かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

「スーパーグローバル大学」は、日本版大学ミシュラン☆か?

2014-10-07 01:00:58 | 気まぐれな日々
 日本語は、基本が曖昧で容易に変容する言語だと私は思っている。
 流行語は、概ね若者が使い始めて、大人が顔をしかめながらもいつの間にか世間に流布して一般化するものである。何年かして定着する言葉もあればすぐに廃れるものもある。
 変な日本語として私が嫌いなのは、何にでもくっつける「チョー」(超)と「的」である。
 「チョー」は、2004年のアテネ・オリンピックで金メダルを取った北島康介の「チョー気持ちいい」から、市民権を得たような気がする。それまではガングロのギャルなどが使っていた軽薄な言葉だった印象が強かったのだが。しかし、この言葉も最近は廃れ気味だ。
 「的」も、近年やたら使われる。「わたし的には、こう思うんだけど」なんて言っているのを聞くと、「的」は要らないだろう、「わたしは…」でいいだろうと、つい心の中で怒ってしまう。それを若い女の子が使っているのならまだしも、アナウンサーやコメンテーター、評論家が使っているのを見ると、おいおい、お前もか、とがっかりしてしまう。
 「チョー」(超)は、英語に替えれば「スーパー」と言ってもいいだろう。このスーパーも、「スーパーマン」あたりは格好よかったが、スーパーマーケットあたりから軽くなってきた。そして、多くの分野で多用されている。
 「カリスマ」や「レジェンド」などに見られるように、言葉はあまり安易に使われると、元の意味が溶解するように軽くなるものだ。一時期、カリスマ美容師やカリスマ主婦などと使われたが、そのカリスマたちは今はどこへ行ったのだろう。レジェンドもホンダの車のネーミングあたりは愛嬌としても、現在活動している人に安易に使うのはどうかと思う。伝説には早すぎるだろう。

 *

 10月1日に、英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が、今年の「世界大学ランキング」を発表した。どこの国でも格付けが好きなようだ。
 上位5位までをあげてみると、1位・カリフォルニア工科大学(アメリカ)、2位・ハーバード大学(アメリカ)、3位・オックスフォード大学(イギリス)、4位・スタンフォード大学(アメリカ)、5位・ケンブリッジ大学(イギリス)となっている。
 100位までを見てみると、日本の大学では、東京大が昨年と同順位の23位でアジア・トップの座を維持し、京大が59位で昨年の52位から順位を下げた。
 他のアジアの大学では、シンガポール国立大が25位、同国の南洋理工大61位、香港大43位、 香港科技大51位、中国の北京大48位、同国の清華大49位、韓国のソウル大50位、 KAIST(韓国科学技術院)52位と成長が目覚ましい。
 上位200校に入った日本の大学は5校で昨年と同数だったが、東京大以外はいずれも順位を落とした。

 *

 このような背景のもと、大学の国際競争に危機感を持っていた政府は、去る9月26日、 平成26年度「スーパーグローバル大学創成支援」事業なるものを発表した。
 事業の概要は、次の通りである。
 「スーパーグローバル大学創成支援」は、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や、先導的試行に挑戦し我が国の大学の国際化を牽引する大学など、徹底した国際化と大学改革を断行する大学を重点支援することにより、我が国の高等教育の国際競争力を強化することを目的としています。
 そのことをふまえ、以下の2段階に分けて大学を選定し、支援するというものである。
 ○トップ型――世界ランキングトップ100を目指す力のある大学を支援。
 ○グローバル化牽引型――これまでの取組実績を基に更に先導的試行に挑戦し、我が国社会のグローバル化を牽引する大学を支援。

 そして、予め応募申請されていた104大学のなかから文部科学省はスーパーグローバル37大学(トップ型・13校、グローバル化牽引型・24校)を選び、発表した。その大学は以下のとおりである。
 ○トップ型、国立11、私立2校。
 北海道大、東北大、筑波大、東京大、東京医科歯科大、東京工業大、名古屋大、京都大、大阪大、広島大、九州大
 慶應義塾大、早稲田大
 ○グローバル化牽引型、国立10、公立2、私立12校。
 千葉大、東京外国語大、東京芸術大、長岡技術科学大、金沢大、豊橋技術科学大、京都工芸繊維大、奈良先端科学技術大学院大、岡山大、熊本大、
 国際教養大、会津大、
 国際基督教大、芝浦工業大、上智大、東洋大、法政大、明治大、立教大、創価大、国際大、立命館大、関西学院大、立命館アジア太平洋大

 今後10年間、「トップ型」では毎年最大5億円、「牽引型」で最大3億円の支援金が出るという。(写真、朝日新聞より)

 選ばれた大学の顔ぶれを見ると、伝統と革新のバランスである。
 「トップ型」には、旧帝大をメインとした国立伝統校、「牽引型」には技術系革新の国立校、および文系を視野に入れた私立校が並ぶ。 
 「トップ型」は、旧七帝大である東大、京大、東北大、九大、北大、阪大、名大が顔をそろえている。
 さらに、旧三工大の東京工業大(他の2校は、旧大阪工業大=のちに大阪大工学部として改組、旅順工科大=終戦により廃止)。旧二文理大の筑波大(旧東京文理科大)と広島大(旧広島文理科大)。そして、医学系の専門大学として東京医科歯科大(旧官立東京高等歯科医学校が前身)。
 私立大として、早稲田大・慶應義塾大が入った。

 「牽引型」の、国立大を見てみよう。
 戦前の旧官立大学の中でも「旧六医科大学」と呼ばれる、医学系を母体とした大学から岡山大(旧岡山医科大)、金沢大(旧金沢医科大)、千葉大(旧千葉医科大)、熊本大(旧熊本医科大)が。金沢大(旧四高)、熊本大(旧五高)、岡山大(旧六高)は、いわゆる「ナンバースクール」でもある。ちなみに旧一高は東大教養、旧二高は東北大教養、旧三高は京大教養である。
 新しい大学として、理系の技術科学大である 長岡技術科学大、豊橋技術科学大、さらに奈良先端科学技術大学院大が。
 そして、専門分野として特化した大学としての東京外国語大、東京芸術大、京都工芸繊維大を加えている。

 「牽引型」の私立大を見てみよう。
 創立は戦後と新しいながら、設立時から国際性に富んでいたことで知られる国際基督教大。留学生、帰国生徒や留学経験者が多いミッション系の上智大。
 「トップ型」の東大、早大、慶大に続いた、そのルーツに古い歴史を持つ「東京六大学」の明治大、法政大、立教大。この3校は大手予備校などの受験界で「MARCH」と括られることもあるが、その中から東京6大学校だけが抜け出した格好である。
 関西のいわゆる「関関同立」のなかから、立命館大、関西学院大。
 専門学校としては異色の旧「哲学館」としてスタートした東洋大。私立の工業大の代表と思われる芝浦工業大(なぜか東京理科大は申請していない)などがあげられる。

 *

 わが国の大学は、東京大を根幹として発展してきたことは間違いない。
 「大学誕生」(天野郁夫著、中央公論社刊)で、大学が誕生するその揺籃期の歴史を見てみると面白い。
 わが国最初の大学の名称は明治10年に設立された官立による東京大学だが、明治19年には「帝国大学令」によって帝国大学となる。
 帝国大学は、先に「スーパーグローバル大学」の「トップ型」にあげたように、東京帝大をはじめとして明治から昭和にかけて、各地に漸次9校(内地7、外地2校)が設立される。
 「大学誕生」によると、「帝国大学は欧米大学に比肩しうる、近代国家としての日本帝国の威信を象徴するに足る、また「国家ノ須要」に応ずる大学をという要求に、直接応えることを目的に設立された」とある。
 何だか、130年近く経た後の今回の「スーパーグローバル大学創成支援」事業の主旨に相通じるものがあるではないか。
 東京大の誕生を前後して、明治10年代、20年代には、私立の法律学校をはじめとしたいくつかの専門学校が各地に誕生した。

 明治23年までに設立された私立の専門学校(明治36年「専門学校令」で認可を得られなかった学校を除く)を、「大学誕生」を参考に以下にあげてみる。
 ・慶應義塾 (*慶應義塾大学)
 ・東京専門学校 (*早稲田大学)
 ・明治法律学校 (*明治大学)
 ・和仏法律学校 (*法政大学)
 ・東京法学院 (*中央大学)
 ・日本法律学校 (*日本大学)
 ・國學院 (*國學院大學)
 ・同志社神学校 (*同志社大学)
 ・東京慈恵医院医学校 (東京慈恵会医科大学)
 ・専修学校 (専修大学)
 ・哲学館 (東洋大学)
 ・関西法律学校 (関西大学)

 それまで大学と名のれる学校が帝国大学しかなかったのだが、その後、大正7(1918)年公布の「大学令」における「大学」認可に、いずれの学校も向かうことになる。
 大学令施行後の大正9(1920)年には、私立校では慶應、早稲田を皮切りに上記*8校が大学に認可され、その後大正年間で順次22校が大学として認可される。
 今日、大学は国立86校、公立 95校、私立 597校、合計 778校を数える。(平成22年5月現在、文部科学省)

 *

 今年の7月、「ミシュランガイド福岡・佐賀2014特別版」が発売された。福岡は知らないが、佐賀で掲載された店は、伝統のある有名店と新進の店の競合だと思った。歴史に耐え抜いた伝統店は省けられず、はたまた新しい店も加えないと、という思惑を感じた。
 先月の9月、佐賀に帰った際、このガイドブックを持って、ワクワクしながら食堂・レストランへ行った。このことは、後で記そうと思う。
 この「スーパーグローバル大学」が発表された時、なぜかこの「ミシュランガイド」を思い出した。大手予備校などが作成する偏差値ランキングとは全く別の、文部科学省であるお上(かみ)が出した新しい格付け星かと思った。
 英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」の「世界大学ランキング」ベスト100位内に既に入っている東大、京大は三ツ星で、この2校を除く「トップ型」の11校は二つ星、「グローバル化牽引型」の24校は一つ星だと。
 そして、この「スーパーグローバル大学」は、新しい重荷を背負わせられたと思った。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 東京駅から逃げ出した4匹の... | トップ | ミシュランの☆佐賀探索① 「... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

気まぐれな日々」カテゴリの最新記事