『クルマと道路の経済学』の書籍紹介
高速道路建設の原動力となったJAPIC
神崎 敏則
道路問題について原稿を書く際に、とても参考になった一冊を今回紹介したい。柴田徳衛、中西啓之編、大月書店出版の『クルマと道路の経済学』は、発行が1999年なので掲載されているデータが古いものが少なくないのは残念だが、様々な角度からクルマと道路について鋭く分析している。
ヨーロッパの総額に匹敵する日本の道路建設支出
総務庁統計局の『世界の統計一九九八』から引用して、「ヨーロッパ全体の道路関連支出は、857億4800万米ドル、これに対して日本はそれにほぼ匹敵する755億4500万米ドルを支出している(95年)」また、「日本の1平方キロメートル当たりの道路延長は、3.03kmであり」、「いかに日本の道路密度が高いかがわかる」(図①参照)
「さらに諸外国では最近道路整備事業費が減少している。イギリスで65年水準である。つまり30年近く道路整備事業費は増加していない。ドイツは60年水準、フランスも多少は増えているがそれでも90年で65年水準の1.5倍、アメリカも92年で70年水準である(計量計画研究所による「欧米における交通施策の動向」『道路交通経済』(1996年4月)。しかも各国とも高速道路の整備を年々減らしている。これに対してわが国の総道路投資は、65年の6991億円が93年には15兆585億円、なんと21.5倍程度にも急増している」という。
モータリーゼーションの促進=政府の自動車残業への育成策
藤井隆幸さんから何度かご教示いただいたように、わが国の道路行政の基本的枠組みができたのは1950年代であった。道路法の全面改正、道路整備特別措置法の制定によって有料道路が創設された。また53年には道路整備費の財源等に関する臨時措置法が制定され、道路特定財源制度が創設された。この制度はユーザーに揮発油税などを課し、それによって得た財源をもっぱら道路投資にあてるものであった。そして54年に第1次道路整備5カ年計画が策定される。さらに地方道路税、軽油引取税などが創設され、地方の道路財源にあてられた。その後日本道路公団が設立され、有料高速道路建設が本格化するのである。モータリーゼーションの促進は政府の自動車産業への育成策によってもたらされた。
東京湾横断道路建設推進の原動力
東京湾横断道路=アクアラインは、千葉県木更津市と神奈川県川崎市を結ぶ総延長15km、建設費約1兆4400億円を投下して97年に開通した。計画当初1日6万代と予想されていた利用台数は、完成直前に3万3千台と下方修正されたものの、供用後は8千~1万4千台と惨憺たるものだった。2車線と4車線の混在する尼宝線でも1日交通量が2万5千台といわれているので、過大な税金投下ぶりが多くの識者から糾弾されてきた。このアクアラインの生みの親についても、本書は詳細に綴っている。
「1996年10月、東京大手町のパレスホテルに経団連幹部、千葉、神奈川、東京、埼玉の経済同友会、商工会議所などの財界人、建設省の伴事務次官(当時)など国、地方の行政関係者、自民党東京湾開発委員会委員長・中村正三郎代議士などが次々と乗りつけた。鉄鋼、金融、建設などの業界が集まって巨大プロジェクトを構想しそれを実現するために活動をおこなうJAPIC(日本プロジェクト産業協議会)が中心となって準備を進めてきた、東京湾状・湾口道路整備促進協議会の設立総会と披露パーティーに出席するためだ。ゼネコン団体である日本建設業団体連合会の会長前田又兵衛氏ら大手ゼネコン代表も顔を出している。主催者代表の田中敬・神奈川経済同友会代表幹事は『このような国家的プロジェクトを(推進するために―筆者注)19の民間団体が結束した意義は大きい』と各地の経済同友会、商工会議所、JAPICなど民間団体が結集したことを高く評価した。また伴・建設事務次官も『道路特定財源の堅持が至上命題』とこの巨大プロジェクトにゴーサインを出す上で、もっぱら道路財源にふりむけられ、それへの投資を特化させるガソリン税等の道路特定財源の死守を条件に都市計画決定を急ぐと約束した。中村自民党代議士も(いままで―筆者注)『民間の盛り上がりが欠けていた』が協議会が発足したので、計画の実現に見通しができたと満足の笑顔で乾杯の音頭をとった。そして先に指摘したように五全総でこのプロジェクト構想が具体的に書き込まれたのであった。“功を奏した”といっても過言ではない。」
――以上は、『JAPIC、93年11月』からの引用文だ。おらが春を謳歌するような政官財の癒着ぶりだ。
そして政官財癒着構造は、小泉構造改革で打ち上げられた「無駄な高速道路は一本もつくらない」というアドバルーンも木っ端みじんに粉砕してしまった。この粉砕劇の中で、JAPICがどのような役割を果たしたのか、調べたいのだが資料にありつけていない。読者諸氏の助言をいただきたい。ともかく、政官財癒着構造に粉砕されたはずの小泉首相は、負けたことをうやむやにして、国民の期待をいつまでも抱かせたままだった。
ここで、小泉首相の奇術師としての腕前を評論するつもりはない。私たちが直面している課題は、(高速)道路建設問題を国民の主権下に取り戻すことだ。
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