◆宿泊専用部屋7割なし/1年半連泊の利用者も
お年寄りの日帰り介護施設で宿泊も受け入れる「お泊まりデイサービス」が急増しているのを受け、静岡県は十日、利用者の安全確保のため独自の指針を作り五月から運用すると発表した。浜松、静岡両政令市にも呼び掛け、県内の全施設を対象にする。
県が同日明らかにした実態調査結果によると、二〇一三年十一月末時点で、県内全千二百二十五の介護施設の一割超がお泊まりデイを実施。直前の十カ月で一・六四倍に増えた。
宿泊専用の部屋を備えたのは三割にとどまり、七割は食堂などを転用。複数で利用する際は大半の施設が間仕切りし、男女同室はなかった。最大で一日十五人を受け入れ、一年半連泊している利用者もいた。
宿泊料は八百~一万三千五百円とばらつきがある。常時一人以上の職員を置いている施設は七割超、一~二人は一割超だった。
県の指針は消防法などの法令順守、常時一人以上の職員確保、受け入れ人数制限、非常災害に備えることなどを求める内容。施設から定期報告を受けて県がホームページで公表する。同様の指針は東京、愛知など四都府県が定めている。
お泊まりデイは各施設の自主サービス。家族の休息や緊急時、特別養護老人ホームに空きがない場合に簡単な手続きで宿泊できる。全国的に需要が高まっているが、一定のサービス水準を担保する法令や根拠がなかった。
◆安全や人権 施設任せに
介護保険対象外で国の基準がなく、認可の必要もない「お泊まりデイサービス」。静岡県が独自の指針策定に乗り出した背景には、利用者ニーズが高まる一方で、お年寄りの安全や人権面などが施設任せとなっている実態がある。本格的な高齢化社会を迎え、介護環境整備は「待ったなし」の状態だ。
「日中のデイサービス利用者は、お泊まりデイは一泊八百円」
県内には格安料金を売りにする事業所がある。毎日の在宅介護で疲労が重なる家族にとっては貴重な休息日を作れるありがたいサービス。この事業者を利用した家族は「通常なら一泊五千円ぐらい。この値段の安さはかなり魅力的だった」と思わず飛び付いた。
だが、施設を利用した母親は「もう二度とあの施設には行きたくない」と言い出した。「何か嫌なことがあったのかも」と家族は心配になった。結局、料金は高めでも、これまで通っていた事業所のお泊まりデイを利用している。
全国的にも安価な宿泊代で多くの利用者を受け入れ、運営する施設はある。夜間の職員の配置体制など国の基準もないため、火災時など緊急時の利用者の安全管理は施設側に一任されている。厚生労働省はこれらの実態を把握しているが「良いとか悪いとか、あくまで施設の自主事業としか言えない」と歯切れが悪い。
浜松市南区の介護施設「ここ倶楽部(くらぶ)」は今年二月、介護家族らに配っている広報紙で「お泊まりデイ特集」を掲載。利用者家族に安心してもらうため、宿泊部屋の広さや食事内容などをあらためて公表した。利用者の求めに応じてお泊まりデイを始めたのは二〇〇五年九月。運営する見野孝子さんは「介護家族が休息できる機会でもあり、なくてはならなくなっている」と語る。
浜松市も県の実態調査とは別に昨年十一月、市内のデイサービス事業所に初めて任意調査を実施。七割に当たる百九十七事業所から回答があり、12%の二十三事業所がお泊まりデイを始めていることが分かった。市介護保険課は「今後も増えるだろう」と見込む。(木原育子)