『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』**道路特定財源について意見陳述大要**<2008.5. Vol.52>

2008年05月02日 | 単独記事

意見陳述大要(15分)

08.2.27   国土交通委員会(第18委員室)

参考人 小井修一

 私は建設省に42年間勤務し、京奈和自動車道の建設にも従事してきました。1998年に定年退職してもう10年です。その間、地方自治問題にたずさわり地方自治についての理解を深めました。現在、奈良自治体問題研究所の事務局長をしております。

 今日のテーマですが、私は都会ではなく地方における高速道路の役割と、問題点について述べ、いわゆる暫定税率を止めて高速道路建設をストップすることが地方における生活道路の改善につながることの理解を願うものです。

 地方にとって高速道路は相対的なものです。高速道路はたまに利用するだけで、日常的に必要なものではありません。しかし、生活道路と言われる一般道路は生活上、なくてはならない絶対的に必要なものです。この生活道路、既設の一般道路が高速道路建設によって、道路としての生命がおびやかされています。以下奈良県の現状について述べます。

 一つは、

 現在、全国で高規格幹線道路の計画14,000kmのうち約9,300kmが完成しています。高規格幹線道路の建設は有料制を先行したため、交通量の多い採算性の良い路線から施工され、今日、残っている約4,700kmの路線はほとんどは、交通量の少ない地方の路線です。資料の1ページを見て下さい、未施工はいわゆる地方です。必要と思われる交通量の多いところはもう完成しています。

 地方の高規格幹線道路は、交通量が少なくて道路公団施工では採算がとれず、直轄直営での施工が中心であるため、法律による地方分担金とアクセス道路等の施工を入れると、約3割の地元負担となります。奈良県では、京奈和自動車道の奈良県内約47kmで事業費約8,000億円です。その約3割負担として2,000億円以上の地元負担になります。奈良県民約140万人、県民1人当りの負担額は、約14万円、一家4人とすれば50万円を超える負担です。現在、約16kmが供用されています。

 この2,000億円負担のしわ寄せで、県道の維持管理費用など、生活道路に費用がまわりません。奈良県の県民一人当たりの道路の維持補修費は、全国平均2,543円ですが、奈良県は約半分の1,417円です。この状況ですから中山間部の土砂崩壊の危険箇所2116ヶ所が工事されず、2007年1月30日の国道169号の上北山村で土砂崩れで3人が死亡。しかも80日間も復旧できず、この間、上北山村が孤立しました。2,000億円負担のしわ寄せはこれからが本番です。これからもずつと続きます。

 二つ目です。

 高規格幹線道路のこれからの建設は交通量の少ない地方の建設と先にふれましたが、資料の2ページを見て下さい。

 これは、京都~和歌山を結ぶ京奈和自動車道120kmのうち、奈良・和歌山両県の平成17年度の道路交通センサスです。国道24号がいたるところで交通渋滞しているので、京奈和自動車道を計画したと国交省や奈良県が言っています。奈良市内と大和郡山市内は4車線道路ですがそれ以外は2車線道路です、信号が有ればいわゆる渋滞します。しかし、信号による渋滞解消の為にわずか2万台の交通量なのに高速道路が必要でしょうか、バイパスの検討や交差点の立体化を含む改良などを行えば、全く必要ありません。高速道路を必要とする交通量がこの表から見ることは出来ません。

 奈良市内での最高交通量は約65,000台ですが、奈良市及び大和郡山市内は4車線道路です。この「奈良市内が慢性的な渋滞だからこれを緩和するために自動車専用道路の大和北道路が必要」との国交省の宣伝に対し、いつも利用しているものですから、そんなに渋滞は無いはずと、私がチーフになって主要な交差点3ヶ所の渋滞調査を2005年に、朝・夕の通勤時2時間の実態調査を行いましたが、99%の車が信号を1回でクリアーしていました。渋滞は通勤時の朝・夕でもなかったのです。いまでもそうです。

 平成17年度道路交通センサスの中で、左の表の中ほどにあります田原本町の1日の交通量は29,000台です、ここは既に京奈和自動車道の高架部で4車線が供用開始されており、さらに平地部で4車線の道路が工事中です。現道2車線を入れると実に10車線になります。8車線も増えるのです。29,000台の交通量でこんなに道路が必要でしょうか。和歌山県に入っても同様の数字です。これが地方の実態です。

 三つ目です

 京奈和自動車道のうち、奈良市内を通過する大和北道路は12.4kmで4車線(地下トンネル4.5kmを含む)事業費は3,100億円と公表されています。 1m当り約2,500万円ですが、あまりの巨額に国交省は工事の完了は約20年先と公表しています。

 ご存知のように、国立社会保障・人口問題研究所が2006年12月に発表した「新しい将来人口推計(06年推計)」は50年後の合計特殊出生率が1.26にとどまり、総人口は8千万人台に落ち込み、65歳以上の人工比率は40.5%となる」と推計しています。

 奈良県の合計特殊出生率は、東京、京都とトップを競ういきおいで、まさに少子化県です。従って、奈良県内の20年先は少子化と高齢化によって自動車交通は1/3以上が減ると私は予想しています。問題はこれから未だ、現道の国道24号が部分的に渋滞している交差点の改善やその他の改良が20年間も放置されるということです。

 そして、京奈和自動車道が20年後の開通時は自動車の減少で、ガラガラの専用自動車道路になると予想されています。3100億円の巨額の投資が無駄になることが都市計画決定前から予想されているのです。

 四つ目です。

 「京奈和自動車道・大和北道路の建設は国道24号の渋滞解消と周辺道路の交通事故の減少」と国土交通省(国)はユネスコ・世界遺産委員会にも報告しています。

 24号の渋滞解消については、「奈良市内を通過する自動車が約3割あり、これが新設の大和北道路にまわる。したがって現道24号の渋滞解消になる」。これが大和北道路建設の根拠でした。ところが、一方で、新設道路の誘発、誘引作用で3割の交通量が増加すると見込んでいます。3割減って3割増えれば差し引き、国道24号の一部渋滞の現道は、現状のままということになります。

 また、高速道路の建設によって自動車による観光客が増えると期待されますが、残念ながら奈良市内に駐車場を増設する計画はありません。現在でも土・日曜日の駐車場は超満員になり、大渋滞しています。車による観光は、1週間のうち、土・日のみが多く、採算が取れず、増やすことができないのです。資料の3ページを見てください。

 京奈和自動車道は広域ネットワークを形成する関西大環状道路の一部であると奈良県が位置づけています。なんと奈良県にとっては通過道路でしかなかったのです。いったい誰がこの環状道路を利用するのでしょうか、恐らくほとんどいないでしょう。奈良県民も、和歌山県民も関西大環状道路を利用する目的がないからです。何しに車に乗って淡路島に行くのですか。

 五つ目です。

 次に資料の4ページを見てください。

 奈良は世界遺産都市・奈良です。日本人のふるさと、日本人のアイデンティティの地だとも言う人もいます。私もそう思います。

 その真ん中に高速道路がどうしても必要でしょうか。ルートの選択肢のいくつかの中に西側ルートがありました。西側ルートは、現在のルート計画、3100億円の半額の建設費で可能であると大和北道路有識者委員会が明らかにしています。現在、世界遺産平城宮のわずか600m東側に地下トンネル2つが計画されています。地下トンネル建設中に地下水位がもし低下すれば、地下50mの深さではどんな対策も不可能です。地下トンネルは景観を守るために、1,500億円もの巨額のお金を追加して計画されましたが、これが地下水位を低下させ、地下水で守られている平城京跡の木簡などの地下埋蔵文化財を消失させ、世界遺産「古都奈良の文化財」が危機になる恐れがあるのです。まさに日本
の品格が問われることになります。

 最後になりますが、

 これは完成している橋脚のです。資料の写真です。高架橋の橋脚が10基ほど完成し、雨ざらしになっています。この手前に更に10基以上完成しています。

 この橋脚の手前、南側ですが高架部が完成し、京奈和自動車道・大和御所道路の大和区間として供用開始されています。資料の3ページの下段の地図です。図の左右の西名阪道路と交差し、ジャンクションの計画がされています。国道24号のほぼ真上を高架部の建設計画なので、現道24号から完成した京奈和自動車道に入るために、この写真の橋脚を先に完成させておく、いわゆる先行投資させることは工事の切り回し上、一般的に行われることです。しかし、西名阪道路から北側の大和北道路12.4kmは、今日まだ都市計画決定されていません。都市計画決定され、施工命令が出来る区間の先行投資は違法ではないでしょうが、繋(つな)ぐべき先の道路が具体的に設計もされていないのに、どうして橋脚の設計が出来たのでしょうか。この先行投資の負担金が奈良県にかかっています。このような、先に都市計画決定ありきの予想で高規格幹線道路が設計されたり建設されていいのでしょうか。ダメです。

 以上、6点にわたり述べましたが、その原因、根源はいずれも道路だけに使うと言う道路特定財源の仕組みにあると考えます。住民は、高速道路を望んでいません。渋滞のない幹線道路を望んでいるが、高規格の新設道路を要求しているわけではないのです。渋滞解消と安全を要求しているのです。

 結論です。道路特定財源を一般財源にすることで、交通量の少ない地方に必要な生活道路中心の改良や新設など、地方自治体が判断できるシステムにすることができます。また、高規格幹線道路の建設費で2車線の一般道路が4本も5本も建設できます。そして地方に必要の無い高規格の道路を国が押し付けることを排除することもできるのです。以上です。

(4人の参考人各15分の意見、この後、自民、民主、公明、共産4党の各30分の質問あり)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『みちしるべ』元気のない住... | トップ | 『みちしるべ』熊野より(27)... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿