かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

□ 陰日向に咲く

2006-06-04 05:09:52 | 本/小説:日本
 劇団ひとり著 幻冬舎

 今年発売された当初から評判の本だ。芸人らしくない育ちの良さそうなピン芸人の書いた本、ということでも話題になった。それに、売れている。
 内容は、ホームレスに憧れてそれを実行した男、落ち目のアイドルの熱狂的なファンの男、売れない芸人の話などが入った短編集である。一貫しているのは、著書の低い視線である。すべて、人生の主流から逸脱した人間の生き様を描いている。今風の言葉で言えば、負け組の視線である。
 確かに、芸能人の書いた、しかも初めての小説としてはいい本である。

 面白く読んだが、なかで僕が興味をひいたのは、ギャンブルで借金を背負った男の話の「 Overrun 」である。ギャンブルにはまり借金を背負った独身三十代男が、パチスロを諦め、借金を返すために、ギャンブルで絶対に勝つルールを見つける。それは競馬での勝つ方程式である。
 それは、こうである。単勝2番人気の1着になる確率は25パーセントである。つまり、4回に1回は勝つということになる。2番人気の平均オッズが4倍である。
 仮に、1レースに千円ずつ賭けたら、4回に1回当たることになり、4千円が戻ってきて、収支はチャラである。これでは儲けにならない。
 だから、こうするのである。1レース目に千円買って、外れたら2レース目には倍の2千円を賭ける、それが外れたら次は4千円、それが外れたら次は8千円賭ける。4戦目に当たると、8千円の4倍で3万2千円の払い戻しになり、それまでの投資額が1万5千円だから、差し引きすると1万7千円の儲けになる。
 勝ったら、儲けは別にしておき、また最初の方程式に戻り千円から出発する、というものである。
 
 僕も、この理論は知っていた。しかし、競馬は生き物である。こうならないのも知っていた。そもそも競馬で、4回に1回勝って、払い戻しが4倍という前提は、理論的にあり得ない。払い戻しは公営競馬の場合、75パーセントだから、この場合、4倍の75パーセントで3倍ということになる。つまり、4回に1回勝って、3倍の戻りということになるのである。
 ただ、僕はギャンブルにおける、もっと理論的で科学的な勝利の方程式を知っていた。
 その時、僕はそれを発見して、当時澳門のカジノに行っていた知人に、絶対的勝利の方程式を息を切らしながら披露したものだ。そして、どうしてこの方法をみんなやらないのだろうと、不思議に思ったものだ。
 それは、ルーレットでも、大小でもいいのだが、2分の1に賭けるもので勝負するものである。カジノで行うのが一番いいが、別にカジノでなくても理論的には当てはまる。例えば奇数か偶数を当てる、丁か半かの2分の1の掛け率の場合に当てはめればいいのである。

 カジノの利点は、カジノがほとんど掛け金に対する払戻金の控除、つまり胴元による天引きがないということである。客が千円賭けたら約千円が戻される。100万円賭けたら、100万円近くが戻される。大まかにいえば、客が全体で100万円賭けた場合、全体で50万円負けた人がいても、全体で50万円勝った人がいるという形になる。客が大勝ちした場合、チップをディーラーにやるのが慣例だが、それとて規則ではない。ただし、やらないと無粋な客ということになる

 丁半(偶数・奇数)賭博の場合、払い戻しは2倍、賭けた額の分だけ儲けとして手元に残る。2回に1回の勝率であるから、長く続ければトントンということになる。
 詳しくは、ルーレットでは36枠以外に0があり、大小ではぞろ目の例外規則があったりして、正確に50パーセントの勝率にはならない。モナコのモンテカルロの場合、0があり、勝率37分の18で48.7パーセント、負率37分の19で51.5パーセント。還元率は97.3パーセントである。ラスベカスは、0、00があり、還元率94.7パーセントとなる。
 しかし、払い戻しはほぼ100パーセントに近いといっていい。勝率は、理論的には限りなくヒフティヒフティに近いのである。
 さらに細かくいえば、カジノは入場料を払わなければならないが、それとて、店によって違うがたいした額ではない。
 
 どう見ても、こんな低い控除率は、ほかのギャンブルにはない。
 公営ギャンブルの競馬や競艇などは、最初から客の賭け金の25パーセント差し引かれての払い戻しである。パチンコやパチスロは、何パーセント差し引かれているのか分からない。パチンコ業会は、今や競馬や競艇など足元にも及ばない30兆円ビジネスに成長し、あれだけ繁盛しているのだから、相当な控除率になるだろう。宝くじに至っては、半分近くを持っていかれている。
 カジノほど、払い戻しのパーセンテージがいいものはない(かといって、念のために言っておくと、僕はカジノを推奨しているのではない)。

 勝利の方程式のルールは、至って簡単である。ルーレット、もしくは大小でもいい。丁(偶数)と決めたなら、丁に千円賭ける。外れたら次に2千円賭ける。それが外れたら次に4千円賭ける。それが外れたら、次に8千円賭ける。当たった時点で、儲けの千円ば別のポケットに入れて、また千円から始めるのである。
 2回に1回の確率だから、同じところに賭け続けると、そんなに多く負けが続くことはない。やればやるほど、儲けは千円、2千円、3千円と確実に増えていく。金があれば、1回の掛け金を高くすれば、それだけ儲け額も増えるというわけである。いや、もっと大金持ちであれば、1回の掛け金を100万円にしたっていい。何回目にその丁(偶数)が来るか分からないが、出たところでやめる。1日、1回の勝ちでやめるのである。
 すると、1日100万円ずつが入ってくるということになる。労せずして、こんな確実な儲け方があろうか(ただし、カジノの場合、店によって違うが上限額が定められている)。

 十数年前であるが、この方法を頭に入れて、僕は澳門に行った。それなのにである。カジノに入るやいなや、この方程式はすっかり頭から離れてしまったのだった。
 実は、僕はそれまでカジノは海外に行った時にたまにやる程度だったが、その時の澳門行きで、カジノに本格的に入っていこうかと思ったのであった。しかし、澳門でのカジノは紆余曲折、櫛風沐雨の末、夢幻泡影のごとく大敗し、僕はすっかりカジノから手を引いたのだった。
 そして、ギャンブルでは、一時的にはあっても勝つことはないと知ったのでした。

 本の紹介が、まったく違った話になってしまった。
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