『シリーズ・戦争の証言15 戦争の横顔-陸軍報道班員記-』
寺崎浩・著/太平出版社1974年、1989年
陸軍報道班員のことについて書かれた本は以前も紹介しましたね。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/f0/22fc74c89efc301cc16d03bb0dd497f3.jpg)
「跋」井伏鱒二・著。下「」引用。
「昭和十六(一九四一)年十一月中旬、私は寺崎君と同じ徴用部隊にいれられて同じ輸送船に乗せられた。同勢百二十人、大阪港を出て、海南島からサンジャック、サイゴン、再びサンジヤック、タイ国のシンゴラ港という順に南行し、マレー領に入ってアロルスターで前線の本部に追いついた。これを進軍と称した。ところが私たちの部隊のなかに三人組といわれる異質の者がいた。これが寺崎君を不当に迫害した。寺崎君は恨み骨髄に徹した筈だ。
この書物のなかで、寺崎君はその三人組の名前と寺崎君自身の名前を変名で書き、その他の人は私の知る限り実名で書いている。虚構を排除して、絶えず無言の抵抗をつづけて来た真の記録を書く覚悟で取りかかったものと思われる。」
恐怖三人組はおべっかつかい……。下「」引用。
「三人組の者は初め何のきっかけで寄合ったのか私にはわからない。入隊するまで三人はお互いに顔も知らない間であった筈だ。それが入隊すると早々に組んで輸送指揮官に取り入った。この三人はみんなから嫌がられたが、彼等はそんなことにはお構いなく、スコールを防ぐ用品だといって油紙や人絹のカッパを街で大量に仕入れて気の弱い徴員に売りつけ、戦地に行くと野営のときなど「隊長殿、背中を流しましょう」といって、ドラム罐の風呂に入っている隊長でもない士官の背中を流したりした。人類愛の発露によるものではない。気の弱い徴員にも現地人にも八つ当たりに当たっていた。寺崎君はその事実にもちょっと筆を触れている-略-」
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『F機関』というかのがあったという……。下「」引用。
「藤原岩市氏の書いた『F機関』という本でくわしいことを読んだのだが、F機関が先に先にといってインド兵に働きかけ、インド兵に寝返りさせたのだ。市内の秩序もインド兵で保たれていた。」
石井軍医といっても、731部隊ではないようだ……。下「」引用。
「石井大尉は旅順の中学で過ごした。日露の凄絶な戦争のエピソードを無数に叩き込まれていた。不屈な精神はこれで植えつけられていた。貧寒な物資は耐乏を教えた。だから京城の医大へ行っても日本育ちのようにこせこせしない。とうに閥などからはずれていた。うまい世渡りなどを無視していた。軍隊という特殊集団では特殊な世渡りが必要だった。-略-」
医大のことが話題になっている。下「」引用。
「園は医大へ訪ねることなしに過ごしたが、学校を終える頃やっと石井少佐と逢えた。そこから近い出雲橋のはせ川という家へ行って二、三本の酒を飲んだ。
「一か年の修業の所を三か月で出されるですよ」
「三か月で専門の研究がやれるんですか?」
「なあに傷の手当なら三か月で充分でしょう」
「いつ外科になったんです?」
「今はもう内科なんてありゃせんです。必要ないんでしょう」
それは不利にばかり向かう暗い戦況を園に伝えたのだったろうが、ミッドウェイの敗戦を知らない園とは感じ方に開きがあった。
「それでいいんですか?」
「今の軍医なんかには危くって、うっかり診察して貰えんですよ。死ぬ覚悟なら別ですがね」
と石井少佐は笑った。軍医大への失望と自分の運命を自嘲したようでもあった。-略-」
山下大将の権威はすごかったようだ……。下「」引用。
「実際、山下大将の通り道は厳重で、変な見せは追立てを食らっていた。また敬礼を忘れた兵隊は殴られていた。-略-」
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もくじ
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寺崎浩・著/太平出版社1974年、1989年
陸軍報道班員のことについて書かれた本は以前も紹介しましたね。
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「跋」井伏鱒二・著。下「」引用。
「昭和十六(一九四一)年十一月中旬、私は寺崎君と同じ徴用部隊にいれられて同じ輸送船に乗せられた。同勢百二十人、大阪港を出て、海南島からサンジャック、サイゴン、再びサンジヤック、タイ国のシンゴラ港という順に南行し、マレー領に入ってアロルスターで前線の本部に追いついた。これを進軍と称した。ところが私たちの部隊のなかに三人組といわれる異質の者がいた。これが寺崎君を不当に迫害した。寺崎君は恨み骨髄に徹した筈だ。
この書物のなかで、寺崎君はその三人組の名前と寺崎君自身の名前を変名で書き、その他の人は私の知る限り実名で書いている。虚構を排除して、絶えず無言の抵抗をつづけて来た真の記録を書く覚悟で取りかかったものと思われる。」
恐怖三人組はおべっかつかい……。下「」引用。
「三人組の者は初め何のきっかけで寄合ったのか私にはわからない。入隊するまで三人はお互いに顔も知らない間であった筈だ。それが入隊すると早々に組んで輸送指揮官に取り入った。この三人はみんなから嫌がられたが、彼等はそんなことにはお構いなく、スコールを防ぐ用品だといって油紙や人絹のカッパを街で大量に仕入れて気の弱い徴員に売りつけ、戦地に行くと野営のときなど「隊長殿、背中を流しましょう」といって、ドラム罐の風呂に入っている隊長でもない士官の背中を流したりした。人類愛の発露によるものではない。気の弱い徴員にも現地人にも八つ当たりに当たっていた。寺崎君はその事実にもちょっと筆を触れている-略-」
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『F機関』というかのがあったという……。下「」引用。
「藤原岩市氏の書いた『F機関』という本でくわしいことを読んだのだが、F機関が先に先にといってインド兵に働きかけ、インド兵に寝返りさせたのだ。市内の秩序もインド兵で保たれていた。」
石井軍医といっても、731部隊ではないようだ……。下「」引用。
「石井大尉は旅順の中学で過ごした。日露の凄絶な戦争のエピソードを無数に叩き込まれていた。不屈な精神はこれで植えつけられていた。貧寒な物資は耐乏を教えた。だから京城の医大へ行っても日本育ちのようにこせこせしない。とうに閥などからはずれていた。うまい世渡りなどを無視していた。軍隊という特殊集団では特殊な世渡りが必要だった。-略-」
医大のことが話題になっている。下「」引用。
「園は医大へ訪ねることなしに過ごしたが、学校を終える頃やっと石井少佐と逢えた。そこから近い出雲橋のはせ川という家へ行って二、三本の酒を飲んだ。
「一か年の修業の所を三か月で出されるですよ」
「三か月で専門の研究がやれるんですか?」
「なあに傷の手当なら三か月で充分でしょう」
「いつ外科になったんです?」
「今はもう内科なんてありゃせんです。必要ないんでしょう」
それは不利にばかり向かう暗い戦況を園に伝えたのだったろうが、ミッドウェイの敗戦を知らない園とは感じ方に開きがあった。
「それでいいんですか?」
「今の軍医なんかには危くって、うっかり診察して貰えんですよ。死ぬ覚悟なら別ですがね」
と石井少佐は笑った。軍医大への失望と自分の運命を自嘲したようでもあった。-略-」
山下大将の権威はすごかったようだ……。下「」引用。
「実際、山下大将の通り道は厳重で、変な見せは追立てを食らっていた。また敬礼を忘れた兵隊は殴られていた。-略-」
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