代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

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「宇沢イズム 共通資本に」日経新聞の記事紹介

2014年06月08日 | 新古典派経済学批判
 先日(2014年6月6日)の『日本経済新聞』の夕刊に「宇沢イズム共通資本に」という記事が大きく掲載されていた。
 
http://www.nikkei.com/article/DGKDZO72356820W4A600C1EAC000/

 宇沢先生がシカゴ大学教授時代に毎年開催していた夏期セミナーに参加していたジョセフ・スティグリッツ氏やジョージ・アカロフ氏(ともにスウェーデン銀行賞受賞者)をはじめとして、その後の東大経済学部教授時代の門下生が紹介されている。宇沢門下生が日本の金融・財政政策のかじ取りにかかわる人々が多いとし、最後に、同記事は次のようにしめくくっている。

***『日経新聞』6月6日夕刊より引用***

(宇沢氏は)昨年、過去のエッセーをまとめた『経済学は人びとを幸福にできるか』を出版した。環境や教育など、安易に市場に任せず共有財産として民主的に管理すべき分野があるとする哲学は、再び共感を得ている。日本の経済学界や政策が『市場原理主義』に陥らない背景に同氏の教えがありそうだ。

***引用終わり******

 ちなみに米国で量的緩和に歯止めをかけ、失業を減らすことを第一に優先する姿勢をとっている現在のFRB議長のジャネット・イエレンは宇沢先生の教え子のアカロフの配偶者なので、宇沢先生はイエレン議長もよく知っている。
 宇沢先生がシカゴ大学時代に撒いた反市場原理主義の種は、アメリカでも育っているといえるのかも知れない。

 また、つぎのようにも言えるのではなかろうか。「この間、小泉構造改革を応援し、TPPを推進するなど、先頭に立って日本の市場原理主義化の旗を振ってきた日本経済新聞の中にすら、市場原理主義に懐疑的な記者が存在している背景にも、宇沢先生の哲学の影響がありそうだ」と。

 日経の社内では少数派かも知れないが、こうした記事を書く記者の方々が日経新聞にもいることは心強い限りである。

 ただし記事中で「宇沢門下生」として紹介されている人びとの中には、小泉内閣の時代に経済財政諮問会議の委員などを務め小泉改革を推進した学者もいて、宇沢先生から見ると「裏切り者。顔も見たくない」という感じの方もいる。

 宇沢先生の門下生で現在はTPPを推進する側に回っている方々には、宇沢先生のTPP反対メッセージをもう一度見て欲しいと思う。

宇沢弘文氏:TPPは「社会的共通資本」を破壊する


 東大時代の宇沢先生の門下生の中には、遺憾ながら、現在の行動にはとても賛同できない方々が多い。そこへ行くと米国時代の宇沢門下生であるスティグリッツ教授は本当にすばらしい。

 スティグリッツは、TPP協定が加盟国の総需要を収縮させ、「失業と低賃金のスパイラル」に帰結する可能性をも指摘する。これまで、自由貿易協定による総需要収縮効果を語ることは米国経済学ではタブー視されていた。
 さらにTPPのISD条項について、スティグリッツは「現代のアヘン戦争」とまで呼ぶ。スティグリッツが『ニューヨークタイムス』に書いたTPP批判の記事が、現代ビジネスに翻訳されている。TPPで焦点になっている医薬品の特許問題について、スティグリッツは以下のように断罪している。一節を紹介したい。



****スティグリッツのTPP批判。「現代ビジネス」より引用*****
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38987

TPPによって、ジェネリック医薬品(特許切れの後発医薬品)の導入はさらに困難となり、医薬品の価格は上がる。これは最貧国にとって、単純に金を企業の金庫に移すという話ではない。何千人もがムダ死にするということだ。 

 
***引用終わり*****
 

 ただし、ひとつ不満な点があるとすれば、犠牲者は「何千人」の単位ですむ話しではないだろう、ということである。
 
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