私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Dances from Terpsichore, 1612
L’Oiseau-Lyre 414 633-2
演奏:ニュー・ロンドン・コンソート、フィリップ・ピケット(指揮)

ミヒャエル・プレトリウス(1572頃 - 1621)は、チューリンゲン地方のクロイツブルク・アン・デア・ヴェラの厳格なルター派牧師の家に生まれ、トルガウとツェルプストで教育を受けた後、フランクフルト・アン・デア・オーデルの大学で神学と哲学を学び、14歳の頃から大学の教会のオルガニストになった。1589年からしばらくの間の所在は不明だが、1594年からブラウンシュヴァイク・リューネブルク公爵ハインリヒ・ユリウスの宮廷オルガニスト、1604年からは宮廷楽長になり、生涯ヴォルフェンビュッテルを拠点として活躍した。多くの祝祭音楽の作曲や指揮、オルガンの検査、ザームエル・シャイト、ヨハン・ヘルマン・シャインやハインリヒ・シュッツなど当時の音楽家達との交流など多方面で活躍をした。
 多くの宗教音楽の作曲の他、音楽理論家としても知られ、1614年から1649年にかけて出版した三巻の”Syntagma Musicum(音楽論纂)”の作者としても知られている。1612年に出版された「テルプシコーレ」は、主にフランス起源の舞曲312曲の4声、5声、6声の楽譜を収めた曲集である。プレトリウスは、他の国の舞曲を集めた曲集の出版も考えていたようだが、実現しなかった。
 この曲集に収められた曲は、プレトリウスが作曲したものではなく、宮廷のダンス教師アントアーヌ・エメロウから提供された舞曲に和音を付けたもの(曲集で”M.P.C <Michael Praetorius Creuzburg> “と記されている)、ヴォルフェンビュッテルの宮廷にもいたことのあるフランス人のヴァイオリニスト、ピエール・フランシスク・カルーベルによる5声の曲(”F.C.”と記されている)および作者不明の2声の曲に、プレトリウスが内声を加えた曲(”Incerti” と記されている)に分類されている。出版は1612年であるから、時代区分からすればすでにバロック時代に入っているが、この曲集に収められた舞曲は、主に16世紀に起源を持つもので、実質的にルネサンス時代の舞曲集といえよう。この曲集の対象は、アマチュアの音楽愛好家であったと思われる。というのは、職業音楽家、町や宮廷の楽士達は、修業時代から親方達を通じて教えられ、諳んじていて、必要に応じ即興を交えて演奏することが出来たので、楽譜を購入する必要はなかったからである。
 この曲集に登場する主な舞曲としては:
ブランル(Branle または Bransle);フランス起源で2拍子系のBranle simpleと、3拍子系のBranle gayがある。
パッサメッツ(Passameze);2拍子系のリズムを持つ変奏曲様式のものが多い。ガリヤルドやサルタレッロと組み合わされることが多いので、速度の遅い荘重な舞曲と思われる。ヴォルタ(Volte);付点リズム6/8拍子の舞曲。
パヴァーヌ(Pavane);16世紀初頭の宮廷ダンス。孔雀(Pavo)を真似たゆっくりとした威厳に満ちた踊り。
ガリヤルド・ガヤルド(Galliarde, Gaillarde);16世紀の3拍子の速い拍子の踊り。パヴァーヌに続けて演奏されることが多い。
バレー(Ballet)などがある。さらにサラバンド(Sarabande)やクラント(Courrante)など17世紀から18世紀にかけて盛んに採用され、バロック時代の組曲の核をなすことになる舞曲も見られる。
 このCDで指揮をしているフィリップ・ピケット(Philip Pickett)は、ロンドンのギルドホール音楽・演劇学校に学び、当初はトランペット奏者であったが、アンソニー・ベインズやデーヴィッド・マンロウの影響でリコーダーやクルムホルン、ショームなどルネサンス、バロック時代の木管楽器に興味を持ち、これらの演奏をするとともに、ニュー・ロンドン・コンソートを組織して、中世、ルネサンスの作品の演奏を行った。その一方で、フォーク・ロックバンドの演奏に参加し、民謡と中世の音楽を融合し、当時の楽器も交えて演奏するなど、時代を超えた活躍をしている。
 このCDでは、実に34種類80以上の楽器を、曲によって様々な組み合わせで使用している。その中には、クルムホルン、クールタル、ラケット、ソルドゥンなどの管楽器や、ハーディーガーディー(ヴィエル・ドゥ・ルー)、ダルシマーなどの弦楽器も含まれている。当時の舞曲の出版譜には楽器の指定が無いのが普通で、このテルプシコーレも同様である。そして打楽器の譜はない。そこで今日これらを演奏するに際しては、どのような楽器を用い、打楽器を加えるかどうか、加える場合はどのような楽器を、どのようなリズムで演奏するかも演奏者の解釈に任されることとなる。このことが中世、ルネサンスの音楽を聴く際の楽しみであるが、このフィリップ・ピケットとニュー・ロンドン・コンソートの演奏は、その期待に応える優れた、聴いて楽しいものである。

発売元: DECCA
現在ウェブのカタログには掲載されていない。

ブログランキング・にほんブログ村へ

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« バッハのロ短... バッハのフル... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。