かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

黒部・立山の旅① 宇奈月の、雨のトロッコ列車

2010-10-31 00:28:29 | ゆきずりの*旅
 あてもなく思いつきで旅を続けて、振りかえれば、行っていない県は、富山と愛媛になっていた。別に、全県に行ってみようとか、宮脇俊三のように、鉄道全線走破などは意識したこともなかった。
 そもそもそういう旅ではなかった。それに、あの列車に乗ってみたいとか、あの路線を走ってみたいというのも意識したことがなかった。
 ただ、思いつきで旅したに過ぎない。
 会社(出版社)勤めだったので、旅に出たのは、多くはゴールデンウィークをはじめ、連休や有給休暇を利用したものだった。
 九州・佐賀で育ったせいか、「北帰行」と称して北へ向かうのが、旅心をくすぐった。
 それに、年に何回か東京から佐賀に帰省する際には、飛行機は使わず殆ど列車を利用した。東京から博多まで東海道新幹線利用が最も多いが、時折途中コースを換えて寄り道をした。
 京都から山陰線に乗り換えて、鳥取、島根、山口を通って九州へ入ったこともあった。
 あるときは、東京湾を夜発つフェリーに乗って、翌昼に徳島を経て、瀬戸内海を抜けて翌々日の早朝に門司港へ着く、船中2泊の船旅も経験した。
 列車で九州へ着いてからも、まっすぐ佐賀に行かずに、小倉から大分に出て、久大線で久留米を経て佐賀へたどり着くコースもあった。
 あるいは、やはり小倉から大分に出て、豊肥線で熊本へ、さらに三角へ行き、天草島に渡り、天草から長崎に渡り、佐賀にたどり着いたこともあった。

 *

 意識していなかったが、足を踏み入れていない県があと2県となると、やはり富山と愛媛も行ってみないと、と思う。
 そんなとき、友人から「立山・黒部アルペンルートとトロッコ列車」の旅の誘いがきた。立山、黒部も富山県で、泊まりは富山市だ。山登りや、自然の渓谷を見に行く趣向もなかったが、こんな機会でないと行かないと思い、喉が少し痛かったが、旅立った。

 10月26日、東京駅朝8時24分発、上越新幹線「Maxとき」で、10時12分長岡着。「Maxとき」は、2階建ての列車だ。
 長岡からバスに乗って宇奈月に向かう。この日の目的、トロッコ電車に乗るためだ。ところが、窓の外は雨だ。天気予報によると、日本海寄りに冬型の寒波がきているという。
 昼過ぎに宇奈月着。ここは、宇奈月温泉で有名なところだ。やっと、富山県の土を踏んだ。
 宇奈月に着いたら、そこも案の定雨で、それに予想していたといえ寒い。それも真冬の寒さである。
 旅は、しばしば予想外の事態が起こるものである。
 
 宇奈月駅から黒部峡谷を走るトロッコ電車「黒部峡谷鉄道」は、元々ダム建設の資材や作業員を運んだ電車だが、今では観光客に、人気があるという。
 冬支度のジャンバーを着ていたが、トロッコ電車は屋根はあるものの、車体の両側は骨組みの柱だけで、窓ガラスはなく吹きさらしだ。こんな雨の日は、例外的に窓を付けるなんてことはない。
 駅の構内にある売店で、ビニールのレインコートが売っているので、買うことにした。トロッコ電車に乗る人はみんな買っていて、乗客は全員ビニールコート姿となった。
 車台の上に、背のない木造の長椅子が並んでいる。ぎちぎちに詰めれば4人は座れるだろうが、雨が吹き付けるので真ん中に2人乗りで座る。
 川に沿って渓谷を走る電車は、いくつものトンネルを抜け、いくつもの橋を渡り、いくつもの山肌を伝わる細く長い滝が車窓に映える、美しい景観が続く。(写真)
 しかし、それも雨に打たれると、冷たくて感動してばかりはいられない。山の頂は白い。雪が降ったのだ。
 トロッコ電車は、宇奈月から終点の欅平まで約20キロの距離を1時間20分で走るのだが、途中の鐘釣(かねつり)まで55分で、そこでコーヒーを飲んでUターンし、宇奈月へ戻る。

 宇奈月からバスで富山のホテルへ。
 すっかり喉を痛めてしまった。
 翌日は、立山から黒部ダムのコースだ。立山は雪が降ったと情報が入る。今日よりもっと寒いという。明日が思いやられる。
 9月に猛暑で、10月に雪に出合う。つい最近まで夏のように暑かったのに、一気に、ここに冬が来たようだ。
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