ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第一部ブロック・バスター 100被爆者は日本人だけじゃない! 「あはは……」 マイクは幸せそのものだった。“泣いたカラスがまた笑った”というのはマイクにぴったりの言葉である。 博士はやはり、毛髪が抜ける時間が早すぎるのではないかと疑っていた。いや、二、三時間で抜けると書いた本もあった……と、明晰な頭脳をフル回転させていた。 博士なら、泣くまえに分析したいことが、山ほどあっただろう。博士の理性にかなったとき、博士の感情は動きだしたことだろう……。 「それにしても窓の向こうが光ったのは?」 「私は映画会社も持っている。そのSFXのメンバーが効果を上げてくれた」 「ずいぶん、おおがりですね」勉は呆れていた。 「博士、湾岸戦争はどうして終わったのかしら……」 ソフィーは訊いた。 「それは、核兵器の威力じゃない。独裁者の命が危なくなったからだよ……。核兵器でも大丈夫といわれていたシェルターの鉄板を破ったミサイルがあった。そのミサイルについては、今でも軍事機密になっている。この爆弾が落とされたとき、独裁者は戦争を終わらせた。いくら国民は苦しもうが、悲しもうが、それはどうでもいいが、自分の命は大切だ……。独裁者というものは、そういう奴さ」 「ヒトラーは違ったわよ」 「違うことはないわ。ただ、朋友のムッソリーニが、イタリアの市民たちに、虐殺されたのを知ったからだわ。終戦したって彼の命はどうせなかっただろうしね……。連合軍だけでなく、ドイツ人でさえ、彼の生命を狙っていたわ」 ソフィーはスラスラと述べた。 「じゃ、自殺しか道がなかったってわけね」 「そうよ……。あれほどのことをやったのだからね……」 「それほどのことを、やってもわかっていない人もいる?」 「誰のことだい?」 マイクは強い調子で訊いた。 「いいえ、何もないわ」 ソフィーは言葉を濁した。 原爆を未だに正義という人間が……。 ただの兵器でしかないのに。 エリックは静かに、みんなを見ていた。そして、閉じた口を開いた。 「みんな、私も実は被爆者だよ……」 思いがけないことを話しだした。 「いつ、どこで?」 ミス・ホームズの目が光った。 「それは、長崎だよ。私は、捕虜だったのだよ」 悲しそうな目をしているが微笑んでいる。 どこか、あの広島であったおばあさんに似た表情である。 悲しみや苦しみを越えた力強さがある。 「公表していないが、私は第二次世界大戦、兵隊になることを志願した。若かったので、考えもなかったのだろうね。今なら、そんなことより、どうしたら戦争を止められるか、それを考えるだろうがねぇ……」 「どうして、捕虜になったのですか?」 「日本軍は捕虜を養うなど考えられない時期だったよ……。自らも飢えていたのだから……。日本の近海には、鯨をとる船団があった……」 「鯨は殺してはいけない!野蛮だよ」 「それは、現在のことだね。今でも、学術的という名目では捕っているだろうが……。日本は島国だ。食料がなくなれば、海に求めることができる。つまり、鯨は日本人にとって、貴重なタンパク質というわけだったのだ」 波の音が聞こえる。すっかり海上でフェリーは停泊していた。
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