私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「ヒミズ」

2012-01-24 21:27:12 | 映画(は行)

2011年度作品。日本映画。
15歳の少年・住田祐一は、実家の貸しボート屋に集まる、震災で家を失くした夜野さん、田村さんたちと平凡な日常を送っていた。住田のクラスメイトの茶沢景子は、大人びた雰囲気の住田が好きで猛アタックをかける。疎まれながらも彼との距離を縮めていく茶沢。ある日、借金を作り蒸発していた住田の父が帰って来た。金をせびりながら殴りつける父親の暴力に耐える住田。ほどなく母親も中年男と駆け落ちしてしまい、住田は天涯孤独となってしまう。(ヒミズ - goo 映画より)
監督は「愛のむきだし」の園子温。
出演は染谷将太、二階堂ふみ ら。




決して良い映画とは言えない。しかしまっすぐ心に届く作品となりえている。
それが「ヒミズ」の総合的な印象である。


園子温の演出は過剰という印象が強い。
本作においてもそれは変わらず、喜びにしろ、怒りにしろ、それを前面に出して表現することが多かった。

おかげで演者も叫んだり、オーバーアクションの演出が目立っていたように思う。
また、教室で叫んだり、ゲームとか言ってはたき合ったりするなど、現実的に見て普通はありえないなと感じるような演出も多かった。
そのため、どうも見ていて引いてしまう部分は多かった。

過剰なのは演出だけでなく、道具立てもそうである。
母親が娘の絞首台をつくったりするところや、ピザ屋をむかえる下着姿の女とか、やりたい放題かよ、と見ていて感じる部分が目立った。

そういった過剰さのおかげで、個人的には上手く物語に入り込めなかった。
「愛のむきだし」も過剰だったが、まったくそんなことは感じなかっただけに、なぜ本作がこうなってしまったのか、わからない。あるいはシリアスなのに、非現実的な点がミスマッチだったのかもな、という気もする。


しかしその過剰さが、いい方向に向かっているポイントもあるのだ。
そう感じたのは、染谷将太と二階堂ふみ、という若手二人の力によるところが大きい。
園子温は「愛のむきだし」の満谷ひかりといい、「冷たい熱帯魚」のでんでんといい、演者の個性を引き出すのが上手いらしい。

染谷将太演じる住田は、親に捨てられたような少年で、特に父親を恨んでおり、その精神状況は鬱に近く、おかげで破れかぶれになっている。
染谷はその役にしっかりと入り込んでいるのが、見ていても伝わってきて、妙な力強さがある。

そんな住田を支える、二階堂ふみの演技もすばらしい。
基本的に彼女演じる茶沢はイタい子である。ここまでうざい子はいるのだろうか、と疑問に思うほどに、押しつけがましくて、見ていていい加減にしろよ、と言いたくなる面もある。
だがたとえば泣くシーンには感情がしっかりこもっているのは、見ていてもわかるし、それだけに彼女の思いが見ている側の心にまでしっかり届いてくるのだ。


染谷将太も、二階堂ふみも、ともかくひたむきに感情をむきだしにして、演じていてる。
そしてそれだけ感情を露わにして、まっすぐに表現しているからこそ、ラストシーンで感動できるのだ。

住田は、人生に絶望しきっており、切実に死を意識するようになっていく。
そんな住田に対して、茶沢は「ガンバレ住田」と叫んでいる。

その言葉は本当にまっすぐな言葉である。はっきり言ってベタと紙一重だ。
だがその言葉を発する二人の感情は、どこまでもひたすらにまっすぐなのである。そして、それがまっすぐである分、見ていて深い感動を覚えてしまうのだ。
そんなラストのカタルシスがなんとも忘れがたい。


「ヒミズ」は本当にいろいろと欠点の多い作品と思う。だから、良い映画とは決して言い難い。
だがこのストレートなメッセージ性ゆえに、まっすぐ心に届く作品となりえている。そう思う次第だ。

評価:★★★★(満点は★★★★★)



製作者・出演者の関連作品感想
・園子温監督作
 「愛のむきだし」
 「恋の罪」
 「冷たい熱帯魚」
・染谷将太出演作
 「14歳」
 「パンドラの匣」

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