陸海軍けんか列伝

日本帝国陸海軍軍人のけんか人物伝。

567.源田実海軍大佐(27) なぜ初めに、『意見具申した』と言ったかということだ

2017年02月03日 | 源田実海軍大佐
 ブランゲ博士の「トラ トラ トラ」では、源田中佐や淵田中佐は、積極的に再攻撃の意見具申をしたように書かれている。

 だが、源田中佐と淵田中佐が南雲司令長官や草鹿参謀長に、第二撃(再攻撃)の意見具申をしたということは、実際には、無かった。

 「真珠湾作戦回顧録」(源田実・文春文庫)の「序」で、著者の源田実は次のように記している。

 「私に合点できない一つの例は、第二撃の問題である。私自身は前日まで、連続攻撃の必要性を長官に具申し続けたことを覚えているが、長官には絶対にその意思がないことを見定め、それ以後は一言半句もこれに触れてはいないのである」

 「著書などで、赤城の艦橋で私が二次攻撃を主張したとなっているのもあるが、これは事実に反する。私だけではない。他の何人からも強い二次攻撃に関する意見具申はなかった」。

 また、「風鳴り止まず」(源田実・サンケイ出版)でも、源田実自身、次のように記している。

 「ハリウッド映画『トラ トラ トラ』などで、淵田中佐が私に『もう一度攻撃させろ』と言ったことになっているが、あれはウソである。また私が南雲長官や草鹿参謀長に対して、再度出撃を迫ったというのも、これまたウソである」

 「淵田中佐は、もう一度出撃するつもりで、士官室で腹ごしらえをしていたし、第二航空戦隊の山口多聞少将は『われ、第二出撃準備完了す』と催促の信号を送って来た」

 「また、第三戦隊司令官・三川軍一中将からも、もう一度攻撃を加えるべきである旨の意見具申があったことは事実である」

 「だが、そのころは、朝から悪かった天候が一層悪化し、夜間攻撃を終えて帰って来る飛行機の収容は、不可能な状態にあった。それは敵の潜水艦よりも危険だった」。

 こうなると、ブランゲが「トラ トラ トラ」でデッチ上げを書いたか、源田がブランゲにデッチ上げを言ったか、どちらかになる。

 「トラ トラ トラ」を翻訳したのは、千早正隆(ちはや・まさたか・海兵五八・八番・海大三九・第四南遣艦隊作戦参謀・連合艦隊作戦乙参謀・兼海軍総隊参謀・終戦時中佐)だ。

 ブランゲが淵田や源田にインタビューしたとき通訳をした千早は、次の様に断言している。

 「ブランゲは源田氏や淵田氏にインタビューしていた時、なぜ第二撃をやらなかったかを、非常に聞いている。源田氏は『第二撃の意見具申をしたんだが、採用にならなかったんだ』と、はじめの時言った」

 「ブランゲの『トラ トラ トラ』では『意見具申した』となっている。そこで私が感じた事は、なぜ初めに、『意見具申した』と言ったかということだ。ああいう重大な問題について明言したことを、後になって言った事は無かったと言うのは、おかしいと思う」

 「淵田氏はイマジネーション(想像力)が強い。ブランゲと私が感じた事だ。攻撃から最後に帰り、すぐ艦橋に上がり、二撃を力説したと言っていた。実際はそういうことをやっていない。意見具申すべきだと思っていたのが、意見具申したになったようだ」。

 『トラ トラ トラ』の単行本や映画に出てくる淵田や源田はカッコいい。両人ともそうありたいと切望し、ブランゲに対して、ないこともあったように話したというのが、真相のようである。

 昭和十七年四月二十二日、機動部隊本隊の空母「赤城」「蒼龍」「飛龍」は、それぞれ内地の母港に、四ケ月余ぶりに帰港した。

 「航空作戦参謀 源田実」(生出寿・徳間文庫)によると、四月末、瀬戸内海西部の柱島泊地に在泊する第二艦隊(南方部隊本隊)旗艦・重巡洋艦「愛宕」で、インド洋作戦までの作戦研究会が開かれた。

 この「愛宕」に、一航艦先任参謀・大石保(おおいし・たもつ)中佐(高知・海兵四八・十三番・海大三〇・砲艦「嵯峨」艦長・興亜院調査官・第一航空艦隊先任参謀・海軍大学校教官・特設巡洋艦「愛国丸」艦長・大佐・海軍省兵備局第三課長・第一課長・運輸本部総務課長・海軍航海学校教頭・横須賀突撃隊司令・戦後第二復員官・佐世保地方復員局艦船運航部長・死去・少将)が来艦した。

 この大石中佐に、第二艦隊通信参謀・中島親孝(なかじま・ちかたか)少佐(北海道札幌市・海兵五四・海軍通信学校高等科首席・海大三七・少佐・軍令部第四部九課・第二艦隊参謀・第三艦隊通信参謀・連合艦隊情報参謀・中佐・兼海軍総隊参謀・戦後厚生省援護局第二課長・著書「連合艦隊作戦室から見た太平洋戦争」)が次の様に話しかけた。

 中島少佐「ツリンコマリ攻撃の時、「赤城」は英国の大型機に爆撃されて、夾叉(きょうさ)されている(数個の爆弾が艦を挟むように弾着する)じゃないですか。危ないですから、ひと固まりの隊形を考え直して、陣容をもっと強化しなければだめですよ」。