荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『行きずりの街』 阪本順治

2010-12-08 02:17:57 | 映画
 阪本順治には才能がものすごくあると確信しているが、その使い方には大いに疑問を感じる。この『行きずりの街』の物語はあまりにも多くのことを語り過ぎ、その饒舌さゆえにかえって曖昧模糊としたものしか残らない。部外者の私が、ひとりの優れた作り手にとやかく悪口を言い過ぎるのもどうかと思うけれども、今作の弛緩した語りと動きも、ひょっとすると意図したものなのだろうか。日本社会そのものがそうだからとか。だとしたら、ちょっと救いようがない。

 それでも、主人公(仲村トオル)とその離婚した妻(小西真奈美)が、いさかいの果てにヨリを戻し、再び肌を重ねるまでの長い1シーンの張りつめた持続は、かつての阪本演出を彷彿とさせるものだった。仲村トオルは、三軒茶屋シアタートラム『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』(2009 演出・前川知大)の八雲役に続き、小西真奈美は、緒方明の前作『のんちゃんのり弁』(2009)のバツイチの弁当屋役に続き、共に今回もかなりの好演ではないか。元夫婦が12年ぶりにベッドインした翌朝、小西真奈美はキッチンで、仲村の亡母が得意だったという黒豆煮を作っている。失われた時を求め甲斐甲斐しく黒豆を煮たりする小西の、人間くさい滑稽さにすこしだけ共感した。「昼ご飯に行けなくてごめん」「まだ夕飯にはじゅうぶん間に合うわ」という平俗なセリフが、なかなか効いている。

 この映画の登場人物たちは、あれほど黒豆、黒豆と話題にしていたくせに、結局は一粒も食べていない。愚かな連中である。根がミーハーな慌て者である私は、すっかり黒豆を食べたくなってしまった。丸の内TOEIをそそくさと出ると、銀座線で東京最古の繁華街である日本橋室町小路に向かい、1688年からお節の食材やおでん種を商っている「神茂」に駆け込み、黒豆煮の瓶詰めを購入。ここの黒豆は、映画のなかの仲村トオルの郷里と同じく、丹波産である。帰宅して、さっき何粒か楊枝でつついて口に放りこんだが、やはり旨い。黒豆をワインのつまみにしているのは変だが、それもたまにはいい。


東京・西銀座の丸の内TOEIほか、全国で公開中
http://www.yukizuri.jp/


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3 コメント

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Unknown (KKWAXX)
2010-12-08 22:44:33
こんばんわ。
私も先日この映画を見ました。
以前に中州居士さんがあげてらっしゃった「神様のパズル」といい東映の東映らしからぬ作品?にはいつも惹きつけられてついつい劇場に足を運んでしまいます。小西真奈美がとても魅力的でした。
「パートナーズ」も見たのですが、たまたまなのかどちらの劇場もほぼ貸切の状態でちょっと寂しく思いました。
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貸し切り状態 (中洲居士)
2010-12-09 22:59:34
KKWAXXさん、こんばんは。

東映といえば、最近、じつに東映らしいエログロ路線、牧口雄二の特集上映に通っています。この『行きずりの街』にも確かに非東映的な面があるいっぽう、反面でどこかしら東映らしい、いかにも二級酒の口当たりといいますか、ヒロインがバーのママであるとか、主演が仲村トオルであるとか、なにやら全体的に阪本順治というよりも村川透の作品みたいな感触もありますね。このあたり微妙な感じもします。

わたくしもKKWAXXさん同様、ほぼ貸し切り状態で映画を見るケースが多いです。本当に映画館に客が来ませんね。この過密都市・東京にあって「最も人口密度の少ない場所は、映画館じゃないか」という友からのメールにウムウムとうなずいてしまいます。最近は3人とか5人とかそういう淋しい中で映画を見る機会も多く、20人も客がいると、ほっとしてしまいます。
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Unknown (KKAWAXX)
2010-12-10 22:33:31
牧口雄二監督作品の特集上映、それは凄い!東映DVDでもエログロ時代劇ものを置いているレンタル店が少ないのであるとついついパッケージを見てしまいます。

村川透作品の感触、確かに前作「カメレオン」といいあの時代の雰囲気を強く感じます。そう考えるとこの作品は東映らしい東映作品ですね。ここ最近の東映系列館は子供アニメか特撮もののイメージが強くてどうにも入りづらいことが多いのですが、こういった作品があると嬉しくなります。

こちらの記事の影響でか私も黒豆が食べたくなってしまいました。休日に足を伸ばして買いに行こうと思います。
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