代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

テロより怖い ―決壊リスクのある全米2000基のダム 

2017年02月16日 | 治水と緑のダム
 
 しばらく多忙でブログを放置していました。すいません。

 トランプ大統領と安倍晋三首相がノンキにゴルフに興じているあいだ、カリフォルニア州北部にある堤体の高さが230メートルと全米でもっとも高いオロビル・ダムが決壊の危機に陥って、周辺住民19万人近くが避難するという事態になった。

 カリフォルニアは、一昨年の異常渇水とはうって変わって、今年は異常豪雨。極端な渇水と豪雨がそれぞれ頻発するようになる温暖化時代の気候変動の特徴が典型的に表れた災害である。
 

放水路に穴が開いたオロビルダム
出所)http://www.citylab.com/politics/2017/02/oroville-dam-flooding-california-infrastructure/516417/


 豪雨による増水にダムが耐えられなくなり、放水路から大量放水したところ、放水路に穴が開き、どんどん拡大、ダム決壊の可能性が生じた。そこで建設以来一回も使ったことのない非常用放水路を使って放水をしようとしたがうまく行かず危機的な状態になった。非常用放水路から越流させて緊急放水を続け、何とか最悪の事態だけは回避した模様。しかし、引き続き豪雨が来るようなことがあれば、いつまた危機が再燃するか分からないだろう。

 アメリカのダムの老朽化は深刻である。トランプ大統領の公約の一つは「アメリカの老朽化したインフラを立て直す」であるが、果たしてアメリカのダム問題の深刻さに目が届いているかどうか・・・・。
 上記写真の出所元の「From the Atlantic CITYLAB」の記事の見出しは、「オロビルダムの危機は、トランプのインフラ計画の欠陥を露呈する」というものだった。

 同記事によれば、「トランプのインフラ再建計画は、民間企業に対する主に税額控除をインセンティブとして、民間企業にインフラ修復・改善への投資を促すものであり、老朽化したオロビルダムの修復のような事業は、利益優先の民間企業の関心を呼ぶものではないだろう」と分析している。あくまで、連邦政府が直接的に修復のための公共事業に乗り出さない限り、今のままのトランプ・プランでは危機を回避できないことを示唆している。
 

全米で2000基のダムが決壊の危機

 全米でどれだけのダムが危機的であるか確認しておこう。
 以下の図は、以下のサイトからの引用である。
http://www.npr.org/2015/10/11/447181629/aging-and-underfunded-americas-dam-safety-problem-in-4-charts



 この記事によれば、全米に8万7000基あるダムのうち、4000基は決壊リスクがあり修復の必要性がある。決壊リスクのある4000のうちの半数の2000基近くのダムでは、ダムが決壊した場合、周辺住民の生命が重大な危険にさらされる。
 重大な危険がある2000基近くの決壊リスク・ダムのデータは以下の図の通りである。

 
 図 危険なダムの数と、その内修復されたダムの数
 ※うす緑色が決壊リスクのある危険なダムの総数で、そのうち濃い緑が修復予算がついたもの

 決壊リスクがあり危険なダムは2000基近くあるが、毎年、修復されているダムは150から200程度で、まったく追いついていない。
 今回危機を迎えているオロビルダムも、2005年から決壊のリスクが指摘されていたが、予算不足で手が回らない状態だったという。

 全米ダム安全協会(Association od State Dam Safety)によれば、危険な2000基弱のダムをすべて修復した場合、必要な予算は540億ドルに達し、現在の予算規模では修復に50年を要するという。その50年のあいだにさらに多くのダムが老朽化していく。修復のスピードは、新たな決壊リスクダムの増加スピードに全く追いつかないのだ。その間に温暖化が進み、異常豪雨も増えるであろうことから、決壊の悪夢が現実化する危険性は高いだろう。
 ホワイトハウスは、国の安全保障を真剣に考えるのであれば、CIAなど有害無益なスパイ組織・テロ支援組織の予算を削って、不要なダムの撤去および、必要なダム修復に予算を転用すべきである。

 全米のダムのうち65%は政府ではなく民間が所有している。連邦政府予算で、これらのダムを修復することはできず、放置されている。民間のダムの場合、現行法では、ダムが壊れたり機能不全に陥って住民の生命・財産が脅かされる緊急事態にならない限り、連邦政府予算で修復することはできない。

 こうした問題を解決するためにこそ、従来の常識の捕らわれないトランプの突破力が必要とされていると思う。入国禁止問題で、最高裁と揉めるよりも、こうした問題の解決にリーダーシップを発揮した方が、トランプの支持率も増え、国民の対立の和解も進むであろう。


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