複数の作業員が水面に出ている船底に上り、生存者救出のため、穴を開ける作業を3日夜から4日にかけて「夜通し」続けた。中国湖北省の長江で転覆した客船の救助活動。国営中央テレビは4日未明(日本時間同)、作業を美談仕立てで伝えた。
「明るい情報に絞って伝えたい」。中央テレビのキャスターは3日、事故についてこうコメント。同テレビは犠牲者の家族らの悲しみや怒りを一切伝えておらず、習近平指導部が指導部批判につながる「マイナス報道」の規制を徹底していることを裏付けた形だ。
中国メディアは、事故後、現地入りした李克強首相が3日に傘を差しながら現場周辺を視察した場面を繰り返し伝えた。テレビは救助隊員らが李氏の「演説」を聞くために整列、活動の手を休めている姿を映し出した。
中国の習近平シージンピン政権は、中国・長江での大型客船転覆への対応に全力を挙げる姿勢を強調している。
「全国民の期待が君たちの双肩にかかっている」
中国中央テレビによると、現場で指揮を執る李克強リークォーチャン首相は3日午前、捜索救助にあたる潜水員らを激励。引き揚げられた遺体を前に黙とうをささげた。
政権は転覆から一夜明けた2日朝から、新華社通信などを通じ、習国家主席が中央政府や現場のある湖北省などに全力で対応に当たるよう指示したことや、李首相が現地入りしたことなどを細かく発表している。初動に不手際がないと主張するためだ。
中国では2011年に浙江省温州で40人が死亡する高速鉄道事故が発生した。中国当局は事故車両を現場近くに埋め、発生から2日後に運行を再開。当時の胡錦濤フージンタオ政権は、「人命軽視」「証拠隠滅」といった国内外の強い批判にさらされた。
また、昨年4月には隣国・韓国で発生した旅客船「セウォル号」沈没事故で、韓国の朴槿恵パククネ政権が、救助の遅れや海洋当局と船舶業界との癒着などで批判を浴び、求心力を低下させた。
それだけに、習政権は警戒感を強めている。