小林真 ブログ―カロンタンのいない部屋から since 2006

2006年開設の雑記ブログを2022年1月に市議当選でタイトル更新しました。カロンタンは40歳の時に飼い始めたねこです

小津安二郎、ライブエイド、阪神優勝~母の20回目の命日に

2005-09-23 02:16:43 | 身のまわり
18日の祖父の一周忌に続き、今日22日は母の20回目の命日です。祖父母と違って母親のことなると何だかこっぱずかしくて書きにくいですが、祖父母のことを書いて母を書かないというのもまずいと、ここは勇気を出して20年前のいくつかの出来事に絞って。

「大学は出たけれどにならないようにがんばってください」。
一度だけ母からの“ハガキ”を受け取ったことがある。埼玉に実家がありながら都内の大学に通うのに下宿住まいだったその下宿先に、手紙どころか字を書いているのさえあまり見たことがなかった母がへなへなした文字で書いて来たハガキを大家さんが階段のところに置いておいてくれたのを、ほかの誰かに見られてはまずいとすばやくバッグにしまった。その気恥ずかしさを忘れない。
どういう気まぐれだったのか、なぜ手紙でなくハガキなのか。もちろんすぐに捨ててしまったろうし、何が書いてあったかは忘れてしまったが、常に万事がそうだったように全体のバランスなどまったく考えないで書き始められたらしきめちゃくちゃな文字の配列と、どこで知ったのか自分が生まれるより前の大恐慌の頃の流行語で小津安二郎もこのタイトルで映画を撮った「大学は出たけれどにならないように」というフレーズだけは記憶している。また現在の自分が、母の定義による「大学は出たけれど」でないと言い切れるだけの自信はない。

「大学は出たけれど」のハガキは1985年でなく、その前の年だったかも知れない。だが、ハガキが届いた東高円寺のアパートから引っ越した先の三鷹の駅の改札に母親がいたのは日付もわかる。今年20年ぶりに『ライブ8』として開催された『ライブエイド』があった日だったからだ。
調べるとその日は1985年7月13日の土曜。バイト先の中野から、早く帰って『ライブエイド』をみようと意気込んで12時近くに駅を降りると、改札で「来た来た、オーイ」とガキみたいに手を振る、ぼさぼさ頭にでっぷり腹の中年女を見て仰天した。「何、なんで来たん」ときくと「引越ししたつーから」と答え、父親は腹が減ったので駅前の立ち食いでそばを食っているという。
このヒマで無鉄砲で愚かな夫婦の襲来により、結局、フィル・コリンズを迎えて再結成のレッド・ツェッペリンはじめ、ロック史上屈指の大イベントは何も目にすることはできなかった。まだビデオは持っていなかった。
放っておくこともできないので、駅前のいかり亭に3人で飲みに行った。こんなこともやはり一生でこれ一度きりだ。母は漬物とか普段家で食べるのと変わらない細々としたものを食べていたように思う。
夜中なのに多くの酔客で賑わういかり亭を見回し、「何でこんなに人がいるん。東京の人はいつ寝るん」と驚く母。何を話したかはよく憶えていないが暑いから扇風機がほしいとかいっていたらしく、バイト疲れで酔っ払って寝て起きた枕もとに、早起きの中年夫婦によって買って来られた扇風機の箱がある。
考えてみると母からもらった最後のものだったかも知れないその扇風機は、それはそれでうれしく何年も大事に使った。

そして母の死から1ヶ月経たない10月16日。長男は神宮球場で、記憶の中で初めてになる阪神優勝にバカ騒ぎしていた。バース、掛布、岡田のクリーンアップが強力だった21年ぶりの優勝だ。
それから20年経った現在、偶然かどうかわれらがタイガースは今週中にも2年ぶりの優勝を決めようとしている。

塾の若い者どもと親の話などしていると、ふと母の話になることもある。そんな時は、「生きているうちに孝行しておいた方がいい」などとありふれたことをいうしかないが、同時に「だけど、生きてるオヤジに孝行してるってわけでもないから、生きてても生きてなくても孝行しないことには変わらないかもな」と付け加えることが多い。
今年の9月22日も、四国にいる姉は不参加ながら弟と日付変わって深夜の墓参りに行った。いつも好きだった餅か塩辛のどちらかを持って行くのだが、20年目の今年は特別に両方にしておいた。
それより前の昼間には、まったく偶然のこんなこと。一冊の本を探して部屋の中をかきまわしていたら、ねこのやつらが本棚の上を走り回って置いてあった箱を落とした。すっかり忘れていたその箱から、学生の時に母が買っておいてくれた安物のスウェットの上下が。下宿に誰かが泊まりに来た時によく着用されていた青いスウェットに、やはり裁縫もへただった母のつたない糸づかいで長男の名前が刺繍というにも気が引ける粗っぽいカタカナで描かれているのを本当に久しぶりに、けれども懐かしいというわけではなく見た。
20年前なんてほんのちょっと前、ならば20年後もあっという間のすぐ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ランドマーク』~完璧と構... | トップ | 『きれいなおかあさん』~中... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

身のまわり」カテゴリの最新記事