好事家の世迷言。

調べたがり屋の生存報告。シティーハンターとADV全般の話題が主。※只今、家族の介護問題が発生中です。あしからず。

『尚も生きる。手を取りて』第57話「伝承歌(サーガ)の再現」

2020-01-22 | ゲームブック二次創作
ザラダンは消えなかった。
正確に言えば、ザラダン「だった」魔法使いは確かに消滅した。

その代わり、「銀の門」があった場所から湧き出た黒い煙が
ザラダンを覆って混ざり合い、一つの形を取り始めた。
雄牛のように見えるその顔は、冥府の魔王。
魔法使いと戦士が戦う伝承歌で知っている、そのままの姿だった。

考えれば、自明の話だった。
異界に潜むというなら、その地に住まう者と契約する必要がある。
「銀の門」が壊れた時、この魔王が召喚される仕組みだったのだ。

たちまち一帯は、甚大な瘴気に包み込まれた。
猛烈な悪臭に吐き気がした。
全身に痛みが走り、立てない。目も開けていられなくなった。
まるで、体中を内側から、無数の太い杭で貫かれているようだった。

これも当然。今の俺の身体は魔術で創られている以上、影響を受ける。
言わば、魔力が体内で暴走している状態だ。
何らかの方法で鎮めなければ命も危ない。

……待て。なぜ俺は、そんな事を知っている?
さっきのザラダンの呪文もそうだ。
あれがどんな術なのかを詳しく承知していた理由は?

思い出せ。恐らく俺は、一番大事な事を忘れている。
未だ喋るのを拒む自分、莫大な魔力、呪文の知識。

駄目だ、バラバラな言葉がつながらない。
意識を保ち続ける事自体が、もう限界だった。

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