若年寄の遺言

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「人権擁護」とは「憲法上の基本的人権の尊重」ではなく「法務省の省益確保」である

2011年08月03日 | 政治
○新たな人権救済機関の設置について(基本方針)
平成23年8月 法務省政務三役

======【引用ここから】======
1 法案の名称
・法案の名称については,人権擁護に関する施策を総合的に推進するとともに,
人権侵害による被害に対する救済・予防等のために人権救済機関を設置するこ
と,その救済手続等を定めることなど,法案の内容を端的に示す名称とするも
のとする。

2 人権救済機関(人権委員会)の設置
・人権救済機関については,政府からの独立性を有し,パリ原則に適合する組
織とするため,国家行政組織法第3条第2項の規定に基づき,人権委員会を設
置する。新制度の速やかな発足及び現行制度からの円滑な移行を図るため,人
権委員会は,法務省に設置するものとし,その組織・救済措置における権限の
在り方等は,更に検討するものとする。

3 人権委員会
・人権委員会については,我が国における人権侵害に対する救済・予防,人権
啓発のほか,国民の人権擁護に関する施策を総合的に推進し,政府に対して国
内の人権状況に関する意見を提出すること等をその任務とするものとする。
・人権委員会の委員長及び委員については,中立公正で人権問題を扱うにふさ
わしい人格識見を備えた者を選任するとともに,これに当たっては,国民の多
様な意見が反映されるよう,両議院の同意を得て行うもの(いわゆる国会同意
人事)とする。

4 地方組織
・地方における活動は,利用者の便宜,実効的な調査・救済活動及び全国同一
レベルでの救済活動の実現のため,現在,人権擁護事務を担っている全国の法
務局・地方法務局及びその支局を国民のアクセスポイントとし,同組織の活用
・充実を図り,新制度への円滑な移行が可能となるように検討するものとする。
・人権委員会は,全国所要の地に事務局職員を配置し,同委員会の任務を実現
するための諸活動を行わせるとともに,法務局・地方法務局における事務の遂
行を指導監督させる等の方策を検討するものとする(具体的な人権委員会と地
方組織との関係等については,なお検討する。)。

5 人権擁護委員
・人権擁護委員については,既存の委員及びその組織体を活用し,活動の一層
の活性化を図るものとする。
・人権擁護委員の候補者の資格に関する規定(人権擁護委員法第6条第3項参
照)及び人権擁護委員の給与に関する規定(同法第8条第1項参照)は,現行
のまま,新制度に移行する。

6 報道関係条項
・報道機関等による人権侵害については,報道機関等による自主的取組に期待
し,特段の規定を設けないこととする。

7 特別調査
・人権侵害の調査は,任意の調査に一本化し,調査拒否に対する過料等の制裁
に関する規定は置かないこととする。調査活動のより一層の実効性確保につい
ては,新制度導入後の運用状況を踏まえ,改めて検討するものとする。

8 救済措置
・救済措置については,調停・仲裁を広く利用可能なものとして,より実効的
な救済の実現を図ることとし,訴訟参加及び差止請求訴訟の提起については,
当面,その導入をしないこととする。
・その他の救済措置については,人権擁護推進審議会答申後の法整備の状況等
をも踏まえ,更に検討することとする。

9 その他
・速やかで円滑な新制度の導入を図るとともに,制度発足後5年の実績を踏ま
えて,必要な見直しをすることとする。

======【引用ここまで】======



このように、法務省政務三役
(江田五月法務大臣、小川敏夫法務副大臣、黒岩宇洋法務大臣政務官)が、
新しい人権救済機関の設置を発表した。


さて。

一般に「人権」と言えば、「憲法上の基本的人権」を指す。
法の下の平等、自由権、社会権、参政権、受益権などがそうだ。
これらの権利は、「個人 vs 国家」の間で個人が有している権利であり、
人権を侵害する主体は基本的に国家のみである。
人権は権利であり、権利の裏返しとしての義務が国家に課せられている。

そして、権利・義務と呼ぶからには、
権利者は何を請求でき、義務者は何をしなければならないかということが、
明確になっていなければならない。


※------
憲法学のトピックとして「人権の私人間効力」というものがある。
「人権の私人間効力」とは、「個人 vs 国家」の憲法の人権規定が、
「個人 vs 個人」でも適用できる場面があるのではないか、という議論を指す。

ただ、これは例外に属する話。
人権とは「個人 vs 国家」の中で個人に保障された権利であるのが基本であり、
「個人 vs 個人」で人権規定の適用が問題になるのは、限られた例外。
しかも、双方とも個人であり、人権を主張できることから、
「表現の自由 vs プライバシー権」
「雇用の自由 vs 思想信条の自由」
のように、対立する双方の人権を慎重に比較する必要がある。
そのため、安易に「個人 vs 個人」で人権侵害を認定することはできない。
------



では本題。

新制度で救済される「人権」とは何か。
法務省によると・・・



○法務省:主な人権課題
======【引用ここから】======
「人権」とは「すべての人々が生命と自由を確保し,それぞれの幸福を追求する権利」あるいは「人間が人間らしく生きる権利で,生まれながらに持つ権利」であり,だれにとっても身近で大切なもの,日常の思いやりの心によって守られるものだと私たちは考えています。子どもたちに対しては,「命を大切にすること」,「みんなと仲良くすること」と話しています。
「人権」は難しいものではなく,だれでも心で理解し,感じることのできるものです。

======【引用ここまで】======



もうね、意味が分からない。

この説明からは、
「国民の人権は国家へ向けられた権利。国家が遵守すべき義務」
という基本がすっ飛んでいる。

権利・義務であるにもかかわらず、
「思いやりの心によって守られるもの」
「命を大切にすること」
「みんなと仲良くすること」

とか、子どもを馬鹿にしすぎだ。
こんなことは、小学校の道徳授業や読書感想文でやるレベルの話だ。


憲法学をかじったことのある人で、この法務省の説明に納得する者は
いないだろう。
もしいるとすれば、基本的人権の講義の時に居眠りしていたか、
知性が著しく低いかのどちらかだ。

法務省ホームページには、上記の人権の説明に続いて、
取り組むべき主な人権課題を列挙している。
しかし、ほとんどが「個人 vs 個人」の話ばかりで、
「個人 vs 国家」での憲法上の基本的人権の問題は少ない。
個人間で起こりうるトラブル
(警察が犯罪として捜査すべきもの、民事上の紛争として処理すべきもの)
や、小学校の道徳教育として実施すべきものを一括りにし、
これに「人権課題」という名札をつけ、アンケート調査まで行っている。

一方で、「個人 vs 国家」の領域であり、本来的意味での人権課題として
取り扱うべきものについては、全く触れていない。
取り調べの可視化や、刑務所における受刑者の取扱いなどがそうだ。
法務省にとって都合の悪い部分は見事にスルーしている。
また、憲法学で「人権の私人間効力」の典型例として挙げられる
マスメディアは、人権委員会の調査対象から外している。

法務省が言う「人権課題」とは、
法務省が触れたくない、触れられたくない部分を伏せ、
法務省として介入したい話題、介入しやすい話題に
「人権」の名称を付けてみただけに過ぎない。

高齢者や障害者の話題に「人権」の名称を付けることで、
厚生労働省の所管部分に口出しできる。
いじめ、体罰の話題に「人権」の名称を付けることで、
文部科学省の所管部分に口出しできる。
拉致被害者や人身取引の話題に「人権」の名称を付けることで、
外務省の所管部分に口出しできる。
インターネットの話題に「人権」の名称を付けることで、
総務省の所管部分に口出しできる。

しかも、人権委員会とその地方組織に事務局を設置することで、
法務省のポストが増える。
権限と部署が増え、省益は増す。予算もつくだろう。
法務省にとってこんなに美味しい話はない。

法務省は、人権擁護事業でいうところの「人権」の定義を、
決して明確にはしないだろう。
「人権」の定義を明確にすると、介入できる範囲が限られてしまい、
法務省の省益を害するからだ。
だから、
「『人権』は難しいものではなく,だれでも心で理解し,感じることのできるものです。」
なんてフワフワした説明になるのだ。
活動の根拠をあやふやにしておけば、運用しだいでどのような活動もできる。


人権問題とは、自由権を核とする個人に保障された基本的人権を、
いかに国家に守らせるかの問題である。
それを、法務省が「国民のみなさん、みんな仲良く、思いやりをもって」
なんて啓発活動をするのは、筋違いもいいところ。
問題のすり替えである。

人権教育、人権擁護の対象となるべきは、国民ではない。
法務省をはじめとする公務員だ。
公務員の都合で採用されたり、スルーされたりするような話題は、
本来の意味で「人権」課題と呼ぶことは出来ない。

人権とは、法務省の役人が、国民に対して守らせるものではない。
国民が、法務省の役人に対して「お前、人権侵害するなよ」と目を光らせるべきものだ。

参照(過去ブログ)
○人権とは、権利である。 - 若年寄の遺言



○追記(20110810)
人権侵害救済法案は何故廃止すべきか。|日本版ティーパーティー(東京茶会/Tokyo Tea Party)
こちらのブログでは、人権擁護事業、法務省人権擁護局そのものの
必要性にまで言及されている。
廃止できれば、人件費、事業費が浮いて国民は大助かりというものだ。

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