MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<25-4>感情をきちんと伝えるには?(4)

2006-01-22 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
続いてつまずきやすいポイントの残り二つを見ていきましょう。


ポイント2:感情に関する会話

感情は微妙な問題です。

たとえば相手の言い回しにむっとする、態度に腹が立つ、誤解にイライラする。
人と話をすれば、時には何かしらネガティブな感情が生まれるのが自然です。
ところが多くの場合、特に交渉が少し上達した中級者には、あえてこうした感情を押し殺してしまうヒトがよく見られます。
感情は問題の解決には関係ないし、いちいち相手と共有しても意味がない。むしろ相手に手の内を読まれてしまうだけなので、無理にでも隠すべきだ。
こうした前提で、感情に関する会話はむしろ避けようとするのです。

確かに、感情を押し殺すことは一見合理的に見えます。

しかし、それがかえって問題解決を妨げることもあります。
というのも、時には押し殺した感情そのものこそが、問題の核心と深く結びついていることがあるからです。

例のケースを振り返ってみると、Bさんが自分の感情を押し殺し、Aさんのノートの清書を引き受けています。
問題をノートの清書だけに限定すれば、Bさんが我慢することで問題は解決したと言えるかもしれません。
しかしながら、広く考えれば本当の問題は
(1)AさんBさんとも自分のコミュニケーションの癖に気づいていないこと、
(2)AさんBさんの間で十分に情報が共有されていないこと、
(3)結果としてAさんBさんの関係が破綻の危機に瀕していること、
(4)このままでは同じような事件が別の人との間でAさんBさんそれぞれに起こりかねないこと、
とも言えるでしょう。

理想的には、すっきりしない感じが残る会話になった際には、互いの感情もきちんと俎上に載せて話すべきです。
感情は取るに足らない気分の問題ではなく、時には問題をより複雑にする元凶になると想定しましょう。
もちろん、誰もが心理カウンセラーではありませんから、完璧に感情のしこりを取ることはできないかも知れません。
それでも、互いがどう感じたのかを(良否の評価は置いて)まず伝え合うことで、どこからどこまでが感情のもつれで、どこからが利害の問題なのかを仕分けることが出来ます。
その上で、既に説明した「事実認識」の話し合い方を活用して、事実とそれにまつわる感情を整理し、共有するわけです。
相手に感情が伝わっただけでも、多くの場合気分がさっぱりするものですし、どうすれば感情的な対立を抑えられるか、話し合いのルールを話し合うことが出来ます。
特に相手が合理的な交渉者であればあるほど、感情を仕分けることで感情以外の問題に集中して効率よく交渉が進められるでしょう。


ポイント3:自己防衛

注意すべき三つ目のポイントは、自分の立場を守ることに過剰に意識が向くことです。

自分の感情が満たされない場面に直面すると、多くの人は自分の立場が危機に陥っていると感じます。
例えば、自分の言い分がうまく聞いてもらえない場合、依頼した内容だけでなく自分自身そのものが否定されたと感じるものです。
自分の提案が上司に一顧だにしてもらえなかったら、自分の能力が否定されていると感じるでしょう。
こうした、自分に対する相手の反応が、自己評価に直結してしまう傾向は誰もが持っているものです。

交渉や感情がからむ会話で危険なのは、それが過剰な自己防衛に向かうことです。
つまり、誰しも自分が優秀なのか無能なのか、勝っているのか負けているのか、好かれる人なのか嫌われる人なのか、といった自己イメージを守ろうとする意識があり、それが感情を余計にヒートさせてしまうことがあるのです。

例えば、上司にした提案が無視された時、「自分は優秀だ」とする自己イメージが強ければ強いほど、「こんなのはおかしい」「上司が悪い」と感じるでしょう。
しかし感情の矛先が上司に向かっていては、状況はむしろ悪化し、提案が受け入れられる可能性もますます下がりかねません。
提案を受け入れてもらうのも交渉だと考えれば、相手が「No」といったからといっていちいち腹を立てていても、有利な結果に結びつかないのです。
例に挙げたケースでも、BさんはAさんの態度、特に自分を専属のタイピストのように扱う態度を自分の立場を軽んじる攻撃と見て、感情を悪化させているのが分ります。

こうした背景には、自己イメージをゼロイチで捉える短絡的な視点があります。
自分が「良い」か「悪い」かのどちらかと捉え、極端に二元化するとどうなるでしょう。
誰しも自分が可愛いので「良い」自己イメージを死守しようと、それに合わない状況・相手を感情的に攻撃してしまいます。
しかし普通に考えれば、人間である以上お互い少しは不適切なことを言ってしまうものです。
自分も失言をするし、相手もこちらの気に入らないことを少しは言ってしまうのが自然でしょう。
完全無欠な自己イメージなど、人との会話の中で維持することはほとんど不可能です。
そう考えれば必要なことは、自己イメージをより柔軟に捉えることと言えるかもしれません。

-誰だって正しいことも言うが、不適切で癇に障ることも言ってしまうものだ
-だから発言の一つ一つでいちいち自分のプライドが影響される必要はない
-ただ引っかかりがあるのであれば、そのこと自体を相手に伝えることは意味がある

といったところでしょうか。

ここまで感情をきちんと伝える方法を何回かにわたってみてきました。
このようにきちんとしたコミュニケーションができれば、きちんとした関係が構築されていくはずです。
しかしながら交渉で求められる相手との関係は、友人や恋人同士の関係と全く同じでもありません。
協調と競争の微妙なバランスを考慮しなければならないからです。

次回から何回かは、交渉相手との人間関係に焦点をあててみたいと思います。

天と地と

2006-01-13 | 雑記
掲題の本を読みました。(海音寺潮五郎、文春文庫)
上杉謙信を主人公にした、時代小説です。

角川映画で昔やっていたのでタイトルはよく知ってましたが、原作を読むのは初めてでした。
映画のイメージ(川中島の合戦)が強いので、タイトルの意味も

-天と地のように相容れない宿命のライバルが激突

ということかと思っていました。
カナダで日本映画史上最大規模のエキストラを雇って撮ったという、赤鎧と黒鎧の合戦シーンを何となく覚えているので。

しかし読んでみると、あんまりタイトルはそういう意味もなく、普通に主人公の生い立ちと成長物語でした。
「この広い天地を舞台に人生を駆けぬけていく物語」
ということでしょうか?

ただ、小説のタイトルはあまり中身が想像されすぎても面白くありません。
(筆者もこの本のタイトルが「上杉謙信」だったら、読まなかったかもしれません)
あれこれ読者なりのイメージが膨らむものこそ、センスの良いタイトルかもしれませんね。

リーダーシップの教科書

2006-01-10 | 雑記
掲題の本を読みました(阪本啓一著、日本実業出版社)。
ついこの前に読んだ「チームリーダーの教科書」と続けて読んでみました。

二冊の内容は、細かくは違いがありますが、大筋で驚くほど似てますね。
共通しているのが、内容については

+リーダーとはどんな性質を満たす人か、最大公約数をまとめて示し
+その習得のためにどんな努力をすべきかを示す

ことだけに集中して書いていることだと思います。
さらに、取っ掛かり易く、読みやすくするために

+図を多用する
+字数を極力減らす
+イメージが湧く具体例をつける
+重要な部分(章タイトルなど)のフォントを丸く、大きくする

といった工夫をしているところでしょうか。
結構売れているのもうなずけるな、という感じです。

ただ大変面白いと思うのは、欧米のリーダーシップ本との違い。
向こうだと結構なページをさく事が多い、

1.どうしてそういう性質を持つ人がリーダーとみなされるのか、という原理
2.具体的にどんなタイプのリーダーがあるのか、というパターン分け

がないこと、だと思います。

おそらく(勝手な想像ですが)、欧米だと、

-リーダーシップの最大公約数的な機能(what)など常識的に分かっている
-だから、どうしてそうした性質が効果的に機能するのか(why)、原理こそ知りたい
-あるいは、リーダーといってもパターンが一つしかないはずはないから、自分に合いそうな複数のパターン/モデル(how)を具体的にメニューとして示して欲しい

といった考え方ではないでしょうか。
欧米人はこの「複数具体的パターン化」が非常に好きだと思います。
そのため、日本の本のように

-最大公約数はこの本に書いたので、具体的に落とすのは読者の皆さんの工夫次第です

というアプローチだと、「折角本を買ったのに価値がない」と取られてしまいかねない。
思い込みかもしれませんがハウツー本のベストな書き方ってどんなものなのか、も文化によってそれぞれである面を垣間見たように思いました。

チームリーダーの教科書

2006-01-08 | 雑記
掲題の本を読みました(藤巻幸夫著、インデックスコミュニケーションズ)。
非常に分かりやすく、良書だと思います。
感心(感動?)しました。

「リーダーシップ」の実践をうたう類書は世の中にたくさんあると思いますが、この本は最高の部類のうちの一冊だと思います。
起業にせよ、組織の中で自分の事業を立ち上げるにせよ、夢/思いを軸に人を巻き込み、軌道修正し、鼓舞し、次のリーダーを育てる。
普遍的に使える内容がコンパクトに読みやすくまとまっていますね。

アメリカにもこういうハウツー本は大量にありそうですが、ビジネススクールで一冊まともに取り上げられることはまずありません。
アメリカでは一流の学者が噛み砕いて分かりやすくしたハウツー本を出している例が多く、もちろんそれはビジネススクールでも扱います。
といっても学術論文からの出典の有無など、実務者の経験的ハウツー本とは質的にかなり違います。

そういうのを除いた、純粋に実務者のものがあまり出てこなかった気がします。
(「バカでも分かるリーダーシップ」とか「この本を読めば三日であなたもリーダーに」とか、その類の本)
もしかしたら、日本で最近出ているこうした経験ハウツー本の上位のものは、執筆者のレベル(実務できちんと成功しているまともなビジネスマンが書いている)も含め、世界的にも高いレベルかもしれないとちょっと思いました。

欧米のビジネススクールだと、こうした内容はケーススタディで勉強されます。
過去の実在の会社のビジネスマン(現在は経営者だったりする)を主人公に、どんなシチュエーションでどんな苦労をしたか状況描写が教材。
で、それを元に「あなたならどうすべきか」を準備して議論する、という流れ。
座学としてはベストを尽くしている、という感じですが、掲題の本のようにもっと分かりやすくしっくりくる言葉で要点がまとめられた本でもあれば、参考になった気はします。

もっとも、ビジネススクールの本当の学びは

+議論の中身
=日本人からすると信じられないような意見がぽんぽん出るし、予定調和的に収束しない



+ケースを準備する学生チームの中の軋轢/主導権争い
=スクールがわざと課題を過剰に与え、チームに意見の対立/軋轢が生じてその経験からチームダイナミクスを学べるように意図されている

にありますが。
結局藤巻さんの本も、あれこれ経験があってそれと照らし合わて初めて、面白いと思うのかもしれません。

<25-3>感情をきちんと伝えるには?(3)

2006-01-07 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
前回は、感情をきちんと伝える難しさとその弊害をおさらいしました。
今回は、感情をきちんと伝えるために必要な、「互いに学びあう会話」を実現するために必要な考え方を見ていきます。

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感情をうまく伝えられず、しこりの残る会話をしてしまう。
結果として相手の言うなりになってしまっている。
そんな場合のつまずきのポイントは、大きく3つにまとめられます。
一つずつ順に見ていきましょう。


ポイント1:事実認識

(1)一番広く見られる過ちが、「私は必要な情報を全て持っていて、状況を全て分かっている」という互いの過信です。

必要なことが自分の側で全部分っており、物事の背景や原因も正確に認識しているという前提に立って、物事を考えるわけです。
そうなれば当然、正しい情報に基づく自分の判断こそ正当である、ということを相手に説得し分らせる目的で会話を進めることになります。

「正しいこと」を互いに押し付け合う会話となると、当然感情的なヒートアップが避けられません。
「何でこんな当たり前の真理が分らないのか」とフラストレーションがたまる一方、相手は相手で「間違った」主張を押し付けてくるからです。
またそうした言い争いでは、声の大きさや図々しさ、さらには物理的な力で論争の勝負がついてしまうことが多々あるでしょう。

しかしながら多くの場合、必要な情報を完全に把握することは困難です。
相手の側には向こうにしか知りえない背景事情があるものですし、同じ事実を見てもそれをどう判断するかは人によって認識がばらつくことがあって当然だからです。

例えば前回出した事例で言えば、こんな認識のズレがあるかもしれません。

(Bさんの事実認識)
Aさんは遊びにいくために授業をサボって私にノートの代書を頼んだ。
その上今も自分だけ週末を楽しもうとノートの清書を押し付けてこの場を去ろうとしている。

(Aさんの事実認識)
世話になっている下宿の大家さんが病気で倒れたので看病のためやむを得ず授業を休み、Bさんにノートの代書を頼んだ。
今日も薬局に依頼していた薬を大家さんの代わりに取りに行くので、あとはBさんに任せて早くこの場は切り上げたい。

こうした背景を共有できていれば、Bさんの感情や対応もまた違ったものになっていたかもしれませんし、Aさんからしてももっと容易にノートを頼むことができたでしょう。

(2)また上記から派生する誤った前提として、相手の意図の理解には特に注意すべきです。

要は、「私は相手がどういうつもりでこう言ったか、その意図も分っている」という過信です。
相手の意図が分っているという前提に立つと、「相手の意図や行動が適切でないことを思い知らせる」ことが会話の目的になってしまいます。

例えば前回の事例で言えば、こんなすれ違いがあるかもしれません。

(Aさんの意図に対するBさんの推測)
Aは帰国子女だから英語の授業のノートもすらすら取れるかもしれないが、こっちは初めての海外留学で、ノート一つ取るのにも苦労している。
そんな苦労も知らず、「ノートがきちんと取れていない」と言って、自分の優越感を示そうとしている。

(Aさんの意図)
Bさんはまだ語学力が低いから、ノートもこんなものだろう。
でもあえて厳しく扱ってもっと上にチャレンジしてもらうことで、早く上達してもらいたい。
ノートの清書も英語を分りやすく書く良い練習になるだろう。

人間誰しも、自分がどんな意図で行動しているか、相手の行動が自分の目にどう映ったか、は把握することが出来ます。
しかし、相手がどういうつもりでそう発言したのか、またこちらが言ったことに対して相手がどう思ったかは、分ったつもりでも正確に把握することは困難です。
また間違った理解を前提に話を進めると、さらに誤解が増していくのも厄介な問題です。

(3)さらに感情がヒートアップしてくると、もう一つの大きなチャレンジが訪れます。
すなわち、「この問題については全部相手が悪い」という前提で考えてしまうことです。

前回の事例で言えば、Bさんは「全てAさんが身勝手だから悪い」と腹の中で考えているようです。
こうしたゼロかイチかという考え方はすっきりしていて、確かにその場の苛立ちを抑えるのには役立ちます。
しかし互いの間で問題を解決する上では、対立をあおるだけで生産的とは言えないでしょう。
満足のいかない状況に対して、「互いにいくばくかずつは責任があるはずだ」という考え方で解決を探る必要があるでしょう。

事実認識の誤解に対して注意すべき点をまとめると、

(1) 互いの持っている背景情報を共有する。どう状況を理解したか、その理由も含めて。

(2) 自分の意図、相手の行動が自分にどんなインパクトを与えたか伝える。同時に、相手の意図、自分の行動が相手に与えたインパクトも教えてもらう

(3) 互いのどの行動がどう状況の悪化に寄与したか共有する。一方だけの行動でなく必ず両者の行動を含めて。

といった点が挙げられるでしょう。
「互いに学びあう会話」とは、このようにお互いのストーリーを批評抜きにまずテーブルの上に出すことから始まります。
ここまで進めて初めて、「何が起こっていたのか」について共通理解が生まれると言えるでしょう。

より広く言えば、事実認識に関して必要なのは、「どちらの側が考えているよりも、状況はもっと複雑で微妙である」ことを前提として受け入れることかもしれません。

(第25回続く)

<25-2>感情をきちんと伝えるには?(2)

2006-01-06 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
さて、BさんはどうすればAさんともっと上手にコミュニケーションができるのでしょうか?

例の場合でも、また一般的にも、後味が悪く納得のいかないコミュニケーションでは、ホンネの感情が伝え切れていないことがあります。
例に挙げた会話にしても、Bさんが口にしていなくても、ホンネで感じていることは別にあるでしょう。
もし例の会話にBさんのホンネを補足したら、具体的には次のようになるかもしれません。


<例(Bさんのホンネ)>

A「折角のノートだけど、この最後の10枚は速記し過ぎて読めない部分があるね。」
B「ちょっと待ってよ。確かに完璧なノートじゃないかもしれないけど、大筋の部分は読めるだろう?教授が話すことを書き留めるのでやっとなんだから」

(読めないだって?どうしても読めないほど汚い字じゃないだろう。話し言葉を書き言葉に直しているんだから、そこまで綺麗に書けるはずもない。Aは帰国子女だから英語の授業のノートもすらすら取れるかもしれないが、こっちは初めての海外留学で、ノート一つ取るのにも苦労してるんだ。そもそも、頼まれたことをわざわざやってあげたのに「ありがとう」の一言もないのか?)

A「いつもならそれでも問題ないよ。だけど、今回はレポートを書いて出さなきゃいけないじゃないか。しかも期限は明後日の月曜日。この10枚がレポートを書くのに一番重要な部分だろう?」
B「まあ、それはそうだよ。だけど…」

(レポートの期限が迫ってるのは確かにその通りだ。でもそもそもこっちのノートがなければ、レポートも書きようがないじゃないか。感謝の言葉は無いのか?)

A「だったら悪いけど、この10枚をタイプして読めるようにして送ってよ。今日中に。それから僕が急いでレポートを書いて、まあギリギリだな」
B「そんなこと言ったって…」

(次々たたみかけてくるけど、少しはこっちの気持ちも考えろ)

A「ノートは読めなきゃノートじゃないよ。僕はタイピストじゃないし、第一このノートは僕には細かい所が読めないから清書しようがない。じゃあ、僕は用があるからこれで。ノートは今日中に必ず、ね」

(Aは俺のことを専属のタイピストか何かだと考えていたのか?俺たちは対等な友人同士じゃないのか?
こいつはいつもこうだ。自分のペースで事を進めて、他人の意見など聞く耳を持たない。ここでああだこうだ文句を言ってもどうせ聞かないだろうから、今日は我慢して作業してやろう。でも今後は二度とAのためにノートなんかとってやらないぞ…)


納得のいかない会話や、難しいコミュニケーションの多くは、ホンネの感情を伝えることにつまづいています。
この例の場合を見ても、AさんにはBさんの感情がうまく伝わっていないようです。
もしAさんがもう少しBさんの事情に配慮を見せて、話を聞いて、「申し訳ないけどお願いする」姿勢を見せていたら、Bさんの満足度も違ったかもしれません。
それにBさんがAさんにそうした配慮をさせることができていたら、Bさんは無理に時間を作ってノートを清書させられずにすむかもしれません。
AさんとBさんの会話も、広い目で見ればノートを清書する負担を巡る交渉です。感情を上手に伝え相手に配慮を強いることは、交渉結果にも影響を及ぼし得るのです。

では、どうしたらホンネの感情を効果的に伝えられるのでしょうか。

注意しなければならないのは、単にストレートに思いをぶつけたところで、成功するとは限らないことです。
例のケースで、Bさんが括弧の中のセリフをそのまま口にしたらどうなるでしょう。
もしかしたらAさんも怒り出し、今まで以上の勢いでBさんに自分の都合をまくしたててくるかもしれません。
真っ向から立ち向かうことも時には必要ですが、できれば摩擦を回避して関係も好転させながら、感情を伝え合うのが理想です。

そのために必要な考え方は、対立する会話で無く互いに学びあう会話を目指すことです。
次回は相互に学びあう会話をするためにどうすれば良いか、を順を追って考えていきたいと思います。