陸海軍けんか列伝

日本帝国陸海軍軍人のけんか人物伝。

記255.山口多聞海軍中将(15)GF司令部首脳の君たち、いまごろ相槌を打つようでは困ったものだ

2011年02月10日 | 山口多聞海軍中将
 山口少将は「攻撃目標と攻撃の手はずは君たちが取り決めたんだぞ」と言うと、

 「山口司令官のおっしゃる通りです」「そうだ、山口君の言う通りだ」。黒島参謀と宇垣参謀長も同調して言った。

 だが、山口少将は「GF司令部首脳の君たち、いまごろ相槌を打つようでは困ったものだ。いいかい、冒頭に敵主力艦に雷撃、爆撃をくらわすのは、攻撃隊としてそりゃ、カッコいいさ。だが、案外そのことに近視的になっていないか。作戦をもっと総括してみる。この重油タンクをやっつければ港内はたちまち火の海になる。それだけで、随所の攻撃の必要がなくなるかも知れない」と言った。

 すると、源田参謀が「それにつきましては・・・、南雲長官のご判断におまかせするしか・・・」と答えた。

 次に草鹿参謀長が「第一撃の第一、第二波で、主力艦、飛行場、対空砲火陣、ついで軍事施設と思えるものは、のがさず叩く予定です。山口司令官がおっしゃる目標の破壊のためには、さらに」と言った。

 山口少将は「草鹿参謀長、ぱっと肝を割って言ってくれよ。第一撃についで第二撃、それでも足らなければ、第三撃・・・というふうに真珠湾から軍港の気配を完膚なきまでに消し去るため、攻撃は反復しなければならない。小官が今言った最重点の目標、重油タンクと勝利設備を冒頭に叩くよう計らってくれ」

 源田参謀が「はあ・・・・・・それは」と、いかにも困った顔になった。

 山口少将が「できないというのかね」と言うと

 「なにぶん、いちおう、最善の方法として打ち合わせしましたので、それを変更するとなると」と源田参謀は答えた。

 これに対し山口少将が「では、第二撃、第三撃の折でもよい。この二つの要衝を叩けば、オハフ島が噴火で焼け爛れた死の島になるのは必定だ。おいおい二人とも、心もとない面だな。では改めてきく。南雲司令官は完璧に攻撃するためには第二撃、第三撃を行う心積もりが頑としてあるか。また、重油タンク爆撃は間違いなくやるか」と言った。

 二人は顔を見合したまま、何も答えなかった。山口少将は「もう頼まぬ」といわんばかりに、室の外に飛び出した。

 このあと、山口少将は鹿児島へ行き、雄大な桜島を一望する岩崎谷荘に投宿した。憤懣をなだめるためだった。だが、これが山口少将の最後の湯治となった。

 少し遅れて石黒参謀が山口の泊まっている部屋に入ってきた。山口少将は石黒参謀に次の様に言った。

 「あのあと、すぐ山本長官の部屋に飛び込んで自分の思うたけを訴えた。長官は『百年兵を養い、国運をこの一撃にというなら徹底的にやるべしだ。俺から南雲君に、山口君の意見を活かす様、十分訓令しよう』と言ってくれた」

 南雲長官は慎重だった。山口多聞はもっと源を叩けと言っている。だが、そうするとどんな不測の事態を招くか知れない。

 その重油タンクを破壊して、収拾のつかぬまでに災立たせるには、どれくらい投弾を要するか全くわからない。だが、致命的にタンクが砕かれて重油が流出すれば陸上施設を含む港内すべてが、聖火台のようになることは確かだ。

 だが、もし、タンクが用心深く仕切られていて、爆弾で何箇所も粉砕されても、炎立たず、中途半端な破壊にとどまるようなら・・・・・・おびただしい爆煙や油の煙がかえって煙幕をつとめて、戦艦や他の軍事施設に対する攻撃がひどくさまたげられる。

 上空からは見えにくい地味な修理施設への投弾も、場所が場所だけに、法外な煙を出して煙幕をはらせることになりかねない。それに、こういう場所の破壊の成果をみとどけられるのは、ゼロに等しくなる。

 山口少将は「石黒君、南雲さんは、おれの主張など先刻承知に違いない。南雲さんはいったいそれにどれだけ積極的になるだろう・・・・・・」。

 山口少将は、「ほれ」と言いながら改めて彼方の桜島を指差した。夕映えだった。そして言った。「かの有名な中国の泰山もこのようかな。この悠揚迫らぬたたずまいが真にうらやましくなるよ」

 昭和十六年十二月八日午前零時、南雲長官率いる機動部隊の全乗組員、搭乗員合わせて三万人は、それぞれ持ち場に着き、艦内の神社に参拝し、お神酒を飲んで必勝を期した。

 午前一時二十分、各空母から攻撃隊が飛び立った。ハワイ時間午前五時五十分だった。午前三時オアフ島の上空に達した。ハワイ時間午前七時半だった。