ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第一部ブロック・バスター 101クリスチャンもいろいろ 「鯨を捕っている人たちが、漂流している私を助けてくれた。軍人に見つかったら、殺されていただろうが、鯨を捕っている人たちは一般の人だった。だから、私を殺さずに命は救ってくれて、長崎に連れて帰った。しかし、戦争中ということもあり、私は長崎の捕虜収容所に入れられた。それは悲惨なものだった」 苦虫をかみつぶしたような顔の勇気。 「メディア王のエリックが……」 「私も生まれたときは、赤ちゃんだったし、銀のスプーンをくわえて生まれたわけじゃない」 「そうだろうなー。そんな赤ちゃんいないよ!」 マイクはずいぶん陽気になっている。 「それは、裕福な家庭に生まれたという表現だよ」 ミス・ホームズが教える。 「あっ!そういう表現なの……。まどろっこしいよ。あははは……」 笑ってごまかしていた。 「ピカは見たの?」 「そう……、見たとも。それはすごいものだった。仲間の幾人かは、仲間といっても捕虜仲間だが……、すぐに死亡した」 目をつむり沈黙するエリック。 「だが日本人の仲間……。そう、長崎は信仰の地だったから、クリスマスを祝ったよ」 「捕虜が?」 「そう、捕虜が!? だよ。クリスマスのとき、何で戦争をやるのだろうって、涙が出てきたね。アンネ・フランクじゃないけど……」 「エリックは日本を嫌っている?」 勇気は訊いた。 「いいや、軍国主義の日本は嫌いだし、どこの国の人であっても、軍国主義者は大嫌いだが……。その中でも、信仰を守っている人たちがいるのを知ったよ」 「しかし、同じキリスト教といっても、アメリカは長崎に原爆を落としたよね」 「そうだとも……。トルーマンは朝にはカトリックの教会に行き、昼にはプロテスタントの教会に行った。そして、その日に、原爆を落とすことを決めた……」 勉は話しながら怒っていた。 「本当のキリスト教徒は戦争なんてしないものさ。キリストは教えられたじゃないか……、『汝、殺すことなかれ』。幸運にも私は、殺人をしてないと胸は張れる……」 エリックは微笑んだ。 ナンシーは首にかけられたロザリオを持っている輝代を見た。 「輝代もクリスチャンなの……」 「そうよ!」 輝代は恥かしそうに、うつむいた。 原爆の被害を伝えることも楽なことではない。 長崎市の平和公園にある平和祈念像の修復が、今年秋にも本格的に始まるという。 表面の色も現在の白から、ブロンズ本来の「緑青」色に変わる見込みだという。 像は四十年以上、風雨にさらされてきた、そして腐食が進み、表面もひび割れができて傷みが激しく、両腕が落下する危険性も指摘されているという。 長崎市によると、表面の汚れ除去作業や両腕の補強といった本格的修復となるという。 長崎での旅には、エリックがこの地で被爆したということを聞いて、新たな気持ちで、長崎へ行った。 ここでも、多くの人たちが犠牲者の霊を慰め平和の祈りを捧げていた。 長崎は信仰の地らしく、教会で平和のための特別のミサが行われていた。 輝代はナンシーと参加した。 ナンシーの温かい心に感動する輝代だった。 そして、平和式典には、チェルノブイリ原発事故の被害者の代表も参列していた。 長崎は本当の“国際都市”である。 しかし、そんなときでも、あいつらは鋭い爪を磨いでいるのだった。 いや、もう、新たなる戦いが始まっていたのだ。いや、もっと過酷な戦争が幕を開けていたのだ……。
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