『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』登山ブームと山道について**<2002.9. Vol.19>

2006年01月07日 | 川西自然教室

登山ブームと山道について

川西自然教室 堀切勇児

 皆さんはこれまでに「国際婦人年」とか「国際家族年」などのような国際○〇年という言葉をお聞きになったことがありますでしょうか? これは、年間を通じて世界各国が同じテーマに取り組むことを目的として、国連によって議決制定される国際年というものであります。この10年は毎年テーマが設定されています。ちなみに昨年は「国際ボランティア年」でした。今年(2002年)は、ご存知の方もおられると思いますが、国際山岳年(Year of Mountains)です。国際山岳年がどんなことを目的としてどんな活動をしているのかについては、雑誌「山と渓谷2002年9月号(8月発売)」に詳しく掲載されていますので興味のある方は一度お読みください。その中の言葉をお借りしますと、「国際山岳年は、山岳地域の開発と保全について、地球上のひとりひとりが自らの問題として考え、行動する、スタートの年」ということです。このように今年は国際山岳年ですので、それに因んで最近の登山ブームと登山道の問題について、考えてみたいと思います。

 日本では現在、百名山ブームを中心とした中高年登山者による第二次登山ブームとなっています。このブームは、旅行や交通関係産業、出版業界、一部の山小屋(困惑している山小屋もあると思いますが)にとっては収益の向上となり、それなりの経済効果をもたらしているといえるでしょう。また、多くの人が山やそこにある自然環境に対して興味を持つということは、すばらしいことだと思います。しかし一方で、多くの登山者が限られた山に集中するため、山に対してその環境が受け入れることができる以上の負荷がかかり(いわゆるオーバーユース)、登山道や動植物への悪影響が懸念されています。ただし、登山ブームによる環境負荷の問題は今回のブームから始まったわけではなく、昭和30年代の第一次登山ブームからすでに問題となっています。多数の登山者が歩くことによる道幅の拡大や山頂付近での休憩場所を確保するために裸地の拡大などです。いずれも人が植物の生えている場所に踏み込んだ結果生じたものです。特に、自然環境の厳しい高山あるいは環境の変化に敏感な高層湿原では、植物はぎりぎりの状況で生きているわけですから、人間による植物の踏みつけは即植物の死につながります。有名な事例としては、ご存知の方もあるかと思いますが、鳥取県大山山頂の裸地化、尾瀬至仏山登山道の荒廃などがあります。大山の問題では1985年に発足した大山の頂上を保護する会の「大山一木一石運動」により山頂付近の回復が徐々にではありますが進んでいます(3年前に私もこの目で見てきました。第一次登山ブームで損害を受けた部分が修復しないまま、あるいはさらに浸食を受けて深刻になっている状況で現在の第二次ブームが来ていますので、容易に登山道や山頂の崩壊が起こる危険性は大きいと思います。特に、現在の百名山ブームでは特定の山に登山者が集中し、また山に登れる時期や限られた年齢までの間にできるだけ多くの山を登ろうとする意識があるように見受けられて、急いで登る、悪天候だろうがなんとしても登るような、ゆっくりと山を楽しむような本来と違う登山スタイルが増えてきているように思います(私の思い過ごしならいいのですが)。また、登山装備でも多くの方がステッキを使用されていて、地面にボコボコと穴のあいた登山道を見るようになりました。このような状況は、登山道の環境に良い影響は与えないと思います。だからといって、せっかく多くの方が山に興味を持って登りたいと思っているのを止めろというわけではありません(私も登山者の一人ですから気持ちはよくわかります)。山(登山道)の環境に負荷のかかる登り方をしないように登山者ひとりひとりが考えて注意して登れば、たとえ多くの人が山に登ったとしても登山道の崩壊が急速に起こることはないと思います。このような登山者の意識向上の気運が国際山岳年をきっかけにさらに高まっていくことを期待しています。(以上の環境負荷の部分は、山と渓谷2001年7月号、環境への気配り登山、松本清先生筆、の内容を参考にしています。)

 以上は主に比較的高い山のことを中心に述べてきましたが、登山道の荒廃問題は身近な山でも重要なことと思います。身近な山で多少名が知られた山では、最近は整備が良くなって、勾配の急な部分では階段状の道が付けられるようになりました。私の住んでいる近くの能勢の妙見山、剣尾山、歌垣山など多くの山で階段状の登山道が見られますが、その階段を嫌って階段の横を歩く方がいるようで、階段の横に沿って道ができている部分が見受けられます。階段には雨などで道を流れる土砂をせき止めて道の荒廃を防ぐ作用もあるのですが、横に踏み跡ができるとそこを土砂が流れて道がえぐられ、最終的に階段まで崩壊してしまうことになります。どんな低い山であっても、やはりそこに登るときには登山道を守るという意識を常に持つことが重要だと思います。

 これまで述べてきましたような登山者ひとりひとりが注意する、あるいはボランティア活動で登山道を守ることだけでは当然限界もあります。やはり、環境省や地方自治体の環境担当部門が高速道路や幹線道路の保全だけではなく、山道の保全にも民と協力して積極的に取り組む姿勢が今後必要ではないでしょうか。

 冒頭で述べましたように、今年は国際山岳年です。登山道を中心とした山の環境、特に皆さんがお住まいになっている周りの山の環境に目を向けていただく年になれば幸いと思います。そして、それが山を守り、この先ずっと子や孫さらにその先の世代も山に登ることができるようにと願っています。

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