多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

「東京都こども基本条例」と朝鮮学校への補助金

2023年10月10日 | 集会報告

江東区枝川に東京朝鮮第二初級学校がある。わたしは2014年に映画「60万回のトライ」、2017年に「ウルボ――泣き虫ボクシング部」、2021年に「私はチョソンサラムです」上映会がこの学校を会場に行われ、またコロナ前の2019年に授業参観させていただいたことがあり、何度か来訪した。

9月30日(土)午後、枝川朝鮮学校支援都民基金総会と学習会が開催された。
枝川朝鮮学校支援都民基金とは
いまから20年前石原都政の2003年、この学校の用地の一部が都有地だったため、明け渡しと損害金4億円を求めて都が提訴した。ウリハッキョ(私たちの学校)がなくなるという危機感から2005年5月裁判支援団体「枝川朝鮮学校支援」都民基金が生まれた。裁判は4年続き、和解というかたちで07年に終結し、学校は存続した。
裁判終結後、都民基金は学校支援を目的に活動を続けた。2011年東日本大震災の年に新校舎に建て替わり、今年で創設19年になる。朝鮮語学習教室・ミレも継続中だそうだ。他の団体同様この3年、コロナ禍でほとんど活動できずやっとこの日を迎えたとのことだった。

上記は、総会を傍聴していてわたくしが理解した内容だ。理解の間違いもあるかもしれない。
裁判の概要は2007年に「パッチギ! LOVE&PEACE」をみたころから知っていたし、基金の名も聞いたことはある。しかし連絡先を知らなかった。9月の文科省前金曜行動で総会と学習会があることを知り、参加した。
墨田、板橋、太田などの朝鮮学校で支援する会があることは知っていたが、枝川では、基金が支援活動を行っていることがわかった。
●学習会で「東京都こども基本条例」を知る
この日は総会のあと、体育館で東京都こども基本条例に関する学習会が開催された。
この条例は2021年に制定されたそうだが、わたしは名前すら知らなかった。
理念的、抽象的なテーマだったことと、講堂の音響が少し反響して聞き取りづらい点があり、理解できたところを中心に主旨を紹介する。映画上映会のときは普通に聞こえていたので、この日は音響機器のせいか、あるいは暑い日で、扉をすべて開放していたことが影響したのかもしれない。
 以下、子どもという言葉が頻出する。都条例は「こども」、国連条約は「子ども」、都議会議事録は「子供」と表記がまちまちだが、固有名詞を除き「子ども」で統一する。

「東京都こども基本条例」から朝鮮学校を考える
 

                   松原拓郎さん(弁護士 井の頭法律事務所
2023年現在、朝鮮学校の生徒に東京都の補助金は出ていない私立外国人学校に関する教育運営費補助制度は1995年に制定され、2008年に国連自由権規約委員会から「きわめて低額」との懸念が出ていたもののまがりなりにも支給されていた。ところが2010年11月分以降は凍結、13年度以降予算計上すらなくなった
その理由は、「都民の理解が得られない」というものだ。今日の講演のひとつのキーワード「都民の(多数)の理解が得られない」というものだ。
一方で「子どもの権利条約」を基礎とした「東京都こども基本条例」が、2021年3月都議会本会議で全会派一致で可決成立し、4月施行した。これは画期的なことだ。
21年3月都議会厚生委員会で、条例案の提案理由まつば多美子都議(公明)から説明された。3回も「どもの権利条約」に言及している。「子どもの権利条約の精神と合致する」「子どもを大切にする視点から、子どもの権利条約の精神にのっとり」「子どもの権利条約を具体化する子ども政策の総合的推進が重要」と提案した。
条例本文でも、3条(基本理念)で「子どもの権利条約の精神にのっとり(略)子どもの最善の利益を最優先とすること」とし、4条(子どもの権利)で権利条約の4つの権利(生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利)を踏まえ、子どもの安全安心の確保(6条)、居場所づくり(7条)、子育て家庭の多面的支援(9条)、子どもの意見表明と施策への反映(10条)、子どもの参加の促進(11条)など施策の基本となる事項を定めている。
なお2条(定義)で子どもとは18歳未満とあるが、国籍等の限定はない
3条の「子どもの最善の利益を最優先とする」はとくに大切で、これがもうひとつのキーワードだ。
●子どもの権利条約
条例の基になった国連「子どもの権利条約」について、少し触れる。条約でもっとも重要なのは「児童の最善の利益」だ。
児童のさまざまな権利が挙げられているが、教育を受ける権利も重要だ。28条で初等教育はすべての者に対し無償中等教育でも無償教育や必要な場合における財政的援助の提供が謳われている。
30条で少数民族に属す児童は「自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない」と定められている。
この条約は1989年に採択され、日本も29年前の1994年に批准した。
●朝鮮学校補助金とのかかわり
東京都が補助金を出すか出さないかの基準は「多くの都民の理解を得られない」ことだったが、そもそも子どもは多数決に参加していない。たとえば「いじめ」問題で、「多数」の子どもは傍観しているので、いじめられる子は「多数の意見を得られない」から仕方がないとは思えない。社会やおとなは、一人ひとりのこどもに最善の状態をつくる責任がある。
同じことが「子どもの権利条約」にある。子どものために何か決めるとき、基準は多数決ではなく、その子どもの最善の利益は何かということで決めると定義している。
「東京都こども基本条例」には子どもの最善の利益を最優先として決めなければいけないことが明記されている。
子どもへの補助金支給に置き換えると、都民の多数決で決めるのではなく、子どもの最善の利益と合致するようという条例だ。国に先んじて都が条例を制定した。なお国も2023年4月子ども基本法を施行した。
これらの体系はピラミッド構造にもたとえられる。一番下にあるベース部分が国連の「子どもの権利条約」「人種差別撤廃条約」および国連各委員会の意見や勧告、それに基づく(国の)「子ども基本法」、それを基に「東京都子ども基本条例」、さらに都の基本条例をもとに市区町村レベルの条例などが乗っかる、という構造だ。ベースはあくまでも国連の「子どもの権利条約」だ。

会場後方に掲げられたタペストリー。コロナだった2年前、都民基金の会員らが生徒たちに贈った「応援メッセージ」
講演のあと、7人の聴衆の方から質問や意見表明があった。その中から、高齢者福祉や障がい者福祉など福祉の専門家の方からの「鋭い」質問と松原さんの回答を紹介する。

Q 福祉の分野でも「最大の利益」ということが語られている。たとえば「障がい者の最大の利益」というが、「障がい者」の利益とは何か。障がい者のなかには自身の「最大の利益」を表明できない人もいる支援者の最大の利益になっていることもあるのではないか。日本への昨年の国連審査で指摘されたと聞いた。
松原さんの回答は「ひとつの価値観に基づき、最善の利益の頂点に掲げてはいけない。それより最善の利益はその人の主体性を真ん中に置いて、環境整備をするほうが最善の利益になる。目的を設定するのでなく、さまざまな情報を提供して保障し考えていくための環境づくりのほうが、じつは最善の利益の中核なのかと考える。
ご質問のように、支援者のための最善の利益に陥りがちなので、気を付けないといけない。教育を含めすべての福祉分野に通底する問題だと思う」 
「最善の利益」といわれるとかなり抽象的だが、「環境整備」と説明されて、すこし理解できたように思った。
また都議の方から「超党派の勉強会を昨年来開催しており、今年3月には子どもの声を冊子にまとめ、東京都子ども基本条例の担当セクションであるこども政策連携室に手渡し、全室員に読んでもらった。また都議会本会議で連携室長が「すべての子ども」と発言したことも小さいながらも成果のひとつ」との報告があった。
小池都政は、関東大震災での朝鮮人虐殺に対する追悼文送付も7年連続で拒否を続けているし、上司を忖度する人権部が都人権プラザでの朝鮮人虐殺に触れた映画上映を禁止したりしているので、とても人権問題に冷たい都政運営だと思っていた。そうした環境のなか、こんな条例が制定・施行されていたとは予想外だったが、本当によかった。議会と行政とは違う、二元制のメリットということかもしれないが、全会派の賛同で成立したとは、快挙である。

学習会が終わったあと、屋外の校庭脇で焼肉パーティが行われた。これまで参加した映画上映会のあと、同様のパーティが行われていたことは知っていたが、わたしが参加するのは初めてである。
3-4人のグループで七輪を囲み焼肉やホルモンを焼いて食べる。シンプルな料理だが付き合わせのきゅうりやキムチをつまみにごはんを食べると予想どおり大変うまい。屋外で焼きながらなので、子どものころのキャンプのようだ。缶ビールもおいしそうだった。わたしは飲酒運転になるので、この日はウーロン茶のペットボトルでひたすらがまんした。
七輪の火力調整は下の空気口の開閉で行うが、たまたま古い器具でうまく開閉できず、ときどき炎が高くあがり、金網に氷を直置きし温度を下げた。肉の一部は炭化した。しかし燃え上がる炎をながめながらの食事は、今後の希望を象徴するようで気分が上向きになった。。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


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