澤山輝彦
<斑猫(ハンミョウ)は道おしえ>
2000年4月22日川西市赤松高原寺近くで、5月2日亀岡市畑野町千ケ畑法常寺境内で各々1匹のハンミョウを見た。
ハンミョウは甲虫(鞘翅目)ハンミョウ科に属す昆虫だ。金属光沢を持った緑、群青、橙色、白などをまとった美しい虫だ。ハンミョウは山道などで出会うと人の歩く先へひょいと飛び、とまって人が近づくとまた飛び立つ、なぜこんなことをするのか分からないが、この性質から俗に「道教え」と呼ばれる。今年の2匹は道案内をしなかったが、私はある夏、池田の五月山で道案内をしてもらったことがあった。
泉鏡花の小説「龍潭譚」はこんなハンミョウに導かれて異次元の世界に迷い込んだ子どもの話だ。まよったあげく異界の沼辺の葦の中に倒れた子どもが目をさますとそこは柔らかいふとんの中、障子を開け放して見える庭つづきに子どもが見たものは、妖しく美しい女性が蝋燭の明かりのなか盥を据えて「身に一糸もかけでむかうざまにひたりて居たり」とある。家へ帰された子どもは気がふれたと柱にくくりつけられたりして大変な目にあう。紐を解いてもらって表にでると仲間の子どもに狐つきといわれ石を投げられるなどひどい目にあう。私は次にハンミョウと出会えば後はどうなってもかまわないからぜひそんなところへ案内してほしいと頼もうと思っている。
昔、ハンミョウは毒虫とされてきた。それも人を殺すぐらいの毒を持つとされていたようだ。泉鏡花は「由緒の女」という小説でもハンミョウについて書いている。「可恐い毒蟲だね」「然うだとも、毒の方へ掛けちゃあ敵なしだ。」などと、登場人物に斑猫は恐ろしいと語らせている。有毒なのは、ツチハンミョウ、マメハンミョウというもので、ツチハンミョウ科に分類される。きれいなハンミョウは全く関係ない。ハンミョウは幼虫のあいだ土の中に住む。この時期の生態もおもしろい。このごろのように山里の小さな道までどこもかしこも舗装されてしまうとハンミョウの住むところはどんどん狭くなり、ハンミョウは減っていく。21世紀にはハンミョウと出会うことは珍しいことになるかもしれない。異次元への旅など出来なくなるだろう。
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