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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

99%のための経済政策フォーラム 年金改革の方向

2020年02月04日 | 集会報告
1月28日(火)午後、衆議院第一議員会館地下の大会議室で99%のための経済政策第7回「全世代型社会保障改革を斬る。安心できる社会保障を! 年金改革を中心に」が開催された(主催 99%のための経済政策フォーラム)。この学習会は、立憲野党がやや弱い経済政策について、市民とともに学ぼうという趣旨で2018年12月にスタートし、これまで「景気対策となる経済政策」「消費税」「社会保障制度改革と財政問題」「公平な税制」などをテーマにして学んできた。その結果、あるべき経済政策は、税制では「応能負担による公平公正な税制」、予算(使い方)では「暮らし中心の好循環経済をつくる」という方向性が見えてきた(HPのPDF参照)。講師の伊藤周平・鹿児島大学教授にはほぼ1年前の昨年2月の第3回「社会保障制度改革と財政問題」でもお話しいただいたが、好評に応え今回は年金問題中心の講演だった。伊藤教授の論旨は明快で提案も具体的だった。またご自身のご家族のエピソードなども含めユーモアに富む話し方で、飽きさせない2時間だった。ただし年金制度はかなり専門的かつ難解で、そのうえ専門用語も多くありやや難しかった。
なおこの日も、福島みずほ・社民党参議院議員、木村英子・れいわ参議院議員、柿沢未途・無所属(社保)衆議院議員など7人の国会議員が直接参加していた。
また当日の講演の動画と配布資料はこのサイトでみることができる。

全世代型社会保障改革を斬る。安心できる社会保障を! 年金改革を中心に
                   伊藤周平・鹿児島大学教授
学生に年金のことを教えていて「積立金160兆を株などに投資している」というとびっくりする。また若者に限らず「社会保障をするためには消費税が必要」というマインドコントロールが効いているが、年金制度をよく知る人は少ない。日本では高齢者をはじめあらゆる世代の貧困が拡大・深刻化している。もともと日本の社会保障の水準は低いのに、全体に削減している。とくに年金で政府は世代間の対立を煽っている。そこに「全世代型社会保障改革」の本質が表れている。
要介護3以上でないと入所できない特養への入所希望者は37万人に上り、保育園への待機児童数をはるかに越えている。こうしたなか老老介護で疲れ果て、経済的にも厳しく「心中」事件という悲しいできごとが続発している。先が見えない人生なのでみんな不安に駆られ、少ない貯金をできるだけ使わず貯めこむ方向に流れている。ちゃんとした年金制度を確立すれば安心できるようになるのに、残念ながらそういう方向には進んでいない。これが現状だ。

1 これまでの年金改革
給付水準を維持するため保険料を引き上げていく従来の考え方を逆転し、保険料水準を固定し給付水準を削減する考え方に変えたのが年金制度の2004年改革だった。年金は物価や賃金が上がればスライドして上がっていた。平均余命の伸び率0.3%と公的年金保険者総数の減少率0.6%を前提に、年金を物価や賃金上昇並みに上げないようにする仕組みがマクロ経済スライドだ。だから年金の実質価値は下がる。この2004年改革を政府は「100年安心」と称した。国民はこれで100年安心して年金で暮らせると勘違いしたが、じつは「制度」の維持が100年可能という意味だった。制度が持続しても国民生活が持続可能でなければ意味がない。
じつはマクロ経済スライドは2004年の発足以来、2020年まで3回(2015年、19年、20年)しか実施されなかった。理由はデフレ経済だったからだ。それで消費税10%増税を財源にする年金機能強化法を2012年につくった。また12年に低年金の高齢者・障がい者に対し、40年満期加入の場合5000円/月上乗せ支給する年金生活者支援給付金法をつくったが、加入期間に比例するので10年加入なら1250円/月にしかならないし、無年金者や未納者はそもそも対象にならない。なお消費税10%を前提にしていたので実施されたのは19年10月だった。
一方12年の年金改革関連法で、2000―02年度にかけて年金のマイナス物価スライドを行わなかった累計7兆円(特例水準)を解消するため2013―15年度に年金減額を断行した。またひとり親家庭や障がい者への特例水準(1.7%)も同時期に減額した。これに対し、憲法25条(生存権規定)違憲として全国各地で取消訴訟が提訴された。2016年には持続可能性向上法が成立し、マクロ経済スライドが行われない年は、翌年度以降に持ち越すキャリーオーバー制度が導入されることになった。持ち越してまで年金を下げようということだ。21年4月以降は、本来年金と関係がないはずなのに賃金水準が下がれば年金も下げる制度になる。また2016年の年金機能強化法改正法で、受給資格が25年から10年に短縮されたことは無年金者が減るという点では評価できる。ただし10年加入の場合、年金は16000円/月に過ぎないので低年金の高齢者が増大することになる。障がい1級の場合、基礎年金は1.25倍なので年間100万円弱になる。しかし障がい者の比率はOECD加盟国の平均は14%なのに日本は4%しか認定されない。人数も額も諸外国に比べ少ない。さらに日本は無年金の実態も把握していない。一説には約100万人という推計もある。

2 2019年財政検証の内容と問題点
2019年8月、公的年金の収支や給付の見通しを示す5年に1度の財政検証結果が公表された。経済成長と労働参加(人口、就業率など)により6つの将来推計ケースが示された。オプションとして、短時間労働者を厚生年金に移行させ人数を増やしたり、厚生年金加入年齢を75歳まで延長し保険料を増やすなどを付け、所得代替率(年金を受け取り始める時点における年金額と現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)の比率)50%の確保を目安にしている。これにはさまざまな批判がある。そもそもモデル世帯を40年間厚生年金に加入した夫と40年間専業主婦の妻から成る世帯としているが、そういう世帯は少ないのではないか、共働きや一人暮らし世帯、非正規労働者では代替率はもっと下がる、年金生活者はなぜ手取りで計算しないのか、ILO勧告では50%でなく「夫婦の従前所得55%以上」が基準だ、年金は受け取り始めの時期以降の手取りは下がってくるはず、などだ。
最大の問題は、基礎年金しかもらっていない人は(厚生年金受給者に比べ)マクロ経済スライドの効果が大きく、下がり方が激しいという問題だ。現役時代に低賃金だった人ほど年金が大きく低下する。現在価格で計算すると65000円/月支給の人が45000円に減額する。したがって基礎年金が最低生活保障の役割を果たさなくなる

3 年金保険の現状と課題一方で年金の空洞化が進んでいる。保険料納付額は65%にとどまる。保険料減免を受けている人が約600万人、全体の4割にも及ぶ。かつて厚生年金の適用を受けない第1号被保険者は自営業者が中心だった。かつての自営業者はサービス産業に吸収され、いま第1号被保険者は厚生年金に入れない非正規労働者が主だ。国民保険料は所得に関係なく定額で16000円/月だが、とても払えず未納・滞納・免除が増える。給付もなくなるか低額になり、老後の最低生活保障もなくなる。厚生年金のほうも、事業主負担が1/2と高く中小企業は支払えないので社員を雇わず非正規労働者に頼る。事業主になんらかの支援をしないとますます非正規が増えたり適用逃れを増やすことになる。厚生年金未加入事業所の労働者が約200万人にも上る。老齢基礎年金のみの受給者は3056万人、平均月額5万5500円で生活保護基準を下回る。貧困率はとくに女性の単身世帯で高く、56%に及ぶ。本来は全世代の社会保障を底上げしないといけないのに削減している。年金水準が一般市民の生活費の半額程度に設定されており、かつ医療・介護保険の負担を考慮していない、マクロ経済スライドが一律適用されるので基礎年金が最低生活保障の機能を果たしていない。

4 最低保障年金の構想
国民年金法1条には「国民年金制度は、日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基き(略)健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする」とある。憲法25条は1項・2項一体と考えられ、1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」なので、本来基礎年金だけで「健康で文化的な最低限度の生活」を保障できなければいけない。たまには美術展を見に行ったり、友人と合宿できる生活を保障しないといけない。障がい者は移動支援や就労支援もあってよいはずなのに、そうなっていない。
いまは高齢になっても働き続けるか、生活保護ということになっている。ひどくないだろうか。最低保障年金をつくれば生活保護は激減する。生活保護も税金で実施しているのだから最低保障年金を税金にしてもよいのではなかろうか。国連社会権規約委員会も2013年の第3回総括所見で日本政府に対し、最低保障年金の確立と生活保護申請手続きの簡素化などを勧告した。日本年金者組合も月額8万円の老齢保障年金を提言している。
税方式へ移行するまでにもできることはある。まず年金生活者支援給付金の対象を無年金者にも拡大し支給額も増やすこと、そして年金積立金を1年分の給付費約50兆だけ残して、100兆円を計画的に取り崩し年金水準引上げの財源にすることだ。アメリカも運用は国債だけで、市場運用はしていない。
かつて日本各地にグリーンピアを建設して失敗し、だれも責任を取らなかった。わたしたちも源泉徴収後の手取り額を見るだけでなく、税の使い道を見ていかないといけない。

5 税制改革と社会保険改革の方向
社会保険制度を変え、消費税でないかたちで財源を確保できないものだろうか。日本は税・社会保障による所得再分配ができていない。再分配の結果、子どもの貧困率が上がっている。これは本来取ってはいけない低所得者から税を取り、再分配すべき手当や年金が少ないということだ。再分配を強化するには、あるところから取ればよいのである。
2020年度予算の税収は62兆円、うち消費税が22兆と所得税を追い抜き間接税が1位になっている。税は応能負担(担税力)原則に基づくべきだ。たとえば飲料水は貧乏な人も金持ちも必要だが、100倍の金持ちが水を100倍飲むわけではない。だから消費税は逆進性が高い。一方金持ちは金融資産を投資に回すが配当所得や株式譲渡所得は分離課税なので累進課税になっていない。消費税導入のとき、財界は「直間比率の是正」という言い方をし、実際その通りになった。この30年で法人税、所得税が減税になり、その分を消費税が穴埋めする結果になった。直接税と間接税の比率が変わったということだ。
〈応能負担への税制改革〉
所得税は、分離課税になっている所得すべてを合算し総合課税にし、かつ金融所得の税率20%をもう少し上げるべきだ。また給与所得控除額は引き下げられたので、もう少し上げるべきだ。
一方法人税は少なくとももう引き下げない。そして租税特別措置など大企業優遇税制を廃止もしくは縮小する。法人税、所得税の不公平税制を是正すれば、国税で27.3兆、地方税で10.7兆、合計38兆の増収になるという試算もある。消費税の5%減税も可能である。
消費税は逆進性が強いので将来的には廃止すべきだ。マレーシアは最近消費税(GST)を廃止し、以前のSST(日本の物品税)を復活した。日本も貴金属などに課税したかつての物品税を復活したほうがよい。当時2.2兆の税収だったがもう少し課税ベースを広げればさらなる税収が見込める。
〈社会保険改革〉
社会保障財源の多くを占める社会保険料の負担軽減をすべきだ。いまは収入のない人や低所得の人にも、国民健康保険料・介護保険料・後期高齢者医療保険料の支払い義務があり減免も災害などに限定されているが、保険料を免除すべきだ。介護保険料と後期高齢者医療保険料は高額なので、それだけで年金の半額に当たる人も出てきている。ドイツのように所得に応じ定率にすればよい。所得ゼロの人の保険料はゼロになる。また事業主負担が日本は低いのでもっと上げてもよい。ただし中小企業は減額してもよい。あるいはフランスのように利益に応じて課税する税方式に仕組みを変える方法もある。国庫負担を元の40%水準に戻せば、保険料を協会けんぽ並みに引き下げることができる。また健保は標準報酬月額の上限を139万円、厚生年金は62万円にしているが、高所得者の上限を健保並みに139万円に引き上げるだけで1.6兆円保険料増収が見込める。
介護保険は一生に一度でも使う人は2割しかいないし、介護保険や後期高齢者医療制度を保険でやるなら住民税非課税者は保険料を免除すべきだ。そうすると6割が免除になる。後期高齢者医療制度は病気になりやすい人が多いので、健保組合などの支援金に頼っている。保険制度になじまない。支援金負担が重いため健保組合を解散するところまである。介護保険も本人負担1割があるので「1万円の壁」があり、月10万円のケアプランしかつくれない。現金を払えない分は家族が介護することになるので悲劇が起こる。ドイツのように在宅介護する家族にも介護給付や労災給付を支給すべきである。
〈今後なすべきこと〉
税制改革はできるのか? 現政権では無理だ。法人税改革は、大企業から多額の政治献金を受け取っているからだ。
野党は税制・社会保障改革の行程表をつくるべきだ。また市民は改革するよう声を上げるべきだ。そしてあきらめないことが重要だ。息子が5歳のときマンガ雑誌の懸賞に応募し続けた。もうやめたらと思ったが、妻は「出さないと当たらない」といった。そして見事に全国で3人しか当たらない賞品を当てた。あの執念は見習うべきだ。いまの社会はおかしいので、ぜひあきらめず、みんなが希望をもてる社会をつくっていきたい。

講演終了後、質疑応答が8つほどあった。そのなかでわたくしが興味深く聞いたものを2つ紹介する。
Q 高齢者社会保障で、保険方式を税方式に転換したとき財源はいくらくらい必要になるのか?
A 介護保険で5兆円(+1から2兆円)、後期高齢者医療保険で5兆円、総額10兆円プラスアルファ程度だ。
Q 若い現役世代が不安に思っていることは事実だ。安心できる積立方式の年金はどうだろうか?
A 積立方式年金はリーマンショックで破綻した。予測にムリがあるからだ。多くの国は(日本のように)賦課方式へと移行した。

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