若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

恥も外聞もないiPad自治体 ~ふるさと納税を巡る総務省 vs 行橋市~

2018年12月04日 | 地方議会・地方政治

【自己負担が低すぎることによる歪み】

以前、当ブログではふるさと納税を

歪な補助金行政

として批判対象に挙げてきた。
特に、イベリコ豚や都内一流ホテルのランチといった、市外の品をふるさと納税のリストに並べる悪質な自治体を強く批判してきた。
そのため、返礼品を地場産品に限定するなど、ふるさと納税を縮小・廃止の方向に進むことを願ってきた。

利用者の自己負担2,000円で数十万円のカタログギフトを貰えるこの制度。
自己負担が低いということは、医療や介護に見られる
「自己負担1割で利用できます」
と同様、需要と供給のバランスを崩してしまう。

 ・医療 → 一部の医師の長時間勤務、特定の診療科の不足、高齢者の不必要な受診による医療費負担増
 ・介護 → 介護職員の低賃金、介護離職、保険料負担の倍増

といったように、自己負担を意図的に低く抑えることで需要が過剰になり、別の場所で無理が生じてしまう。
制度が長期間続けば続くほど、こうした需給バランスを崩したことによる弊害は大きくなる。

【見かけ2,000円ポッキリのゆがみ】

ふるさと納税では、実質2,000円の自己負担で高額商品を貰える。
この仕組みは、高級なイメージをやっとの思いで定着させることに成功した商品(例えば高級和牛など)を、役所が補助金を付けて安売りしているのとほぼ同じことを意味する。
せっかくブランドイメージを定着させても、一度、高額商品を2,000円でゲットした消費者は、今後、同じ商品や似たような商品を定価で買うことに抵抗を示すかもしれない。
ふるさと納税が盛んになればなるほど、
「定価で買わずに、来年のふるさと納税で貰おう」
と考える人も増えるだろう。

また、ふるさと納税が盛んになればなるほど、ふるさと納税対象外の類似商品は競争上ハンデを負わされることになる。

商品Aは、定価20,000円。役所からふるさと納税返礼品の指定を受けている。消費者は実質2,000円で買うことができ、業者は役所から定価分の代金を受け取る。役所は他の役所へ納税されるはずの金をかすめ取って業者へ支払い、この残りが役所の収入となる。

商品Bは、役所から返礼品の指定を受けていない。従来は定価18,000円でBを販売していたのだが、赤字覚悟で半額にしてもAには対抗できない。なんせAの見かけの負担は2000円だから。

ふるさと納税返礼品としての指定を受けることで、業者は営業努力無しで商品を売りさばくことができるようになる。
この状態が長く続けば、業者の意識は商品開発や営業といった対消費者向けの努力よりも、返礼品指定をする役所の担当者の意向把握に重きを置くようになる。

「消費者に気に入ってもらうよりも、ふるさと納税の返礼品として採用されるよう役所に取り入ろう」
と、消費者の動向よりも役人の意向が気になるようになれば、商品の質はいずれ悪化する。

複数の自治体がお互いにこれをやると、補助金をバラ撒いての品質劣化競争になってしまう。
自治体が減税や無駄な事業の削減をせず、自治体間で金を取り合ってその金で業者に補助金をやる、こんなことを続けていてはジリ貧の将来しかない。

寄付金額に関わらず、地場産の2,000円程度のものを返礼品として用意するのであれば、弊害はまだ小さい。
「あくまで地元PRなんです。」
という理屈も成り立つだろう。
しかし、海外産の食材や海外メーカーの工業製品、高額な商品を返礼品として贈ることを正当化する理屈は皆無と言っていいだろう。

【ふるさと納税へのブレーキと、恥を知らない市長】

総務省は、ふるさと納税の返礼率を3割以下に抑えるとともに、返礼品を地場産品に限定するよう各自治体に要請した。

そもそも、ふるさと納税を開始した総務省は許されるものではない。
(その意味で、始めた時の総務大臣であった菅官房長官は、責任を取って直ちに内閣を去るべきである。)
しかし、まだまだ廃止には程遠いものの、総務省が制度のクズっぷりを自覚して軌道修正を始めた点は評価できる。

ところが・・・

○返礼にiPad、ふるさと納税が急増 市は「地場産品」 - ライブドアニュース
======【引用ここから】======
福岡県行橋市へのふるさと納税による寄付額が飛躍的に伸びている。
   ~~~~~(中略)~~~~~
10月末現在の今年度の寄付額による返礼品人気ベスト3は(1)iPad(寄付額4億4千万円)(2)アップルウォッチ(1億2千万円)(3)アップルTV(3300万円)と、行橋の特産品ではないアップル製品が独占。特にiPadは2カ月ほどでトップに躍り出た。

 返礼品については、総務省が「寄付額の3割以下」「地場産品」を自治体に求めている。豪華返礼品を見直す自治体もあり、佐賀県みやき町は8月にiPadなどを取り下げた。行橋市では3割以下は守ってきたが、地場産品の見直しは保留。田中純市長は「我々は市内の企業や個人が業として扱っている物は地場産品というくくりでやってきた。ルールが明確化されたら、それに従う」と説明している。

======【引用ここまで】======

何なんだこの自治体は。

何なんだこの市長コメントは。

総務省から「地場産品に限定してね」と言われた後になって、海外大企業の製品をふるさと納税で取り扱う。
 この無神経さ、
 往生際の悪さ、
 火事場泥棒感。

「市内企業が取り扱う物は地場産品」

なんて、よくこんな屁理屈を記者に話せたもんだ。

大企業であるAppleの製品にに補助金を出して販促するというのは、再分配政策としても最低の部類に入るだろう。一般の納税者の金を大企業の製品の販売促進のための補助金にするという、極めて逆進性の高い手法である。

ただただ呆れるばかりである。
呆れているのは私だけではない。

https://twitter.com/Jin115/status/1069380965644943361


○福岡県行橋市が『iPad』を返礼品にして“ふるさと納税”荒稼ぎ!アップルストアすら無いのに「iPadは地場産品」と言い張るwww : オレ的ゲーム速報@刃


https://twitter.com/shoji_lawyer/status/1069136872335540230


「何でもありになる」
「恥も外聞もない」
「開いた口が塞がらない」

と、酷評のオンパレード。

この市長が得たふるさと納税の収入は、全国民に広く浅く損失を押し付けた結果生じたものだ。
おまけに、市場における価格メカニズムをゆがめ、税制の逆進性を強めた。
この責めは何らかの形で負うべきである。

さて。

「返礼品は地場産品に限る」
と釘をさすも、真っ向から無視された形の総務省。
このまま黙ってるのかな?
どんなペナルティを課すのかな?

これを機に、悪質な自治体についてはふるさと納税による増収分の倍額だけ地方交付税を削減すれば良いと思う。