プロレスというものは、「プロ」である以上、その形態は興行であり、観客にその姿を見せて満足させるものでなくてはいけない。したがって、どっちが勝ったの負けたのということは二の次である。観客に満足感を与えることを第一義とすべきであり、その過程が最も重要なことであることは自明のことである。
話はそれるが、これは全てのプロスポーツに言えることではないかと思う。アマチュアであれば、それは自分のために競技を行ってももちろんいいわけであるが、プロであればそれは「観客」のために競技をしなくてはならない。金をとって見せているのだ。それはレスリングであっても、野球であってもサッカーであっても同じこと。したがって選手及び指揮者は見てくれる人のために競技をしなくてはいけないはずなのに、それが逸脱している様子をよく見る。ただ勝てばいいというものではないのだ。「勝って魅せる」ことが重要なのである。そこをよく分かっていないプロスポーツ選手が多すぎる。アマチュアリズムから全然脱却していない。高校野球とプロ野球、草サッカーとJリーグは「視点」が違うものなのだ。見ていて「面白く」なければそれはプロとして恥じ入るべきものであると思う。
閑話休題。
アントニオ猪木という人は、「魅せる」ということをよく理解していた。相手の5の力を7か8まで引き出して10の力で仕留める。「風車の理論」とは正にプロであることの証明である。
その「猪木の遺伝子」を受け継ぐレスラーは多いが、なかなか猪木の域までに到達することは難しい。勝負に拘った「首固め」などで王座が移動するようでは観客に欲求不満が残りカタルシスを与えられない。観客をいかに満足させるかがレスラーの尺度である。
そういう意味で、今最も「レスラーらしいレスラー」は、武藤敬司と秋山準ではないかと僕は思う。彼らは「観客の視点」を常に意識し、それに見合ったレスリングを展開する。
秋山準は今円熟期である。レスラーは若さと体力だけで成立するものではないからだ。秋山は昨今、ジャンピングニーを連発する(もちろん以前からの得意技であったが)。これも時期を見てのこと。観客がようやく「ジャンボ鶴田の幻影」を脱却しつつあるということを見極めてのことだろう。ここが重要。これは森嶋が鶴田の継承に失敗したことがひとつの契機となっていることに注目したい。観客が「まだ森嶋ではダメだ」と感じた後に、格上である秋山が多用するから納得出来るのだ。
秋山のフィニッシュホールドは「エクスプロイダー」である。これはまあ反り投げの一種である。相手の脇に自分の頭部を入れて両手で相手をホールドし(と言ってクラッチするわけではなく右手は頭部を抱え左手は下部を持ち上げる)、後ろに反り投げる。
投げた状態は相手が背中(もしくは側面)から落ちることになる。この技の角度を変え、垂直落下的に落すやり方もあり、それで繋ぎ技とフィニッシュとを使い分ける。重要な試合の場合には「リストクラッチ式エクスプロイダー」を放つ。これは相手の片腕(右腕)の手首を下部にそえた左手で掴み投げる技で、受身が取りにくく脳天から落ちる。
このエクスプロイダーという技は分類しにくい技である。「反り投げ」の範疇ではあるのだが、それじゃスープレックスなのか、と言われればまた難しい。飯塚高史のブリザードスープレックスと非常に似ているのではあるけれども。スープレックスの定義をゴッチ式とするならばこれはスープレックスではなくサルトなのだが(→スープレックスⅠ)、そこまで厳格にしなくてもよかろう。しかしブリッジは完璧にしていない。
よくこのエクスプロイダーは「裏投げ」の変形であるとも言われる。裏投げとは、柔道技にもあるがそれはバックドロップに似ている。しかしプロレスに伝播した裏投げはサンボ式で、馳浩が持ち込んだものとされる。書くと、正面から例えば右腕で相手の頭部(首)を抱え左手で腰やモモのあたりを持ち上げ後ろに反り投げる技で、脇に自分の頭部を差し込む以外はほぼ相似形に見える。
しかしながら、見ていると投げる形状がかなり違う。裏投げの場合、相手を跳ね上げて叩きつける形であるのに対しエクスプロイダーは反り投げの要素が大きい。ホールドを離すタイミングが微妙に違う。
また投げたあと、裏投げは自分の体が側面を向く、もしくはマットに対峙するような形になるのに対してエクスプロイダーは背中がマットにつくことが多い。よりスープレックスに近い形であるようにも見える。エクスプロイダーを反り投げとすれば裏投げは捻り投げではないのか。
これは見方も各人あるだろうし、僕の感じ方も加味されてしまうので一概には言えない。やっぱり裏投げだと思う人もいるだろう。だから難しいのだが、エクスプロイダーには裏投げよりももっと近い技があったように思う。それは、もうおわかりかと思われるが前田日明の「キャプチュード」である。
前田は12種類のスープレックスを持つ男とされたが、実際には12種類もの技を手を替え品を替えて出すことなど出来ない。最も多用したのはキャプチュードだったように思う。相手の蹴りを出した脚をそのまま抱えこみ(右足の蹴り足であれば当然左腕で)、そして右腕で頭部を抱えて後方へ反り投げる。美しい技だった。脚を捕えた左手と頭部を抱える右手をクラッチ出来れば完璧な技となり、相手は脳天からまっ逆さまである。実際はそこまでやると危険なので捻り投げの要素を加えてはいたが。
このキャプチュードの流れを汲むのがエクスプロイダーではないかと思われる。違いは、前田が脚を持つ際にモモの内側から手を入れてしっかり持ち上げる力が入るように持つのに対して、秋山は下部に手を回す際、モモの外側から持つ。内側から手を入れたほうがより相手を跳ね上げ落す力が加わるように思われる。その部分を補完するために秋山は相手の脇の下に頭部を差し入れて首の力も加えて投げる。これで投力は同等になる。
このように形状が変わった理由として、まず前田のキャプチュードが相手の蹴りを捕えて瞬時に投げる(だからcapture=捕獲なのだが)のと比較してエクスプロイダーはそうではない(むしろラリアートなどのカウンター攻撃の切り返しが多い)ということも挙げられると思うが、もうひとつ前田の方が秋山よりも身体に柔軟性があったことが挙げられると思うのだがどうだろうか。裏投げと違って相手をホールドしている時間が長い反り投げの場合、相手をマットに叩きつけようとすれば自分の身体が弧を描かなければ巧く相手を後方に叩きつけられない。秋山が身体が固い、とまでは言わないが、相手の脇の下に頭部を入れることによって、相手の身体が自分よりも飛び出る。これによって相手へのダメージを高めることが出来るのである。
前田のキャプチュードと秋山のエクスプロイダー。どちらが凄いかというのは状況にもよるが、秋山のには重さがある。前田の両手をクラッチした完璧キャプチュードと秋山のリストクラッチ式エクスプロイダーに甲乙はなかなかつけられないとは思うのだけれども。
さて、プロレスのネーミングは様々で最近は実に分かりにくい(汗)。「バックドロップ」「ネックハンギングツリー」のようになかなか形状をそのまま表わしてはくれなくなった。まあこういうことは昔からあることではあるけれども(キチンシンクとかね^^;)。
エクスプロイダーとはいったいなんなのか(笑)。まあ爆発(explosion)+スロイダーてなところだと思っていたら、実際はこんな感じであったらしい(→ambition☆日記)。ネットって検索すれば出てくるから便利だな(笑)。
話はそれるが、これは全てのプロスポーツに言えることではないかと思う。アマチュアであれば、それは自分のために競技を行ってももちろんいいわけであるが、プロであればそれは「観客」のために競技をしなくてはならない。金をとって見せているのだ。それはレスリングであっても、野球であってもサッカーであっても同じこと。したがって選手及び指揮者は見てくれる人のために競技をしなくてはいけないはずなのに、それが逸脱している様子をよく見る。ただ勝てばいいというものではないのだ。「勝って魅せる」ことが重要なのである。そこをよく分かっていないプロスポーツ選手が多すぎる。アマチュアリズムから全然脱却していない。高校野球とプロ野球、草サッカーとJリーグは「視点」が違うものなのだ。見ていて「面白く」なければそれはプロとして恥じ入るべきものであると思う。
閑話休題。
アントニオ猪木という人は、「魅せる」ということをよく理解していた。相手の5の力を7か8まで引き出して10の力で仕留める。「風車の理論」とは正にプロであることの証明である。
その「猪木の遺伝子」を受け継ぐレスラーは多いが、なかなか猪木の域までに到達することは難しい。勝負に拘った「首固め」などで王座が移動するようでは観客に欲求不満が残りカタルシスを与えられない。観客をいかに満足させるかがレスラーの尺度である。
そういう意味で、今最も「レスラーらしいレスラー」は、武藤敬司と秋山準ではないかと僕は思う。彼らは「観客の視点」を常に意識し、それに見合ったレスリングを展開する。
秋山準は今円熟期である。レスラーは若さと体力だけで成立するものではないからだ。秋山は昨今、ジャンピングニーを連発する(もちろん以前からの得意技であったが)。これも時期を見てのこと。観客がようやく「ジャンボ鶴田の幻影」を脱却しつつあるということを見極めてのことだろう。ここが重要。これは森嶋が鶴田の継承に失敗したことがひとつの契機となっていることに注目したい。観客が「まだ森嶋ではダメだ」と感じた後に、格上である秋山が多用するから納得出来るのだ。
秋山のフィニッシュホールドは「エクスプロイダー」である。これはまあ反り投げの一種である。相手の脇に自分の頭部を入れて両手で相手をホールドし(と言ってクラッチするわけではなく右手は頭部を抱え左手は下部を持ち上げる)、後ろに反り投げる。
投げた状態は相手が背中(もしくは側面)から落ちることになる。この技の角度を変え、垂直落下的に落すやり方もあり、それで繋ぎ技とフィニッシュとを使い分ける。重要な試合の場合には「リストクラッチ式エクスプロイダー」を放つ。これは相手の片腕(右腕)の手首を下部にそえた左手で掴み投げる技で、受身が取りにくく脳天から落ちる。
このエクスプロイダーという技は分類しにくい技である。「反り投げ」の範疇ではあるのだが、それじゃスープレックスなのか、と言われればまた難しい。飯塚高史のブリザードスープレックスと非常に似ているのではあるけれども。スープレックスの定義をゴッチ式とするならばこれはスープレックスではなくサルトなのだが(→スープレックスⅠ)、そこまで厳格にしなくてもよかろう。しかしブリッジは完璧にしていない。
よくこのエクスプロイダーは「裏投げ」の変形であるとも言われる。裏投げとは、柔道技にもあるがそれはバックドロップに似ている。しかしプロレスに伝播した裏投げはサンボ式で、馳浩が持ち込んだものとされる。書くと、正面から例えば右腕で相手の頭部(首)を抱え左手で腰やモモのあたりを持ち上げ後ろに反り投げる技で、脇に自分の頭部を差し込む以外はほぼ相似形に見える。
しかしながら、見ていると投げる形状がかなり違う。裏投げの場合、相手を跳ね上げて叩きつける形であるのに対しエクスプロイダーは反り投げの要素が大きい。ホールドを離すタイミングが微妙に違う。
また投げたあと、裏投げは自分の体が側面を向く、もしくはマットに対峙するような形になるのに対してエクスプロイダーは背中がマットにつくことが多い。よりスープレックスに近い形であるようにも見える。エクスプロイダーを反り投げとすれば裏投げは捻り投げではないのか。
これは見方も各人あるだろうし、僕の感じ方も加味されてしまうので一概には言えない。やっぱり裏投げだと思う人もいるだろう。だから難しいのだが、エクスプロイダーには裏投げよりももっと近い技があったように思う。それは、もうおわかりかと思われるが前田日明の「キャプチュード」である。
前田は12種類のスープレックスを持つ男とされたが、実際には12種類もの技を手を替え品を替えて出すことなど出来ない。最も多用したのはキャプチュードだったように思う。相手の蹴りを出した脚をそのまま抱えこみ(右足の蹴り足であれば当然左腕で)、そして右腕で頭部を抱えて後方へ反り投げる。美しい技だった。脚を捕えた左手と頭部を抱える右手をクラッチ出来れば完璧な技となり、相手は脳天からまっ逆さまである。実際はそこまでやると危険なので捻り投げの要素を加えてはいたが。
このキャプチュードの流れを汲むのがエクスプロイダーではないかと思われる。違いは、前田が脚を持つ際にモモの内側から手を入れてしっかり持ち上げる力が入るように持つのに対して、秋山は下部に手を回す際、モモの外側から持つ。内側から手を入れたほうがより相手を跳ね上げ落す力が加わるように思われる。その部分を補完するために秋山は相手の脇の下に頭部を差し入れて首の力も加えて投げる。これで投力は同等になる。
このように形状が変わった理由として、まず前田のキャプチュードが相手の蹴りを捕えて瞬時に投げる(だからcapture=捕獲なのだが)のと比較してエクスプロイダーはそうではない(むしろラリアートなどのカウンター攻撃の切り返しが多い)ということも挙げられると思うが、もうひとつ前田の方が秋山よりも身体に柔軟性があったことが挙げられると思うのだがどうだろうか。裏投げと違って相手をホールドしている時間が長い反り投げの場合、相手をマットに叩きつけようとすれば自分の身体が弧を描かなければ巧く相手を後方に叩きつけられない。秋山が身体が固い、とまでは言わないが、相手の脇の下に頭部を入れることによって、相手の身体が自分よりも飛び出る。これによって相手へのダメージを高めることが出来るのである。
前田のキャプチュードと秋山のエクスプロイダー。どちらが凄いかというのは状況にもよるが、秋山のには重さがある。前田の両手をクラッチした完璧キャプチュードと秋山のリストクラッチ式エクスプロイダーに甲乙はなかなかつけられないとは思うのだけれども。
さて、プロレスのネーミングは様々で最近は実に分かりにくい(汗)。「バックドロップ」「ネックハンギングツリー」のようになかなか形状をそのまま表わしてはくれなくなった。まあこういうことは昔からあることではあるけれども(キチンシンクとかね^^;)。
エクスプロイダーとはいったいなんなのか(笑)。まあ爆発(explosion)+スロイダーてなところだと思っていたら、実際はこんな感じであったらしい(→ambition☆日記)。ネットって検索すれば出てくるから便利だな(笑)。
彼は相手の力を引き出し、魅せるプロレスを出来る選手ですよね~♪
前田のキャプチュードと秋山のエクスプロイダーですか!どっちがすごいかなぁ????
しかし!凛太郎さんさえ最近のプロレス技のネーミングは難しいとおっしゃる…私など何がなんだかわかりません。
日本語ですごさを表してくれよ~などといつも思います。
周りを生かしすぎるところが欠点といえるかもしれません。もっと強引でも時にはいいかもと思えるほどで。
しかし、技の名前には疲れます。おんなじ技を人によって呼び方を代えますからね。ホントはエクスプロイダーとブリザードスープレックスって一緒じゃないかと(こっそりと)思っているのですが(笑)。
猪木のみたいに実力も伴ってというのはもう今後居ないかもしれませんね。
ブリザードスープレックスは飯塚選手が開発したと云うよりサンボの'抱え投げ,(柔道の掬い投げ、手車)を元にスポーツ会館のサンボ選手達が伝授した技との事です-因みに飯塚選手は一時期サンボをスポーツ会館で学び89年全日本サンボ選手権で3位入賞しています-。
裏投げは厳密に述べますとグルジアのチタオバで多用される投げ方です(グルジア出身の選手はサンボ・柔道・レスリング何れでも掛けにいきます)。少々力が必要な技なので余り一般的では無いです。
馳選手はグルジアに短期留学した際にこの技を学んだそうです。
なのでサンボと云う共通項は有るものの、成立過程では全然関係有りません。
多少でも参考になりましたならば幸甚です。
それでは失礼致しました。
敬白
ブリザードスープレックスは元々投げ固める技です。叩き付け式になったのは後々です。
蛇足ながら付け加えさせて戴きます。
草々
なるほど。ブリザードはそういえばホールドだったような。飯塚は裏投げとブリザードを使い分けていましたよね。このあたり難しい。チタオバは全く知らず(見たことが無い)、こういうお話は本当に有難く思っています。
飯塚高史が飯塚孝之だった頃、あのビクタシェフと対戦したことを今でも思い出します。今は飯塚はややこしいことをしていますが、かつての3位入賞の、伝家の宝刀を抜くことがあるのでしょうか。抜いたら面白いと思うのですが…。引退までに一度、一試合でもいいからベビーフェイスに戻ってくれればと思います。上田馬之助のように。
チタオバの映像は'グルジア・チタオバ,で検索すれと出て来るのではないでしょうか。
因みにチタオバの基本ルールは打撃技は無し、下半身の攻技に腕部を使う事は反則-なのでフリースタイルレスリング的タックルは無し-です。
柔道に比較的近いですが着衣が袖無しなのでやはり似て非なる競技になります。
こう云った民族相撲.レスリングを観てみると色々面白い発見が有るのではと思います。
もし良ければ御検索下さい。
それでは失礼致します。
敬白
最近ちょっと柔道技に関心があった流れで、チタオバについても動画をいくつか見ました。面白いですね。大外刈りや内股や背負いに近い技もありますね。直線的ではなく円を思わせる動きに美しさも感じたりしました。