MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<29-2>海外の相手とうまく交渉するには?(続)

2006-05-22 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
合意の内容をできるだけ詳細にし解釈の齟齬をなくすことはひとつの重要なポイントです。

一方で、交渉のプロセス自体を円滑に進めるうえで、相手の文化を理解することも非常に重要なポイントとなります。
ハーバードのJames K.Sebenius教授は、文化が異なる相手との交渉において注意すべきことの一つに「どんな行動様式が受け入れられる(あるいは受け入れられない)のか」を知ることを挙げています(HBR(ハーバードビジネスレビュー)に寄稿された”Cross-border negotiations”を参考)。
交渉の内容そのもの以前に、どんな交渉プロセスを取るべきかを理解すべきだというわけです。

相手の文化でどんな行動様式がどう受け取られるのか。
チェックすべき主なポイントとして、下記のようなリストが挙げられます。

あいさつ:
初対面の相手にどんなあいさつをするのが「常識」なのか。
お辞儀するのか握手するのか。名刺交換をすべきか。

形式さ:
交渉の文脈で、どの位カジュアルに、くだけた服装や態度を示すべきなのか。
どの位フランクに振舞うと礼儀知らずになるのか。

贈り物:
手土産に何か贈り物を渡すべきか。
どんなプレゼントがふさわしいか(あるいはタブーになっているか)

ボディタッチ:
相手の体に触れる(例:肩を叩く)ことが受け入れられるか。
あるいは逆に相手に触れないと失礼になるか。

アイコンタクト:
相手の目をまっすぐ直視することが求められるか。
あるいは逆に失礼に当たるか。

感情表現:
大げさに、正直に感情を表すべきか。
あるいは逆に感情を出すことは失礼に当たるか。

沈黙:
黙っていることは失礼に当たるか。
逆に尊敬や丁重さを意味するか。

食事作法:
食事の際にはどんな食べ方(テーブルマナー)が礼儀正しいとされるか。
タブーにあたる食べ物はないか。

ボディランゲージ:
特定の仕草やジェスチャがどんな意味を持つか。
失礼に当たるものは無いか。

時間の感覚:
時間を守ることがどの位重視されるか。
ある程度ルーズに遅れるのが当たり前とされているか。

これらリストのように非常に細かい点で、文化による違いは数多くあります。
一見どうでもよく見えるこうしたミクロな点が、互いの誤解の源泉になるのです。

注意すべき点は、これら様々な誤解の要素にも二つのレベルが存在することです。

単なるあいさつやテーブルマナーなど、形式だけに関わる点なら、失敗しても「相手はこちらの文化を良く知らないのだろう」とある程度受容されやすいと言えます。
現実に、こうした表面的な儀式が深刻な障害となることは多くありません。
しかし、すれ違いが会話や表現の仕方そのもの、意思決定のやり方に関わる部分となると、そうはいきません。
交渉の進行に直接関わるこれらの要素で互いに根本的なギャップがあると、交渉プロセスが暗礁に乗り上げてしまいます。

現実には、交渉プロセスにおけるギャップはまず不快感、緊張感として表面化します。

-向こうはこちらのメッセージをきちんと理解できていない
-そんな話の進め方をされてはたまらない
-そんなつまらないことにこだわられてはたまらない

といった、「思い通りに話し合いが進まない」感覚がしたら、背景にある文化的なギャップの可能性を考える必要があります。
こうした状況への解決策としては、自分の文化的な背景に基づいた理解を相手に示し、相手の側の理解を共有することが最も有効でしょう。
論理の前提条件を共有することで、「どこで結論の違いが生じているか」を明らかにするのです。

言い換えれば、考え方や文化の異なる相手と上手に合意を作ろうとすれば、協調的な交渉をする技術が通常以上に問われることになります。
交渉にもハードボール戦略、ソフトボール戦略があるとして、後者の技が必要になるということです。
次回からは、この協調的な合意を作るテクニックについて考えていきたいと思います。


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