『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』道路公害被害の基礎知識 Vol.4**<2005.5. Vol.35>

2006年01月13日 | 基礎知識シリーズ

道路公害被害の基礎知識

国道43号線の実態から Vol.4

世話人 藤井隆幸

5-1 騒音測定の具体的方法

 このシリーズの初回に、交通量だけでは実際の公害がつかめないことを説明した。次に、大型車といっても、その大小には極端な差があることを指摘した。そして前回は、自動車排ガス測定局の数値だけでは、実態がつかめないことも解明した。今回は、騒音の問題について分析することにする。

 騒音の測定には日本工業規格(JIS)で決められた、機器と方法を使用することとされている。つまりJIS-C1502に定める普通騒音計を使用し、JIS-Z8731に定める測定方法に準拠しなければならない。

 具体的な測定方法は一般的に、毎正時(時計の長針が0を指す時)から5秒間隔に100回の瞬間値を測定する。これを24時間(回)以上測定するのである。騒音値は対数であるので、単純に加減乗除は出来ない性質の数字である。1時間に100個の値が測定されるわけであるが、数値の大きい順番に並べ替えて、大きい方から5番目を上端値(L5)、50番目を中央値(L50)、95番目を下端値(L95)とする。旧の環境基準は、この中央値(L50)を使っていた。新しい環境基準では、100個の数値をエネルギー値に変換し、平均値を出してから、それを対数に戻すという作業をすることになる。これを等価騒音レベル(Leq)という。

 こうして決定された1時間値を、旧の環境基準では6~7時(朝)・8~17時(昼)・18~21時(夕)・22~5時(夜)の数値を平均し、その時間帯の騒音レベルとした。新しい環境基準では、6~21時(昼)・22~5時(夜)の数値を平均する。新しい環境基準は1999年4月から使われるようになったが、その後に供用された道路でも、都市計画決定がそれ以前の場合、旧環境基準も満たすことが、要件になっているようである。

5-2 新しい環境基準の問題

 新しい環境基準は何が問題なのか。詳しい内容については「みちしるべ」第14号(01/11)の「道路に関する環境基準の現状と問題点 Vol.4」を参照していただきたい。中央値より等価騒音レベルの方が、実態を反映しやすいということがある。しかし、旧環境基準にない「幹線交通を担う道路に近接する空間」という、とんでもない地域区分が導入されて、騒音の環境基準はないに等しくなってしまった。

 騒音の環境基準が改定されるまでは、全国の測定地点の多くが環境基準を満たしていないことが問題となって、毎年必ず新聞記事になったものである。環境省は、全国の騒音の測定結果をまとめた際に、今でも毎年のように記者発表しているはずである。しかし、最近のデータを取り寄せたことがないので分からないが、殆ど100%の測定地点が環境基準内であろうと判断できる。したがって、新聞記事にはならないのである。二酸化窒素の環境基準の改悪と同じで、現状は変わらないのに、基準が変わったことによって、圧倒的に達成してしまうのである。

 「幹線道路近接空間」の基準は、昼間70dB(Leq)で夜間65dB(Leq)である。この数値は国道43号線でも、交差点直近の防音壁のない官民境界ぐらいでしか超えることはない。しかも、これを超えても室内で、昼間45dB(Leq)で夜間40dB(Leq)をクリアーすれば良い事になった。いわゆる屋内騒音を導入したのである。一般に木造で29dB、鉄筋コンクリート建で32dBの防音性能がある。結局、屋外騒音でも昼間75dB(Leq)で夜間70dB(Leq)あっても、環境基準内ということになる。実際問題として国道43号線でも、そんな騒音に曝されている民家は一つもない。

 そして「幹線道路近接空間」は、高速道路・国道・都道府県道・4車線以上の市町村道が該当するとされている。一般的に騒音が問題となる道路は、総てが「幹線道路近接空間」ということになる。これでは環境基準などないに等しいということである。

5-3 国道43号線判決は屋内値を否定

 ここで指摘しておきたいのだが、新しい騒音の環境基準が検討されたのは、国道43号線公害訴訟の判決が確定したからである。環境庁(当時)がテーマに取り上げたのは、判決で採用されたのは中央値ではなく等価騒音レベルであったことだ。しかし、新しい騒音の環境基準は判決の精神を全く無視し、建設省(当時)の主張した屋内値を基準にすることだけを斟酌したものであった。

 判決文では次のように指摘している。………室内値のみを基準に騒音侵害を考えることが相当でないことは明らかである。それに騒音の侵入を軽減するため閉じ籠もった生活を余儀なくされることになれば、その面からの精神的苦痛が伴うことも無視できず、これが騒音による消極的侵害であることは、言うまでもない。

 しかも、本訴における原告らの被害なるものは、主として精神的側面という情緒的な被害であるだけに、室内窓閉め、窓開け、屋外という物理的な枠組みによって画然と区分し、他との関連を捨象してその区分した断片ごとのレベルで侵害の有無を評価することも相当でない。むしろ、屋外殊に本件道路端で暴露された最大限の騒音レベルによる被害感が、精神的増幅を伴いながら、室内に持ち込まれ、その残影と室内で受ける騒音とが精神的に相乗的な悪影響を及ぼすことは、通常の事態と考えてよい。………と、明確に道路端の騒音を採用している。

5-4 騒音測定の問題点

 騒音の環境基準がとんでもないものであるのに、騒音測定の問題点もないであろう。どうせ環境基準はクリアーしているといわれるのであるから。しかしながら、ここでは数値に表れない実態を説明するのが目的で、測定値と実態の違いを明らかにしておきたい。

 道路騒音を問題にする際に、被害にあう人は24時間365日、常に騒音に曝されるのである。また、そこに住む以上、道路からの騒音以外にも、様々な騒音と共に加重騒音をを受けることになる。ところが、騒音測定に際しては、それらの条件を総て斟酌するわけではないのである。

 雨が降ったからといって、住民は晴れている地域へ移転するわけではない。当然、雨の日にも騒音に曝されていることになる。しかし、雨の日に騒音測定されることはないのである。勿論、騒音を測定する職員にとって、雨の中の作業は嫌なものである。理由はそんな単純なことではない。雨音を騒音計のマイクが拾うということが理由である。マイクが濡れると、当然性能に支障をきたす。しかし、傘のようなものを差し掛けると、傘に当たった雨粒の音もマイクは拾ってしまう。ならば、スポンジ状の覆いの下にマイクを設置すればよいではないのか。風がマイクに当たる音を拾わない為に、日常的にマイクはスポンジのカバーがしてあるものである。スポンジ状の覆いで、騒音が遮蔽されたり、反射するのが問題であるように当局は反論するのである。

 この件に関しては、屁理屈を言っているのではない。雨の日は降らない日に対して、極端に騒音レベルが高くなるからである。当然、雨音もあるのであるが、最も問題になるのは、自動車のタイヤが水しぶきを上げる音である。この音は日常的に聞くことができるので、雨の日に意識をもって聞いてみると良い。大半の人は、降らない日の倍の騒音量と感じるはずである。その量は、騒音レベルで言うと、10dBといった極端な差に相当するのである。

 次に道路交通が起因になって発生する騒音でも、以下のものは省かれるということである。クラクションの音、ブレーキ音、自動車のバウンド音、事故等の衝撃音(落下物音やそれを踏み付ける音も含む)、緊急車のサイレン、宣伝カーの拡声器音、人やペットの声、騒音計マイクの直近で発生する総ての音。

 騒音の旧環境基準は中央値を採用していたので、これらの不定常音を含めても、それほど影響はなかった。しかし、新しい環境基準は等価騒音レベルであるので、シビアに影響を与えることになる。したがって、今日の騒音測定に際しては、厳格にはずしているものと考えられる。

 騒音の環境基準は如何にして定められているのか。人の生活に悪影響を与えるか否かを判断して定められているものである。直ぐに精神的に障害があるものではなくとも、守られることが必要と認められた基準である筈である。であるならば、実際に生活している騒音を測定しなければならないはずである。しかしながら、実際に生活する中で、定常的に平均して一番低いレベルを測定しているに過ぎない。

 ついでに記しておくが、騒音測定は自動化できない調査である。したがって、必ず職員がその場で機器を操作することになる。今日に於いて、民間に外注されることが多く、その民間も学生などのアルバイトで済ませることが多い。そのために、技術的知識と能力が、極めて劣悪である。マニュアルをしっかり勉強した地域住民のほうが、まともな測定ができる場合のほうが多いのが実態である。

 騒音測定をしている現場に遭遇することは多いが、騒音の発生源と騒音計のマイクの間に、乗ってきた自動車を駐車させていたり、マイクの直近に騒音を遮蔽したり反射したりする物体が設置してあったりするのは、よくあることである。このようなずさんな測定で、我々の環境が規定されているのが実態なのである。

5-5 低周波騒音の問題

 最後に指摘しておきたいのは、低周波騒音のことである。人の可聴音の周波数帯は50~20000Hz(ヘルツ)といわれている。50Hz以下の周波数帯の音は、一般的には聞き取れない。であるから低周波音を、騒音として捉えるのが適当かどうかの問題もある。しかし、健康被害が強く指摘されているので、ここで取り上げておく。

 国道43号線沿道で、この問題が取り上げられだしたのは、防音工事が行われだした後のことである。西名阪の香芝で、この低周波騒音に対する裁判があって、問題にされだしたのである。しかし、国道43号線訴訟では、提訴時にその知識がなく、訴訟内容に含まれておらず、裁判所で争うことはなかった。

 阪神高速道路公団による沿道民家の防音助成で、防音工事がされだした。一般騒音は遮断されるが、遮断することができない低周波音だけが強調される事態になった。そのため、低周波に強く影響されたのだと、沿道住民は考えている。「何だか分からないのだけど、イライラするようになった。」とか、受験生が突然暴れだした、とかの事態が騒がれるようになった。専門家に調査してもらった結果、西名阪の香芝より、強い低周波音が測定された。阪神高速の橋梁の揺れから発生するのだと指摘された。

 環境省が測定のマニュアル作りや、被害に対する指針を策定しないために、実態が放置されているのが実情である。震災後の中国縦貫道の売布(宝塚)で、振動が問題化したが、低周波による精神的被害も大きいと見ている。環境基準が改悪されて、道路騒音が新聞記事にならなくなったように、指針がなければ問題にされないのである。

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