『地下道の青春』
西村滋・著/ミネルヴァ書房1988年
「プロローグ」 下「」引用。
「息子よ。
キミははたちになった。
おめでとう。
といっても、わたしいま、キミのそばにはいない。海の見えるこの小さな町へきている。-略-
はたちのキミに、はたちのわたしをプレゼントすることにしよう。つまり、わたしがはたちの頃の話を、きいてもらうのだ。-略-」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/62/be/be3cf1dad842b8fb7e3dda6c591a32c5.jpg)
上野地下道に住んでいたという。下「」引用。
「一九四五年の秋、つまり敗戦の秋、わたしは上野にくらしていた。
くらしていたといっても、家があったわけではない。上野駅の地下道を仮の宿にしていたのだ。わたしのまわりには、戦火で家を失った人びとがひしめいていた。-略-」
さまざまな人が出入りしていたという。下「」引用。
「住人(?)のほかにも、さまざまな人物が出入りした。
当時、勢力をほしいままにしていた暴力団○×組のチンピラ。アコデオンをかかえた傷痍軍人。役者くずれのおんな男。大道易者。朝から夜行列車を持つ行列をめあてに、ものを売りつけにくる闇屋たち。客にあぶれたゲタばきパンパン(もっとも安いといわれた街娼婦)。「大日本帝国万歳!!」を連呼する狂人。指命手配中の犯人がまぎれこんでいることもあった。」
虱の移動でわかったという……。下「」引用。
「「このじいさんは、ダメだとわかっていたよ。虱(シラミ)が予告したから」
と、妙なことをいう男がいた。
「ずーっと隣り同志で寝ていたんだが、二日ほど前からあんまり体がかゆいので調べてみたら、じいさんのシャツから俺のシャツへ虱が行列をしてるんだ。引越しなんだよ。つまり、このじいさんからはもう血が吸えないことがわかって、移動してきやがったのさ。-略-」
千葉の施設の仕事。下「」引用。
「千葉の施設では、B29が落していった焼夷弾のカラを収拾し、スコップに更生する仕事をしていた。農具も品不足だったので、土に砂利が混じっていると、たちまち刃先のなまってしまう品物でも、歓迎された。製品を大八車で業者へ運ぶのは年配の補導員とわたしだったが、補導員は監視役(わたしの)として同行するだけなので、大八を引くのはわたしひとりの労力だった。」
自殺未遂は珍しい出来事ではなかったという。
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西村滋・著/ミネルヴァ書房1988年
「プロローグ」 下「」引用。
「息子よ。
キミははたちになった。
おめでとう。
といっても、わたしいま、キミのそばにはいない。海の見えるこの小さな町へきている。-略-
はたちのキミに、はたちのわたしをプレゼントすることにしよう。つまり、わたしがはたちの頃の話を、きいてもらうのだ。-略-」
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上野地下道に住んでいたという。下「」引用。
「一九四五年の秋、つまり敗戦の秋、わたしは上野にくらしていた。
くらしていたといっても、家があったわけではない。上野駅の地下道を仮の宿にしていたのだ。わたしのまわりには、戦火で家を失った人びとがひしめいていた。-略-」
さまざまな人が出入りしていたという。下「」引用。
「住人(?)のほかにも、さまざまな人物が出入りした。
当時、勢力をほしいままにしていた暴力団○×組のチンピラ。アコデオンをかかえた傷痍軍人。役者くずれのおんな男。大道易者。朝から夜行列車を持つ行列をめあてに、ものを売りつけにくる闇屋たち。客にあぶれたゲタばきパンパン(もっとも安いといわれた街娼婦)。「大日本帝国万歳!!」を連呼する狂人。指命手配中の犯人がまぎれこんでいることもあった。」
虱の移動でわかったという……。下「」引用。
「「このじいさんは、ダメだとわかっていたよ。虱(シラミ)が予告したから」
と、妙なことをいう男がいた。
「ずーっと隣り同志で寝ていたんだが、二日ほど前からあんまり体がかゆいので調べてみたら、じいさんのシャツから俺のシャツへ虱が行列をしてるんだ。引越しなんだよ。つまり、このじいさんからはもう血が吸えないことがわかって、移動してきやがったのさ。-略-」
千葉の施設の仕事。下「」引用。
「千葉の施設では、B29が落していった焼夷弾のカラを収拾し、スコップに更生する仕事をしていた。農具も品不足だったので、土に砂利が混じっていると、たちまち刃先のなまってしまう品物でも、歓迎された。製品を大八車で業者へ運ぶのは年配の補導員とわたしだったが、補導員は監視役(わたしの)として同行するだけなので、大八を引くのはわたしひとりの労力だった。」
自殺未遂は珍しい出来事ではなかったという。
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