血小板などを作る造血幹細胞が豊富に含まれており、
白血病の治療に使われている。
日本赤十字社などが運営する公的バンクは産婦から譲り受けた臍帯血を保管し、
適合する第三者に提供する。移植症例は約1万5千件に上る。
民間バンクは、子どもが病気になった時に備え、
家族が長期にわたり預ける私的な取引だ。
国の規制の範囲外で実績も乏しい。管理体制を危ぶむ声は以前からあった。
厚生労働省は今回の事件を受け、他の民間バンクの実態調査に乗り出している。
不届きな業者らによる転売ルートは他にもあるのではないか。
「臍帯血移植」全体の信頼回復のためにも、民間業者の適正な運
営に向けた法整備を急ぐべきだ。
昨年、京都大iPS細胞研究所(山中伸弥所長)が、
臍帯血を使って人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作った。
品質が良く、外部機関にも提供を始めたが、
作製の際に試薬を取り違え、提供を自主的に中止したことがあった。
少しでも劣化の懸念がある細胞が人体に入れば、
健康被害を起こしかねないからだ。
再生医療への社会の期待は大きい。
半面、発展途上の技術でもある。
それだけ携わる人たちには、慎重さや高い倫理観が求められる。
必要な医療が患者に適切に行き渡るように
、国は規制や指導の責任を果たすべきだ。
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_medical20170912j-01-w670
【図解・社会】臍帯血民間バンクの調査結果(2017年9月)
臍帯血民間バンクの調査結果
臍帯血、民間バンクに4.5万人分=5社保管、契約切れも-違法投与で厚労省調査
生まれた子の病気に備え、親の依頼で臍帯(さいたい)血を有償で
凍結保存する民間バンクが少なくとも7社あり、5社で計約4万5700人分
を保管していることが12日、分かった。
うち約2100人分は意思が確認できないなどの理由で、
契約終了後も廃棄されないままになっていた。
臍帯血の違法投与事件で破綻した民間バンクから流出したものが使われたため、
厚生労働省が初の実態調査を行い、公表した。
民間バンクは規制対象外だが、厚労省は同日、所有権の扱いや
処分方法などが不明確だとして、業務内容の届け出を求める通知を
7社に発出。契約切れの場合は原則返還か廃棄を求め、
有識者委員会で対策を検討する。
同省が日本産婦人科医会を通じて全国の産科医らから情報を収集。
10社の情報が寄せられ、
うち7社で活動実態が確認されたが、1社は調査を拒み、
1社は「引き渡し(仲介)のみ」とした。
保管と回答した5社はステムセル研究所(東京都港区)、アイル(同板橋区)
、ときわメディックス(大阪市)、社名公表不可のD社とE社。
ときわ社とD社は臍帯血の帰属をめぐり訴訟中という。
ステム社が95%の4万3661人分を保管し、1941人分の契約切れを含む。
利用目的は各社「新生児本人の疾患治療」などとするが、
移植実績はステム社の12件のみ。
国への事前届けが必要となる第三者提供は、
仲介のみの1社が「がん治療などで約160件」と回答した。
契約終了後の所有権は、ステム社が「60日経過後の権利放棄」
を明示しているが、権利の扱いや回答期限の記載がない社もあった。
処分は「破棄」以外に「研究や公共利用」「第三者の治療に利用」との記載が多かった
。
品質管理や安全対策はアイルとステム社以外は不十分と判断され、E社は多くの項目で未回答だった。