私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

『パラダイス・モーテル』 エリック・マコーマック

2012-01-23 21:16:39 | 小説(海外作家)

長い失踪の後、帰宅した祖父が語ったのは、ある一家の奇怪で悲惨な事件だった。一家の四人の兄妹は、医者である父親に殺された母親の体の一部を、父親自身の手でそれぞれの体に埋め込まれたという。四人のその後の驚きに満ちた人生とそれを語る人々のシュールで奇怪な物語。ポストモダン小説史に輝く傑作。
増田まもる 訳
出版社:東京創元社(創元ライブラリ)




裏表紙のあらすじに「ポストモダン小説の傑作」という文言があるけれど、読み終えた後で、どうしてそんな言葉が使われているのか、気づくことができた。
確かに(うまく説明できないが)ポストモダン的である。

はっきり言って、僕はこういったオチはあまり好きではないのだけど、本作に対しては最後まで悪い印象を持たなかった。
それはオチはともかくとしても、内容そのものがきわめておもしろいからである。


内容は祖父の奇妙な話を聞かされた語り手が、その事件の真相を探るというスタイルの物語である。

そこで描かれるエピソードが個性的でおもしろい。
冒頭の妻の死体を子どもたちの体内に隠すエピソードからして、グロテスクなイメージにあふれていて、なかなか印象的である。

個人的に一番おもしろかったのは、エイモス・マッケンジーのエピソードだ。
眼球が飛び出したシャーマンや、トカゲを使ったエピソードのイメージは、何とグロテスクでインパクトのあることだろう。しかもシュールなのがいい。

ほかにも奔放なイメージがあちこちに見られる。それを追うだけで楽しい読書体験だった。


また物語中には、無自覚に嘘を語る、ということに関するエピソードがあり、それもグロテスクなイメージ同様に目を引く。
自己喪失患者のために医者が代わりのペルソナを用意するという話や、想像上の経験を真実らしく語る軍人のエピソードなどがおもしろい。
そうしたエピソードを積み重ねることで、数々の物語が実際のところは、現実なのか、それとも嘘でしかないのか、だんだんぼやけていくようにさえ見える。

そういう風に見てみると、物語を物語るという行為そのものが、一つの物語となりうる、ということが本作からは言えるのかもしれないな、なんて思ったりした。


というわけで、オチは個人的には合わないのだが、語りを駆使する様や、奔放なイメージがなかなかにおもしろい作品である。
読書体験としては満足そのものであった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿