あかねさんシリーズ002 男が女de女が男 ![]() 147 子供のころ、小さな手 お嬢様が子供のころ、注射がこわいと言っては力を入れて泣いていたことをドクターは一瞬だが、思い出した。 力を入れれば、痛くなるから、力を抜けと言っても、なかなか力を抜いてくれなんだわと、大笑いされた。 そのときは、小さな手だった……。 --茜も思い出す。 そういえば、注射のときには、力まないように、なるべく注射を見ないで楽しいことを考えること! 今もそのようにしている。 ドクターは、目の前の患者を一心に診ている。 警備員たちが、早瀬を担架にのせた。 メイドはすかさず、毛布をかけた。 「さあ、気をつけて、いざ、医療室へ。安全第一、第一」 中西ドクターは連れ添っていく。 主任メイドは妻にタオルをわたしていう。 「もうだいじょうぶよ」 「はい」 下をむいて、目を閉じたり開いたりしている。 「これ、どうぞ」 若いメイドがカルピスをもってきた。 「あっ、気がつくじゃないの」 主任メイドは目をまん丸にしていた。 「ありがとう」 妻はストローを顔の外側に頬でおしやり、カルピスを飲んだ。 「お嬢様も、どうぞ」 と、若いメイドは礼儀正しく話した。 「いい、わたしは……」 茜はことわった。朝はモーニング・ティーと決めている。 「じゃ、主任、どうぞ」 「案外、如才ない子だね」 と、主任メイドは笑った。 「あら、悪かったかしら……」 「そんなことはないわよ、ありがとう」
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