代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

米国債の暴落を回避させる方法

2009年05月29日 | エコロジカル・ニューディール政策
 田中宇さんが、「ドル崩壊の夏になる?」という記事を書いて、米国債とドルの崩落予測をしています。このまま行けばそうなる可能性大ですが、今は回避するための知恵を絞るべきと思います。現在、アメリカ政府の財政赤字が拡大する中で、米国債に流れ込んでいた投機資金が再び原油や穀物市場に流れ込み、原油・穀物価格が急騰しています。結局、今の状態で米国債が暴落すると、穀物価格の上昇などで、また世界中の貧困層が困るだけです。多くの人々が困るような「予測」を涼しい顔をして行い、何の代替案も出さない態度には、私は感心できません。

 田中さんと言えば過去にも、無責任な予測をしまくって、外しまくっています。2006年から07年にかけて「アメリカのイラン攻撃が近い。中東大戦争が始まる」といった予測をしまくっていたのは記憶に新しいです。何回も繰り返すので、最後の方は、ほとんどオオカミ少年のようでした。ちなみに私はといえば「アメリカのイラン攻撃は、財政的に無理だ」と言っていました(例えば2006年2月のこの記事)。

 私は、社会現象に対しては「予測する」などというゴーマンな行為自体がナンセンスだという立場です。エラそうに「予測」して、外しまくっている有名人たちが日本にはじつに多いのですが、何とも滑稽なものです。なぜか日本の知的伝統風土では、そういう人たちが許されてしまっているのが不思議です。

 「複雑系」である社会現象では、予測するという行為そのものが未来の状態を変えてしまうので、「100%正しい予測」などをすることは原理的に不可能です。一例をあげれば、マルクスが「労働者が困窮してプロレタリア革命が起こる」と予測したことが、資本家たちにそれを回避しようという努力と妥協を促す結果になり、結果としてマルクスの予測そのものが外れてしまうという具合です。
 もっともある条件設定の上で、レンジを区切って予測することは限定的には可能ではありますので、私もその範囲では予測を行うこともありますが・・・・。ですので、先の予測にしても、「資本家と政府が、労働者の困窮化を放置するならば」と前提条件を入れておけば間違ったことにはならなかった。そういう条件をつけないで、「歴史の必然として、必ずプロレタリア革命は起きる」というように言ってしまえば、それは間違いなわけです。

 田中さんは、地球温暖化対策に対しても、欧州が中国やインドなど途上国の経済発展を拒むための謀略であるかのように述べています。じつに後ろ向きでネガティブな分析で、足を引っ張るだけなのです。
 それに対して私は、じゃあ途上国から見ても公平で、彼らの利益にもなるような温暖化対策をしようではないかという前向きな提案をします。未来に対して責任を持つ者の態度としては、ネガティブな分析ではなく、前向きな代替案を提示することなのです。
 ネガティブな分析をしたところで、問題解決には何の足しにもなりません。日本の知識人には、ネガティブに足を引っ張る批判分析に終始している人がじつに多い。日本の知的風土全体に、正のフィードバック機構は存在せず、負のフィードバックで満たされています。困ったことです。
 ですから、私がエコロジカル・ニューディールとブログで訴え続けても、もらうコメントも負のフィードバックばかりで、ポジティブに反応してくれる人はほとんど出ず、マスコミも全く無視で、アメリカで言われるまでちっとも広がりませんでした。

 私がすることは、「こうなるだろう」という予測でななく、「こうすべきだ」という政策提言です。その提案が未来の状態になるように、実現に向けて努力するだけです。このブログに対しては、「客観的でない。主観が入りまくり」などとよく批判されますが、複雑系における個人のふるまいとしては、それが正しい態度なのだと思います。
 「客観的に」分析している田中さんが予測を外しまくっているのに対し、「主観的な態度で」政策提案をしている私の書いてきたことの方が、エコロジカル・ニューディールの概念のように、よほど実際に現実化してきています。
 
 私は、ブッシュ政権時代には、「米国債を買うな。戦争に使われるだけだ。アメリカを助けるな」と叫び続けました。しかし環境や雇用や社会保障や核軍縮といった良い政策課題を掲げるオバマ政権に対しては、日本はできる範囲で米国債を追加購入して助けてやるべきだと考えています。
 せっかく良い政策に舵を切ろうとした米国が本当に困っているときに助けてやることこそ、今回の大河ドラマじゃないですけど、「義」に基づく態度だといえるでしょう。この際、米国人に対して「義」という概念を教育してあげましょう。

 もちろん助けるためには、グリーン・ニューディールや核兵器廃絶など、オバマが、自ら掲げる政策を裏切らずに推進することを条件とします。さらに米国債購入の条件として、アフガニスタンからも手を引け、日本はもうミニマム・アクセス米を受け入れない、といった追加的な条件も出すべきでしょう。小泉時代のようなアメリカに言われるがままの従属的な米国債買いではなく、自分の意志で米国との関係を対等にもっていき威信を回復するための米国債買いを行えばよいわけです。

 そういえば国民新党の亀井静香さんも、かつてはイラク戦争やアメリカに要求された郵政民営化に反対して、「アメリカの言いなりになるな」と叫び続けてきました。しかし最近は、政権を奪取したら「米景気対策の財源となる米国債を積極的に購入する」と述べ、「えっ、あの亀井さんが」と人々を驚かせています(この記事)。おそらく亀井さんも私と同じ気持ちなのでしょう。

 このまま米国債が暴落したら、大量の米国債を保有している日本や中国もまきこまれて景気がさらに悪化する、ふたたび穀物価格が高騰する、せっかくのオバマのグリーン・ニューディールも挫折して、またアメリカが理性を失って暴走してしまうかも知れない、などなど、世界にとって良いことは何もなさそうです。同じ資金なら、穀物投機や原油投機に流れるよりも、アメリカ経済の低炭素化というグリーン・ニューディールに使ってもらった方がはるかに人類全体のためになるのです。
 
 私はブッシュ政権時代から、「日本は米国債を外交カードとして使いながら、アメリカにエコロジカル・ニューディール政策の実施を迫れ」と言い続けてきました。「戦争ケインズ政策」ではなく、「エコロジカルなケインズ政策」の実施を、日本がアメリカに提出する「年次改革要望書」の条件として迫り、それをやった場合のみアメリカを助けるという提案でした。いまやアメリカは、エコロジカルなケインズ主義に舵を切ったので、助けてやるのに異存はありません。
 もっとも私の提案どおり、日本の「年次改革要求」によってアメリカでグリーン・ニューディールが始まったのなら、少しは留飲も下がったのですが、現実にはアメリカが自発的に始め、日本は後追いになってしまったので、じつに悔しい限りです。

 しかし遅れたとはいえ、麻生政権の政策の中には若干見るべきものがあります。
 このブログで論じてきたことの中に、「米国におけるエコロジカル・ニューディールの一環として、アメリカの東西両海岸に日本の技術で新幹線を建設し、米国債暴落を回避するために、日本政府は手持ちの米国債を新幹線会社の株式と交換する」という提案がありました。(2007年9月のこの記事

 うれしいことに、麻生政権はアメリカでグリーン・ニューディールの一環として計画している高速鉄道建設計画に対して、日本の新幹線技術を売り込んでいます。(この記事)。麻生政権のブレーンの誰かがこのブログを読んでいてくれるのかな、と思えるくらい、最近はこのブログで書いてきたことが現実に実行されてくるようになってきました(例えば公立の小中学校の屋上に片端から太陽光発電パネルを設置するという公共事業など)。

 もちろん麻生内閣の取り組みは全く不十分ですし、未だ本来のエコロジカル・ニューディール構想からはほど遠いものです。このブログで訴えてきたのは、脱ダム・脱道路とセットにしたエコロジカル・ニューディールの実施でした。麻生内閣では、若干のグリーン・ニューディール的内容もあるのですが、公共事業の前倒しで相変わらずダム建設や道路建設を野放しにしている点が決定的に間違っている点です。それ故、財政破綻するのではないかという将来不安を払拭できないのです。

 しかしながら、新幹線の売り込みをオバマに行った点に関しては、麻生首相を高く評価します。(いままでさんざん麻生首相を批判してきましたが、もちろん良いことは良い、悪いことは悪いという立場です)。
 さらに米国債暴落のリスクを回避するために、手持ちの米国債を新しい新幹線会社の株式と交換するということまで踏み込まねばなりません。日本政府がこの交渉をしたかどうかは、報道されていないので分かりませんが・・・・。
 これを実施すれば、新幹線の対米輸出利益、米国債暴落による日本の経済的打撃の回避、米国のCO2削減、米国の雇用対策といった一石四鳥くらいの利益があります。バカな戦争になどいくらお金を注ぎ込んでも、返済される可能性は皆無ですが、成長が見込める「低炭素産業」分野であれば、米国債を買って助けても見返りは期待できます。ですので、日本の不利益にはなりません。

 米国債暴落を回避するためには、日本と中国とで協力しながら米国債=株式スワップを実行するしかないと思います。あるいは「米国債=環境スワップ」と言ってもよいかも知れません。
 日本政府としては、将来の米国債=株式スワップを条件として、当面の危機脱出のための米国債を追加購入して助けてあげるべきだと思います。もちろん新幹線会社だけじゃ、金額としては全く不十分。グリーン・ニューディールによって建設していく、地下鉄やLRTなど他の公共交通機関、さらに太陽光発電会社や風力発電会社、スマート・グリッドの送電線会社などの株式とも、米国債を交換していくべきでしょう。それが日本と米国がともに沈没するという事態を回避する、もっとも現実的な方法かと思います。

 補足すれば、この方式は日本国債を減らす方法としても使えます。日本坂グリーン・ニューディールの一環で各地域に政府持ち株の半官半民のLRT会社や自然エネルギー発電会社などをどんどん設立し、ゆうちょ銀行など日本国債の大量保有者に、その会社の株式と国債を交換してもらうわけです(その意味でも郵貯の民営化は白紙の戻すべきなのです)。日本の累積債務問題を解決するためには、こうした知恵も必要でしょう。
  

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6 コメント

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なるほど (ふしぶじゑ(萩原))
2009-05-30 16:22:13
勉強になります。

中国やイスラエルを見習って日本も海外でのロビー活動をもっとうまくやったほうがいいかもしれませんね。

陰謀が有るのか無いのかで内輪モメしてる場合じゃないかもw
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萩原さま ()
2009-05-31 22:34:06
 コメントありがとうございました。この間、忙しくてほとんど更新できておらず申し訳ございませんでした。

 同じ現象であっても、ある人にとっては「陰謀」となり、ある人にとっては単なる「海外ロビー活動」ってことになるのかも知れませんね(笑)。

 アメリカでのロビー活動は大変に重要だと思います。(陰謀でも何でもなく、正々堂々と日米双方のためになる政策を売り込めばよいわけなので・・・)
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国家民営化論!? (デルタ)
2009-06-03 21:30:51
こんにちは。

>国債=株式スワップ
これは確か、「株式会社自衛隊」という本で20年くらい前に似た提案がありましたね(「ウルトラマン研究序説」を書いた人たちと同じグループによる本です)。
私としては、わりと理想に近い姿なので賛成なのですが、次の3項はきっちりコンセンサスをつくらないといけません。

・単なる投資家が、経営にどこまで立ち入っていいか、
一般の企業でさえコンセンサスがないので、かなり難しい事態が発生しそうです。電力会社の株主になって原発廃炉の提案をする共同提案者を7年やってますが、そのたび、「この判断は経営の問題であり、投資家が介入できない(商法上認められない)」とはねつけられて続けている経験から、そう感じます。
http://hosiakari.blog34.fc2.com/blog-entry-300.html
まして、政府が政府へ「株」の圧力を使って申し入れすれば、「構造協議」の比にならないくらいの軋轢になるでしょう。

・また、政府がそのような議決権を行使する際の手続きを民主化する必要もあります。USAの年金基金のようなやり方を本当に許していいのか、という問題をクリアせねばなりません。

・これらは、日本政府を株式交換により「株式会社」とした場合を想像すれば、その危険さをご理解いただけると思います
(私がいうのは変ですけど、「法的強制力を独占する機関の意志決定が、巨額出資者の意図によって支配される、という図式は、リバタリアンも想定外というのか、そんなこと起こしてはいけないと思っている。だからこそ、政府の法的強制力を小さくすることが前提になる)

さて、高速鉄道の件ですが
USAの場合、関さんの意図からだいぶ外れた結果になると危惧しています。

元鉄道マニアがこういうことを言ってはいけないと思いますが、
LRTや高速鉄道よりも、バス専用レーンを制度として定着させる方が、投資効率がいいはずです。投資はそちらを優先させたいです。

特に高速鉄道は、新設されると、飛行機から顧客を奪う前に高速バスからお客を奪ってしまい、その経営を立ちゆかなくさせてしまいます(九州での新幹線開業以降、その現象が見えています)。

特にUSAのばあい、既存インフラとしてグレイハウンドのバス網があり、貧困層+ビンボウ旅行者のかけがえのない足となっています。いっぽう、裕福層+出張者は、時間差をお金で買うことに抵抗ないですから、わざわざ遅い鉄道に乗るはずもありません。
近距離であれば、高速鉄道と飛行機とは競合し得ますが(例えば、東京大阪間で新幹線とシャトル便飛行機とが熾烈な争いをしていますね。競争過程で新幹線の利便性・割引を充実させた結果、同区間の高速バスが減便されつつあります)
長距離であれば、やはり航空機からお客を取れないのです(八戸まで新幹線が延伸し、高速の特急で北海道と結んでも、東京-北海道間の旅客は、飛行機の1/20程度から変動しません)
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デルタさま ()
2009-06-06 21:12:36
 国債=株式スワップへの賛成意見ありがとうございました。
 
 また高速鉄道と高速バスの比較について。確かに、バスが淘汰されて貧困層が困るといった事態にならないように注意すべきだと思います。私の願いは、もちろんマイカーと飛行機の利用削減です。
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Unknown (ななし)
2009-06-16 04:17:34
ドルや米国債の暴落を防ぐにはやっぱり中国や産油国やロシアがこれまで通りに米国債権を買い支えなきゃ駄目でしょうね。
特に対米黒字が年間30兆円を超えてる中国が損(将来の元高ドル安)を承知で買い支えないとね。
中国側は色々とクレームを付けて牽制してるようですが。
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蚊取り (田舎者)
2009-06-21 12:38:28
ドル国債もそうですが、それと、同様、日本国債も危ないのですが・・・。7月頭に来年度税収予想が出て、来年度の国債増発額が予想されるはずです。景気回復・税収増の予想を政府が言っても巷は信用していません。民営化された郵便局は新規の国債は買わない、外国債券への投資を増やしています、ゴミ買いでしょうが。関先生は優しいから、私のような陰謀論は言わないでしょうが、米国はドルを守る為なら、イラクと同じく戦争も平気です、オバマがどうこうではではなく。民主党の政治家は昨年、オバマに忠告しています、オバマはケネディのように試されるだろうと。日本の近くでミサイルが飛び、なんだかんだなら、円売り・ドル買い、です。キタのミサイルはこの前、一ドル93円で飛びました。中国、イランと暴動が広がっています。「国債の夏、緊張の夏」にならんことを。
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