韓国のバス事情に学ぶ
世話人 藤井隆幸
全国商工団体連合会(民商)は『月刊民商』を発行しています。その2009/No.584(7月号)に、興味深い記事がありましたので、その内容を紹介します。
発想転換のまちづくり政策講座(第10回)
21世紀型の新たな地域政策を考える
《バスの準公営化策を進める韓国》
奈良女子大学大学院準教授 中山 徹
韓国のバス事情は日本の規制緩和とは、逆の方向に進んでいるようです。日本では2002年に「道路運送法」が規制緩和の方向で改訂され、バス路線の「許可制」が「届出制」になりました。結果は路線の新設どころか赤字路線の廃止が進み、公共交通の過疎地が一気に増えてしまいました。
一方の韓国のバス事情は、そもそも民間が勝手気ままに運営している状態があったそうです。別会社路線との乗継がなかったり、重複路線があったりで、経営の安定性もなかったようです。何より空白地域も多かったようです。
そこで、行政によるバスの準公営化が行なわれたようです。路線は市が設定し、運行は民間バス会社が行うというのだそうです。路線ごとに標準運行価格が決められ、運賃収入は収入金共同管理機構に納められます。バス会社は標準運行価格が安定して受けられるので、経営は安定して路線が定着します。収入金共同管理機構に入る収入の不足分を、市が補填するというシステムです。
バス路線は「広域急行路線」「幹線路線」「循環路線」「支線路線」に分けられ、重複路線の統合、非効率な長距離路線の短縮化、交通空白地の解消、公営である地下鉄との連携強化などが行なわれているようです。バスの車体に端末機を装置し、BMS(Bus Management System)の導入で、運行管理を強化するとともに、便利なITカードシステムを採用し、利用状況の把握に役立てているそうです。バス専用レーンの設置、系統別に車体の色分け、低床バスや天然ガス車の導入も進めているとのこと。
ソウル市の中心部の高速道路を撤去し、清渓川(チョンゲチョン)の清流と景観を取り戻したことは有名です。しかし、その背景にマイカーを規制し、公共交通を強化する韓国の発想は、日本では遠い将来の課題であるかの如くです。日本の後進性を実感せざるを得ません。これは韓国だけのことではなく、先進国の国際的傾向でもあります。
日本では高齢化社会に突入し、現実に公共交通の強化が求められています。格差社会の深刻化で、特に若い世代の車離れの傾向が強まっています。そもそも、マイカーの必要性というものが、過度に強められた背景があり、今後の社会変化で崩壊が進みかねません。お米屋さんや酒屋さんが配達するのではなく、消費者が大店舗にマイカーで買いに行く流通形態の変更。また、遠い郊外にしか、良好な住宅環境が残せない過密都市周辺では、マイカーを手放すと暮らせなくなる。過疎と過密を究極まで進行させて、人間が産業に従属させられる社会。『規制緩和』という経済界のメタボリック症候群によって、総てを歪曲してきた制度の反省が求められているのではないでしょうか。
釜山市でのバスと地下鉄の利用者の増加
(07年5月から準公営化の開始)
|
バス(人/日) |
地下鉄(人/日) |
合計(人/日) |
準公営化前(1年前) |
1,408,000 |
477,000 |
1,885,000 |
〃 後 |
1,594,000 |
531,000 |
2,125,000 |
増加率(%) |
113.2% |
111.3% |
112.7% |
韓国のバス路線の一元化と運賃の統一
|
面積(km2) |
人口 |
準公営化 |
公共交通機関 |
料金割引 |
ソウル市 |
605 |
1035 |
2004年6月 |
地下鉄(4路線) |
距離比例割引 |
釜山市 |
763 |
371 |
2007年5月 |
地下鉄(3路線) |
市内バス |
大田市 |
539 |
143 |
2005年7月 |
地下鉄(1路線) |
乗り換え無料 |
大邱市 |
885 |
254 |
2006年2月 |
地下鉄(1路線) |
乗り換え無料 |
光州市 |
501 |
140 |
2006年12月 |
地下鉄(1路線) |
乗り換え無料 |
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