ここでは、「題詠マラソン2005」に出詠されている短歌の中から、
私が「いいな~」と思った歌を、お題ごとに紹介しております。
あくまでも、素人の私が「いいわ~」「好きだわ~」という基準で
選ばせて頂いております。
以下、出詠者のお名前は敬称を略させて頂きますことを
あらかじめご了承くださいますよう、お願い申し上げます。
「030:
橋」から
★ほたる橋ふたりで渡るやくそくを秘めて夕餉の菜をきざむ母 (吉野楓子)
( http://b1.jaxy.net/d/index.php/b42166dc4bf98b )
ほ;上の句の秘密めいた感じと、下の句の夕餉の菜をきざむという日常の動作。
「母」の裏面にあるものを見たような瞬間の、とらえ方が巧いと思います。
★橋だった。遠い町へと買い物にひとりで行くとき怖かったのは (武田ますみ)
( http://mypage.odn.ne.jp/home/erimana0508 )
ほ:「橋だった。」ここに句点(。)がある。ここで句切れるのだ。
つまり、作中主体が「橋だった。」と気づいてから、間が空く。
そして、子供の頃の気持ちを回想する。
「そうそう。遠い町にひとりで買い物に行くとき、怖かった。
特に橋を渡るときに、怖いと感じたのだった。」
徐々に蘇ってくる記憶の表現。
子供の頃に、多くの人が感じたであろう不安のとらえ方。
倒置法が、たんなる語順の置き換えでなく、意味のあるものに
なっていると感じました。
★この橋を渡ればすべて終はるなり助走をつけて跳ぶ赤い橋 (寺川育世)
ほ:「赤い橋」の意味するところが、わたしにはわからないのですが、
命に関係があるように思えてなりませんでした。
終わることによって、何か新しい自分になろうとする決意に見え、
跳んでも良いのか、跳んではいけないのかと不安な気持ちにさせられます。
きっと歩いて渡れるものではなく、えいや!っと助走をつけなければ
跳ばなければ、渡れないのだと感じさせられました。
★橋の下をみてはいけない渦巻いて流れるものは無縁のものだ (里坂季夜)
ほ:作中主体の橋の下に、いったいどんなものが流れているのでしょう。
「無縁のもの」であれば気にならないか、というと、そうでもない。
「みてはいけない」と思えば思うほど見たくなる。
無縁と思って通り過ぎれば、自分は安全な高いところにいるし、
最初から見ないようにすれば辛くもない。
でも、あまりにも丸見えで……。
「橋」はそういうところなのかもしれません。
★来世紀、桟橋と化す運命の高架ホームに快速を待つ (五十嵐きよみ)
( http://yaplog.jp/noma-iga/ )
ほ:詞書きがありましたが、このブログへの転記の際、
ほにゃらかによって省略させて頂きました。
地球が温暖化して、やがて陸地が海に沈む時が来るかもしれない。
この高架ホームでさえも、いつか桟橋と化する運命にある。
社会詠ともとれますし、作中主体の心象ともとれます。
「快速を待つ」という結句が意味深だと思いました。
★吾妻橋渡れば君の住む街へ行ける(いけない)日が暮れてゆく (林 ゆみ)
( http://yumi.myfws.com/ )
ほ:目の前の橋を渡っていけば君に会えるのに…。
でも、行ってはいけない。でも行きたい。
迷いながら日が暮れてゆく。
こんな夕暮れを、なんど繰り返してきただろう。
そういう想いが、とてもストレートに表現されていて、
いいなと思いました。
橋の名前に固有名詞をもってきたことも効果的だったと思います。
作中主体が、実際にその橋の向こうにいる人を思っているように
感じられるから、ということがひとつめの理由。
もうひとつは、「吾妻橋」という名前が持っている意味性。
詠っている心情を考えると、なんとも皮肉で切ない名前ではありませんか。
★春やげにかぐわしきかな橋の下川も昨日にあらぬざわめき (船坂圭之介)
( http://kei5132ameblo.jp/ )
ほ:春。桜の花見でもしているひとたちがいるのでしょうか。
花の香りやら、美味しそうな花見弁当の香りやら、お酒の香りやら、
なんとも良い香りがして、心を惹かれるようです。
川の水量も増しているのか、冬のさむざむしい流れとはうってかわって、
騒がしく勢いよく流れている。
けれど、作中主体は、その宴の中にはいない。
橋の上から、橋の下で華やいでいる人たちの姿を、ただ見ている。
なんとも寂しい気持ちで。
寂しいことをさびしいと表現せず、華やかな様子を詠いながら
作中主体の気持ちを推量させるというのは、すごいなと思いました。
★一条で橋のたもとを覗き込み式神さがす もういませんか? (仁村瑞紀)
( http://mizukiuta.exblog.jp/ )
ほ:一条の橋というのがどんな橋か知らないのですが、
「千と千尋」の千尋が渡った橋が目に浮かびました。
「もういませんか?」という問いかけが、効いていると思います。
式神に、どんな願いをかけたいと思ってさがしているのか、
もしいなかったらどうするのか、想像力をかきたてられました。
★陸橋のうへの匂ひは好きですか? たとへ海からはなれてゐても (遥悠(天晴娘々))
( http://nunato.orz.ne.jp/index.html )
ほ:「陸橋のうへの匂ひ」というのは、どんな匂いでしょう。
排気ガスの匂い?向こう岸の焼鳥屋さんからもれてくるタレの匂い?
昔の彼とつきあっていた頃につけていた香水の匂い?
海からはなれているけれども、海の匂いがするのかな?
どうして陸橋なのか。どうして海からはなれているのか。
誰に問いかけているのか。
ごめんなさい。本当は何一つわかっていないのですが、
とても心を惹かれたのです。
ぜひ作者にうかがってみたいと思いました。
★黒字の「ほ:~」の部分が私の感想です。
こちらでご紹介する短歌は、私がとても「良い」と思ってピックアップし、
そういう気持ちを前提に感想を述べております。
私の言葉が足りなかったり、私の表現がへたくそであったりするために、
作者の方が不愉快に思われることも、もしかしたら、あるかもしれません。
しかし、こちらでご紹介した作品に対して、批判の気持ちは決してないということを、
どうぞご理解くださいますよう、お願い申し上げます。
もし、何かお気づきの点、ご意見などがございましたら、
どうぞご遠慮なくコメント欄へお書き下さいませ。
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