凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

ジャイアントスイング

2010年07月04日 | プロレス技あれこれ
 プロレス技なんて効かねーよ。あれは予定調和であって、効いていたら試合なんて成り立たないし、ひとつの試合で何種類も技を出してそれでもフォールされないっていうのが、プロレスの技が演武である証拠だ。
 こういう意見がよくあって、プロレス@LOVEひいてはプロレス技@LOVEである僕はすぐアタマに血が上るわけなのだが、プロレスの深み、受身の奥深さをコンコンと説明してもどうせ馬耳東風であろうことが予想されるので、ストレスを抱えながらもいつもぐっとこらえる。
 先日もどこかで「フランケンシュタイナーは完全な見せ技である」という意見を読んで、フランケンシュタイナーは高角度パイルドライバーの実現から始まった歴史があるということを全く理解していない、と思わずコメントを書き込みそうになった自分がいた。喧嘩になるので思いとどまったが。

 プロレスの中で繰り出される技で、効果がないものはひとつもない、と僕は思っている。ただ、相手を殺したり怪我をさせるのがプロレスの目的ではない。その大枠は存在する。ギブアップを奪うのに骨折や脱臼に追い込む必要はない。そういう枠組みの中で、技を繰り出し、相手は受身をとる。この受身、というものがプロレスのベースになっているのであり、技が効いていないように思えるのはレスラーの鍛え上げた体躯による受身が優れているから、ともいえる。
(で、相手の実に効果の高い技を自らの受身技術を駆使しダメージを軽減し、さらに観客にはその受けた技が本当はきわめて効くものだということを実感させるように示せるのが一流レスラーというものである)

 プロレス技というものは、必ず効果がある(雪崩式リングインを除いて)。その上で、どこにどのように効いているか、でプロレス技を語ることもできる。分類も可能。
 普通は形態から分類がなされるが(打・投・極がその主たる枠)、その効果においてもう少し細かく論じることができる。例えば極め技ひとつにせよ、関節が極まっているのか、また急所を突いているのか、また締め上げ絞ることによってダメージを蓄積させるのか。あるいは、それらの複合技であるのか。
 そうして、同じバックブリーカーと名が付いていても、アルゼンチンとワンハンドバックブリーカーは異なる効き方であるので別系統だ、などと考える。こういうことを考えている時間は、愉悦である。
 つまり、プロレス技は形態と効果によって語られる。
 突き詰めればプロレス技は打投極に集約される。極め技に締め上げる技や急所を固める技を含めれば、ほとんどの技は、このうちのどれかに当てはまる。そして、それらの技がどこに効いているか、もっと平たく言えば「どこがどう痛いのか」で分類の助けとする。
 だが、どう考えてもその打投極の範疇でない技がプロレスには一部、あるのだ。投げるのでも蹴るのでもぶつかるのでも締めあげるのでもない技が。
 その代表格として「ジャイアントスイング」が存在する。これは、プロレス技の中では鬼っ子的存在とも言える。

 ジャイアントスイングは、非常に知名度が高い技だということが出来る。たいていの場合、説明不要。それでもわからない人もいるが、相手の両足を脇にかかえてブンブン振り回す技だ、といえばよっぽどでないかぎりわかってもらえる。
 しかし、この技を現在のプロレスでみる頻度は非常に、低い。つまりは、古典技なのだ。誰もが知る技であるのに。
 元祖が誰なのかということはよくわからないのだが、この技を「必殺技」として一世を風靡したと言われるのが、「ミネソタの竜巻男」ロニー・エチソンである。力道山からもこの技でフォールを奪ったとされる。この「竜巻男」というネーミングがジャイアントスイングの威力を物語っている。もうひとり、ゴリラ・モンスーンがいる。彼もモンスーンであり「人間台風」と呼ばれた。ジャイアントスイングの恐ろしさがよくわかる。かつては、勝敗を決する強力な必殺技だったと想像される。
 ただ、想像されると書いたとおり、いずれも僕は実見していない。伝説であり、どれだけ凄かったと言われても残念ながら、よくわからない。
 僕がジャイアントスイングを認識したのは、アニメの「タイガーマスク」だった。マット中央で振り回す正統なジャイアントスイングと、さらに回転途上でコーナーポストに頭部をぶつけたり、遠心力を利用して場外に投げ飛ばしたり、という「悪の」ジャイアントスイングがあったような記憶がある。
 その後、何人かのレスラーが使用していたのだろうが、残念ながら僕の記憶にはない。なので、少年の頃の僕にとってジャイアントスイングとは、アニメの技だった。ライオネル飛鳥が復活させるまでは。

 さて、このジャイアントスイングの形態は、打投極の範疇に当てはまらない。そのままぶん投げれば「投」であるし、頭部を鉄柱に叩きつければそれは「反則」という別カテゴリになるが、あくまでジャイアントスイングは「両足抱えてぶん回す技」である。この両足抱えて、の部分で「アキレス腱固め」だと言えるのかもしれないが、それは二次的要素だ。ジャイアントスイングは「ぶん回す」のが技の本質。だから「技の鬼っ子」なのだ。
 ではその「効果」とはどこにあるのか。
 これは「相手の目を回して平衡感覚を失わせる」ことと「遠心力により血行障害を起こさせる」ことだ、と結論付けられる。なんちゅう技だ。だから、この技の評価は難しい。
 ひとつ言えることは、この技はレスラーの基本であり最も重要視されるべき「受身の技術」とあまり関係ないところで効果を生んでいるということ。
 レスラーはどんな場合でも受身をとる。キックも、急所を外し筋肉の分厚い場所で受けようとする。投げられても顎を引き脳や首へのダメージを軽減しマットに着する部分を多くすることで分散する。痛みにも耐える訓練をしている。だが、そんな鍛錬もジャイアントスイングにはあまり通用しない。レスラーは回転にはおそらく、無防備と言ってもいいのではないか。訓練をしていたとしても、それほど多くの時間を回転と遠心力への対応にかけているとは思えない。
 回転に対しては、訓練である程度対応できるものらしい。以前TVで安藤美姫さんが回転椅子に座らされ、何百回転しても目が回ることがなかった、というのを見て驚いたことがある。しかし、レスラーにフィギュア選手のような訓練をする余裕などあるまい。レスラーにとって、おそらく回転への対応は、誤解を恐れずに言えば素人とあまり大差ないのではなかろうか。
 だから、我々が遊びでジャイアントスイングをかけられるのと同じ効果がある、とみていいだろう。さらに、体重のあるレスラーは遠心力も増す。アタマにも血が昇るだろう。
 したがってジャイアントスイングの効果は、三半規管がやられアタマに血が昇って、結果フラフラになる、ということである。そして、マットに転ばされ身体に自由がきかなくなり、なんだかわかんないうちにフォールされてしまう。評価が難しいなあ。考え方によっては相当恐ろしい技であるし(鍛えられていない三半規管を壊され身体の自由を奪われる)、また、痛くない技じゃん、説得力ねーよ、ということも出来る。
 ただ、回されてみればわかるかもしれないな。実は僕は少年の頃、遊びでかけられたことがある。そのときは相当に気分が悪くなった(真似してはいけないことだと思うので、「回されてみればわかる」という前言は撤回する。僕も友人にかけたことは反省する)。
 こんなに派手な技であるのに古典になってしまっているのは、そのわかりにくさが原因としてあるのかもしれない、とふと思ったりもするのである。

 ジャイアントスイングは、日本マットにおいてはライオネル飛鳥が復興し、さらに馳浩がその後、得意技とした。馳がぶん回すたびに観客が回数をカウントするのはお約束となった。ジャイアントスイングと言えば馳、と思っている人も多いだろう。
 ただ、馳の場合これがフォールに結びつくことがない。自分も目を回してしまうからだ。確か馳はその著作内で、技をかけた方がダメージが大きい、と書いていた。こういう技の値打ちを下げるようなことを書いてはいけないと僕は思うが、まあ本音だろう。したがって、効果はあるものの見せ技ということになる。そして、これでフォールを奪っていたかつての名レスラーたちは凄かったのだのだなと改めて思う。
 その後は、使い手は永源遙くらいか。また、幻の技となったか。

 この技については、単純な技であり派生技とて思い当たらない。ただ、派生技ではないがもうひとつだけ言及しておきたい。エアプレン・スピンについて。
 エアプレンスピンは、ジャイアントスイングよりもさらに鬼っ子と言ってもいい技だと思われる。相手をファイアーマンズキャリーに担ぎ上げ(つまり天秤を担ぐように肩にうつ伏せに担ぎ上げ)、そのまま旋回する技である。肩に担いでコマのようにぐるぐる回る。効果はもちろん、相手の平衡感覚を破壊することである。ただジャイアントスイングのような遠心力によるダメージはさほど期待できない。
 これも、評価が難しい技だと思われる。よっぽどクルクル回らないとフォールには結びつかないだろう。僕は、デストロイヤーのそれはよく印象に残っている。ただ、フォールを奪っていたかどうかまでは知らない。たいていはぐるぐる回してマットに倒れさせ、自らの足元もおぼつかなくなりながらも脚をニースタンプで攻め、そして4の字固めへ、という流れだったような。
 ファイアーマンズキャリー状態というのは、他の技への移行がしやすい。アニマル浜口がエアプレンスピンでガンガン回ってそのあとバックフリップ、という流れが最も多かったような。
 繋ぎ技と言ってしまってもいいのだろうか。前述したゴリラ・モンスーンがやはり得意としていたとも言われるが、僕は余興でモハメド・アリに仕掛けた場面しか知らない。確かに強烈ではあったが。
 
 これらは、分類できない「ぶん回し技」。効果は「平衡感覚の破壊」。かといってプロレス技の分類枠を「打投極回」の四つにするほどでもなく、僕は何となしに「鬼っ子」というところに押し込めてしまったが、それもプロレス技の奥深さである、と言うこともできる。無理やりに近いが。ただ、これらの技が嫌いかと言われれば、そうじゃないんだなあ。

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4 コメント

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Unknown (jasmintea)
2010-07-08 12:51:00
ライオネス飛鳥のジャイアントスィング、大好きでした~♪
単純な技ですが見栄えがしますよね。
よく、自分の目が回らないなぁ、レスラーは平衡感覚があるんだなぁ、と感心していましたが、やっぱり技をかけた方も大変なんですね。
でも、観客のカウントと共にグルグル廻すって何だか気分が良い技じゃないでしょうか
レスラー冥利につきたりして!?
返信する
ヒロシハセ (rollingman)
2010-07-08 20:14:32
先日WWEスマックダウンを見ていて、ディーバの誰だかがジャイアントスイングをやったときにマット・ストライカー"馳浩並みだな!"と解説してました。
マット日本通だな~というのと、
向こうのファンは分かるのか~というのと、
ジャイアントスイングと言ったら馳浩なのか~という。

タッグマッチでは、ジャイアントスイングの後フラフラになった馳にリキラリアット…の流れがお約束でしたね。(笑)


鼓太郎とマルビンあたりだと思うんですが、ジャイアントスイングにとらえてもうひとりにドロップキックをさせる…という合体技は派手で良いですね。
単体ですと技の成立からその後の時間がどうしても長くなってしまい、スピーディーさにかけてしまう点も近年使われない要因のひとつなんじゃないかと。ハイスパートな長州が待ち切れないのも分かる気がします(笑)。
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>jasminteaさん (凛太郎)
2010-07-09 06:07:05
ジャイアントスイングは、確かに見栄えがいいですよね。でも「ホントに効くの?」と「自分の目は回らないの?」という問いになかなか答えられないんですよ(笑)。
プロレス技としては、ちょっと特殊だと思いますねやっぱり。でも、そんな何十回転もしたら血行障害にならないかなぁとそれだけは心配。

話かわりますけど、昨年三沢が死んで以来、プロレス技のことを書けなくなりました。年が明けてバックドロップを記事にしましたが、あの記事にはまだ引きずっているところがあります。
セントーンくらいから、一周忌のつもりでまた書き始めました。3記事書いた時点でもう一周忌もとっくに過ぎましたが(なかなか書けないんですよ^^;)、もう少し書きたいなと。セントーンはやっぱり最後は危険な技の話になってしまいましたので、ベアハッグ、ジャイアントスイングと少し古典的な技を書こうかなと。垂直落下とか断崖式とは方向性の違う技も、古きよきプロレスにはありますのでね。
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>rollingmanさん (凛太郎)
2010-07-09 06:27:36
WWEであれば、当然ジャイアントスイングはゴリラ・モンスーンに形容されるはずですね。もしかしたらそれはディーバがやったからヒロシハセ並みと言ったの(以下略)

長州は、待てない。ここにひとつの真理があるようで。今のマットは、みんな長い技は待てないんですよねぇ(笑)。その流れは長州くらいから始まったような気がします。自らもサソリ固めというじっくり技も持っているのですがね。
これは、世相がそうさせるのか。そのためにじっくり攻める技がどんどん無くなってしまったんですな。僕はそのぶん「何かが薄まった」感じがしてしょうがないのです(笑)。

ジャイアントスイングくらい待とうよ。僕はそう言いたいように思います。でないとアルゼンチンバックブリーカーなんて決まらないよ。

こっそりと申しますが、僕はスイングの回数をカウントするのも、なんだかなぁと思ってます。三半規管破壊血脈逆流の緊迫感ある必殺技ジャイアントスイングが、緊張が消え実にお遊びっぽく見える(汗)。多分に、馳浩に責任があると思います。永源はそもそもお遊びですので措くとして(笑)。
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